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10−2 お茶会

 女性の声に、皆が同じ方向へ振り向いた。

 その人の雰囲気にアンリエットはすぐに礼を執る。


「面白い話をしているのね」

「王妃様」

「ドロテーア、我が国の女性騎士や魔法使いを、知らないとでも言うのかしら」

「いえ、滅相もございません。ただ私は、デラフォア令嬢のようなか弱そうな女性が、魔法討伐などという危険な仕事をなさっているとは思いもしなかったのです。それで驚いてしまい」

「あら、そうなのね。確かにとてもか弱そうに見えるけれど、あなたの精神力はそのようには見えないわね。アンリエット。顔を上げなさい」

「この度はご招待をいただき、ありがたく存じます」

「かしこまらなくて良いわ。ふふ。幼い頃に会っているのだけれど、まだ小さかったから覚えていないかもしれないわね。座ってちょうだい。来てくれて嬉しいわ」


 王妃はかわいらしく笑って、アンリエットを席に促す。他の令嬢たちも示すように席に寄って、王妃が座るとその席についた。


「大勢招待したものだから、部屋の中では息苦しいと思い外にしてみたのだけれど、花が多すぎたせいでドレスを汚した人はいなかったかしら。そうならないように、庭師には花粉の少ない花を植えさせましょう」


 王妃はどこで聞いていたのか、花粉についてふれる。花の花粉など気を付ければ良いと思うのだが。

 間違って令嬢のドレスに花粉が付いては、恥をかいてしまうかもしれない。庭園で茶会を行うのならば仕方のないことだ。そう言って王妃は微笑む。


 大きな声で話しすぎたのだろう。衣装が汚れてはと思い声が大きくなってしまったことは、反省しないといけない。アンリエットの周りには男性が多く、討伐などで声を張り上げることも多いのだ。王妃に余計な気を遣わせてしまったかもしれない。

 そう考えていると、王妃がアンリエットを細目で見て、にこりと微笑んだ。


「ドレスが汚れなくて良かったわ。アンリエット、あなたは後ろに目があるようね」

「周囲の動きは気配でわかりますので」


 これも修行の賜物か。王太子代理となり、危険が増したため、剣や魔法の鍛錬は欠かさず行なっていた。その中でも魔法で周りの気配を感じられるように、常に魔法で体を包む方法を行ってきた。その癖は抜けておらず、自然と魔力で自身をガードしている。おかげで前後左右、見ていなくても誰がどんな動きをしているのか感じることができた。


「あなたは多才ね。それだけの努力を行なってきたのでしょう。あなたが執務を手伝うことになって、ヴィクトルの仕事が随分軽くなってきていると、トビアスが喜んでいたわ」

「そのように言ってくださるとは、お仕事に携わらせていただいた甲斐がございます」

「とても意欲的に働いていると聞いているわ」

「楽しく働かせていただいております」


 やりがいのある仕事だ。暇を持て余していたこともあるが、何かに貢献していると安心する。王太子代理の仕事を続けてきたせいか、頭が仕事脳になっているのかもしれない。しかし、それが落ち着く。

(子供の頃から暇なく動いてきたせいかしら。でもそれで褒めてもらえるのならば嬉しいわ)


「王太子殿下の執務に女性が関わるのは初めてですわよね。私たちはとても驚いております」

 一人の令嬢が発言すると、他の令嬢たちも頷く。先ほどドロテーアも言っていたが、ヴィクトルが女性を部下に置くのは珍しいようだ。能力に関わらず人を使いそうなのに。


 シメオンの紹介がなければ、アンリエットも働くことはなかっただろう。そういった繋がりのお陰かもしれない。

 アンリエットは自分の能力で執務の手伝いができているわけではないのだと、心に留めておく。勘違いしてはいけない。実力を認めてもらうのは、仕事を認めてもらってからだ。心の中で自らを戒めていると、他の令嬢たちも話に入ってきた。ドロテーアの友人たちだ。


「デラフォア令嬢は他国で王太子代理をなさっていたのですもの。当然でしょうか」

「私もお役に立てるのか不安でしたが、親切に教えてくださるので、なんとか仕事を進められるようになりました。代理の仕事と変わらないところもあり、似通った内容もありますから、もっとお役に立てるように頑張っているところです」

「殿方と同じように机を並べてお仕事をするなんて、慣れていらっしゃるだけありますわ」

「はい。それが私の仕事でしたから」


 クライエン王国には女性の政務官はいるはずだが、彼女たちは珍しいと言わんばかりのことばかり言う。アンリエットの勘違いであっただろうか。多くはないが、少なくもない。しかし、スファルツ王国に比べたら余程多い。


「近頃女性が家門を継ぐことも増えてきましたからね。良い傾向だと思うわ。能力のある方が台頭してくることは、国のレベルが上がるということ。年功序列、しかも男性だけというだけで、能力の低い者が家門を継いでも、家を没落させるだけでしょう。もちろん、デラフォア家はお兄様も優秀ね」

「恐縮です」

「女性人気がすごいのよ。彼も婚約をしないので、私たちのような大人はやきもきするのだけれど」


 王妃はため息を吐く。ヴィクトルのことを言っているのだろう。ドロテーアは婚約者候補で、候補のまま。他にも候補はいるはずだが、アンリエットは知らない。王妃だけでなく、候補者たちもやきもきしているだろう。ヴィクトルは二十歳になるはずだ。いい加減相手を決めるべきだと思うのも当然の年である。

 そういえば、シメオンの婚約話も聞いたことがなかった。


(お兄様の婚約は聞いたことないけれど、殿下もどうして婚約を嫌がるのかしら。一つの家門を贔屓したくないとか?)


 エダンも、王太子代理の婚約者となり、その影響は大きかったと聞いている。

 伯父マルスランの側近だった者たちは、マルスランが行方不明になったことで厳しい罰を与えられたため、名のある家門が王の側から排除された。討伐に参加していなかったエダンの父親にその影響はなく、残った中でも名家として名高かったため、エダンがアンリエットの相手に選ばれたのだ。アンリエットに年の近い子供があまり多くなかったことと、エダンが子供の頃から優秀だったからだと聞いている。


 その通り、エダンは幼い頃から隙のない落ち着きのある子で、教養のある子供だった。選ばれて当然の能力の持ち主。だからエダンが王太子マルスランの娘の相手になるのは当然のこと。アンリエットのような偽者ではなく、王太子の娘である女性の婚約者に代わることは、理解できるのだ。

 そのために婚約者に選ばれたのだと、本人が言っていたのを思い出す。


(お前である必要はないと、面と向かって言われたこともあるものね)

 出会った時、すでにそんなことを言われた。悔しく思うのならば、それなりの成果を出すこと。努力すること。しないのならば、すぐに去るべきだと。


 エダンは人に厳しいが、己にも厳しい人だ。隣に立つことになり、王太子代理としてそれなりの成果を出せればと思ったけれど、替えが現れれば、やはり捨てられてしまった。

 長年一緒にいて心が通じ合えているのかと思っていたけれど、彼の根本は変わっていなかったのだと思い知らされる。


(仕方のないことなのよね。今まで言われていたことだわ)


 王太子の娘が見つかったと、話してくれればよかったのにと思いながら、話されても同じであることかとも思う。エダンが王配を望む理由は教えてもらえなかったが、王の所業に苛立っているのは知っていた。

 王は王であることに誇りを持ちながら、その権利を行使しながら民を顧みない。エダンも民を憂えるような雰囲気はないが、マルスランの側近たちが罰せられ、家門を失った者たちを幼い頃に見て、ああはなるまいと誓ったそうだ。そこに、親しくしていた兄のような人がいたからだと聞いたことがある。


 努力だけではどうにもならないことがある。だから、彼は王配という立場に光を見たのだろう。


「――――で見かけたのよ。勉学に勤しんでいるようでした。良く努力しているようね」

(話を聞いていなかったわ。集中しなければ)

 話はすでに別の話題に入っており、王妃がドロテーアの関係者を誉めているようだった。


「まあ、お恥ずかしいですわ。そのように王妃様に仰っていただけるなんて。弟に王妃様のお言葉を伝えておきます」

「教授たちから話に上がるくらいですよ。素晴らしいことです」


 ドロテーアには弟がいるようだ。弟が褒められたのならアンリエットであれば喜んでしまうが、ドロテーアは微笑むだけに留めていた。そこまで嬉しそうに見えない。気になるのはそれだけでなく、ヴィクトルからドロテーアの紹介を受けた後、アンリエットは家門が記された書籍を読んだが、ドロテーアは一人娘だった。それなのに、弟とは?


 茶会に来てみないと、わからない人間関係が多々ある。どの人がどの家門で、どんなことをしているのか、興味があるのか。その家が行っていること、その携わり方。王族との繋がり。記憶はしていても漏れはある。茶会という情報を得る場所で、ぼうっとしている訳にはいかない。


 時折、エダンのことを思い出してしまい、その場から意識が遠のいてしまうことがある。今さらなことなのだから、気を引き締めていかなければならないのに。

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