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無農薬グラタン栽培

「新鮮なグラタンだっぺよー」


 グラタンが地面から顔を出す。


 無農薬に拘った、オーガニックグラタン。

 略してオガタン。


 地面にマカロニを植え、定期的にホワイトソースを垂れ流すだけで、簡単に芽が出ます。


 初心者でも簡単に栽培に挑戦できるため、子供の自由研究にはもってこいである。


「朝採れたてのしじみそばグラタンだっぺよー」


 自分の店の前で客を呼び込むおじさんが1人。

 名を、小倉おぐら 丹兵衛たんべえという。


 小さな村から出てきた彼は、東京のスクランブル交差点の真ん中でしじみそばグラタンを売っている。


「1つください」


「私にも1つ」


「はいよ! まいどありぃ!」


 飛ぶように売れるしじみそばグラタンであったが、丹兵衛はあまり気が進まなかった。


 夜になって家に帰った丹兵衛は、ポケットからランボルギーニのキーを取り出し、カッシーナのソファに腰を落とす。


「売れすぎやろ」


 丹兵衛はあまりの売れ行きに、むしろドン引きであった。

 村に少しのお金を持ち帰ること、それだけでよかったのが1年でこれである。


 あまりの稼ぎに、逆に帰りづらくなってしまったのだ。


「どうすっぺかなー」


 シャトー・ラトゥールを傾ける丹兵衛は、60階から見える東京の夜景をぼんやりと眺めていた。


 ディナーはコンビニのお弁当。

 初心を忘れないように、丹兵衛は食へのこだわりを一切捨てたのである。


 飲み物は、また別である。


「チキン南蛮が1番美味いっぺなー!」


 丹兵衛は弁当にガッ付きながら、200インチLEDテレビで映画を見ていた。


 貧乏人が苦労して、無事成功を収めるという内容の映画である。


 丹兵衛の方が成功している。


「リアリティが無いっぺ」


 渋い顔でそっとテレビの電源を、部屋に内蔵された音声認識システムで消した丹兵衛は、そのまま寝室に向かう。


 ダブルキングサイズのベッドに横になる丹兵衛は、天井に意味もなく手をかざす。

 そのまま虚空を握る。


「手に入るもん、全部手に入れてしまったべ」


 心に穴の空いたような丹兵衛は、明日の売れ行きに怯える生活であった。


 また稼いでしまう。

 また儲けてしまう。

 また、帰りづらくなってしまう。


 そんな時、丹兵衛はふと思った。


「そういや、東京さ来てから、しじみそばグラタン、食べたことないっペ」


 地元の味を、故郷の香りを、丹兵衛はしばらく忘れていた。


 母親の愛情、村人との絆、丹兵衛は思い出したくなった。


 急いでキッチンに向かい、シェフを300万で雇い、100万分の材料を注文し、200万したイスに腰掛ける。


 シェフは豪快にフランベし、丹兵衛は目を輝かせてじっと見ていた。


「高級しじみそばグラタン~故郷の香り添えです~」


「村では200円ほどの価値しか無かったものだべ……」


 丹兵衛は150万のナイフと420万のフォークを手に持ち、しかしグラタンはこれでは食べづらいと、670万のスプーンに持ち替えた。


 2000万したグリル皿に乗った400万分の故郷の味を、丹兵衛はゆっくりと口に運んだ。


「まず。豚の餌だべ。普通のグラタンでいいっぺよ」


 400万分の故郷の味は、380万分程残り、600万のゴミ箱へと、住処を変えたのであった。


 丹兵衛はというと……。


「ロスに引っ越すべか」


 まだまだ稼ぐのであった。

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