NTRグラタン
「だめよ、ブロッコリーさん。私にはマカロニさんが……」
「いいだろ? あんなふにゃんふにゃんなやつより、芯のある俺がエスコートしてあげるから……」
白いベッドの上で、くんずほぐれつのグラタンとブロッコリー。
マカロニが外出していることをいい事に、団地の隣人であるブロッコリーは押し掛けた。
ブロッコリーの中のグラタン愛が、脳内のブレーキシステムをショートさせたのだ。
グラタンは、被害者であり罪悪感もあるが、ブロッコリーのブロッコリーすぎるテクニックに、それはそれで蕩けるチーズであった。
イケない2人の交わりに、グラタンはホワイトソースしそうになる。
「あぁ、ブロッコリーさん!」
「グラタン! 俺と1つになるんだ……!」
そんな時だった。
ベランダからダイナミックエントリーしてきたヒーローが1人。
我らが正義の味方、しいたけである。
「まだホワイトソースするには早いぞ!」
突き破られた窓から抜ける風で、しいたけのマントは靡いている。
「だ、誰だ貴様!」
「さっき文章で説明したはずだ!」
しいたけはブロッコリーの胸ぐらを掴みたいが、胸ぐらがよく分からないので、茎の部分にそっと手を当てた。
ブロッコリーの茎の部分には、小さなブロッコリーが1本ブロッコリーしている。
なんとも卑猥である。
「不倫は絶対に許さない!」
「これは俺の愛だ! ブロッコリーがグラタンを愛して何が悪い!」
「悪い!」
その後の言葉を待ったブロッコリーであったが、しいたけはその3文字だけを言い終わって立ちはだかる。
理由は? と思ったブロッコリー。
その傍で、布団で身を隠すグラタン。
激突は必至であった。
「なめんじゃねえぞ!」
ブロッコリーはしいたけに殴りかかった。
しいたけは直接その拳を顔で受け止める。
怯むこともなく、ノーダメージでしいたけは依然としている。
その様子にブロッコリーは後ずさろうとするが、ベッドが背後にあって下がることが出来ない。
「気は済んだか?」
「え?」
「気は済んだかと聞いているのだ」
ブロッコリーにはしいたけの質問の意味が理解できない。
それでも放つ覇気にやられるブロッコリーは、背中からベッドに落ちる。
「不倫、それは性欲の活動限界だ。何かでいっぱいいっぱいだからこそ、欲を満たしたくなったのだろう? それがたまたま不倫を選んでしまっただけなのだ」
「いや、普通に好きだから」
「違う!」
……。
やはり、いくら待ってもその言葉の先には何も無い。
ブロッコリーはこのしいたけがよく分からない様子である。
「しいたけさん、ブロッコリーさんは悪くないわ」
泣きそうなブロッコリーの横で、布団で身を隠していたグラタンが顔を出した。
どこか恥ずかしそうでもあるが、サラッとした顔つきでもあった。
罪悪感を、抱いていないように見えた。
「私が、ブロッコリーさんを求めてたの」
「……どういうことだ?」
「マカロニさんは、確かに優しかったわ。何にでも賛成してくれたし、私のために本当に尽くしてくれたわ。でも、それだけじゃだめなのよ……」
「蕩け……か」
グラタンは蕩けるような恋が望みであった。
優しくされるだけでは満たされない何かが、グラタンの中のモノを熱くさせたのだ。
湯気を出すようなその甘じょっぱい背徳感が、グラタンをブロッコリーよりもブロッコリーにしてしまった。
それが例え、愛という名の迷路の中であっても。
「本人の意思ならば、仕方がない」
しいたけは壊れた窓から出ていこうとする。
「待って!」
グラタンはしいたけを呼び止めた。
「不倫は犯罪じゃない。でも、あなたは確かに罪を犯してしまったわ」
「私は正義の味方、つまりヒーローだ。正義とは、誰かを止めることじゃなくて、誰かを目覚めさせること。それでも、あなたの気持ちには答え……」
「いや、窓、壊したでしょ?」
「あ」
不倫ハンターしいたけ、彼は毎日終わることの無い戦いと向き合っている。
人の業というものは、一度の過ちをさらに加速させてしまう依存の怪物。
そんな世界でも、器物破損および不法侵入は、不倫よりもちゃんとした犯罪であることを、皆は帰ってお父さんとお母さんに教えてあげようね。
「はーい!」
「正義の味方しいたけマン! これにておしまいでーす! 皆、また会おうねー!」
ヒーローショーの垂れ幕は閉じた。