地球外グラタン
「大変です局長! 空から大量の謎の物体が物凄い速さで地球に向かってきています!」
「なに!? 映像を見せろ!」
「こ、これは……!」
グラタンだった。
地球に向かって、アツアツのグラタンが秒速230キロメールで向かっている。
大きさは地球の3分の1、数はおよそ5000。
このままでは、地球はドロドロになってしまう。
global light turning 略してグラタンと呼ばれる組織は、この騒動を隠密に解決しなければならない。
その理由は……。
「各国首脳に至急繋げるんだ!」
「ダメです! 全世界から『turn light』という文だけ送られてきます! どういう意味ですか局長!」
「それは『かえれ』という意味だ!」
こういう事になるからである。
地球は地球外グラタンによって5度侵略の危機に陥ったことを、歴史の中では説き伏せられていたであろう。
そのため教科書や資料は一切なく、しかしその歴史は紀元前からあったと、マカローニ博士が記したことは周知の事実である。
「地球衝突まであと10分! いったいどうすれば!」
「仕方がない……。《《アレ》》を使うぞ!」
「《《アレ》》ですか……!」
昔から地球にグラタンが向かってくる時には、マカロニを発射して何とか撃ち落としてきた。
しかし、物価高騰のためにマカロニの支給が間に合っておらず、5000ものグラタンを迎撃するには最終兵器を投入しなければならなかった。
それが、マカロ2号である。
マカロニをヤケになってかき集めて作った、巨大な一本のマカロニ。
マカロ1号は多方面から「アホ」と言われたために、なくなく処分する他なかった。
それでも諦めの付かなかった組織は、秘密裏にマカロ2号の制作に40年を費やした。
おそらく歴史上で最も無駄な時間とコストと呼ばれることは必然である。
局長は蓋のされた発射ボタンを前に、前方のモニターで迫り来るグラタンを確認する。
地球がドロドロになることは、何としても防がなければならない。
「局長! どうするんですか!」
「マカロ2号は……まだ未完成なのだ……」
マカロ2号には5億本のマカロニが必要であったが、4億程しか現状集まっていなかった。
未完成のマカロ2号を飛ばすことは、地球を滅ぼしかねないリスクを伴っている。
局長が頭を悩ませているその時、1人の社員が自作のお弁当を取り出した。
弁当に入っていたマカロニサラダのマカロニを箸でつかみ、天高くその場で掲げて見せた。
「マカロニなら、ここにあります!」
それに続くように、周りの社員たちは自分の弁当を取り出し、同じようにマカロニを天に掲げた。
「おまえら……」
局長は出てくる涙を必死にこらえ、社員たちのマカロニをかき集めマカロ2号に取り付ける。
それでも本数は圧倒的に足りないが、決断の時はグラタンよりも早くに迫っていた。
「局長……!」
「やむを得ん! 私のたこさんウィンナーを最後に付け足し、マカロ2号を打ち上げる!」
先っぽに取り付けられた、たこさんウィンナーはマカロ2号の発射とともに地上へ落下した。
加えて、マカロニの接着が甘かったのか、マカロ2号は空中で爆破。
多段式拡散ミサイルのように、マカロニはそれぞれが単独で空に舞い上がってしまった。
「あぁ! だから接着剤はマヨネーズをもう少し足すべきだったのだ!」
「諦めるのはまだ早いですよ局長! 見てくださいアレを!」
空中ではなんと、ホーミングミサイルのように、自立したマカロニたちが次々にグラタンへ向かっていく。
5000ものグラタンに対し、4億と30本のマカロニが挑む姿に、組織の全員が涙した。
空中で爆破し続けるマカロニを、ただ信じて祈るしかない。
そして、その祈りはあと1つのグラタンを残して散ってしまった。
「あと1つだったのに……!」
「……いや、私はまだ諦めんぞ!」
「局長……!」
たこさんウィンナーを拾い上げた局長は、そのまま迫り来るグラタンに向かって投げつけた。
地球激突まで、およそ30秒のところであった。
加速するたこさんウィンナーは火を噴出し、空に白い筋を残した。
グラタンは、無事全て撃退することに成功したのであった。
「やりました局長!」
「さあ、後はお片付けだ!」
空中で撃破されたグラタンのホワイトソースは、地球をドロドロにしてしまった。
それでも、被害は最小限に抑えられた。
組織グラタンは、特に世間から評価はされることはなかった。
誰1人、誇りに思うことは無かったのである。
「……転職しよ」
局長は、静かにオフィスを後にした。