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幕末グラタン

「む。なにやつ」

「あつあつだ」


 武士の往来が絶えぬ江戸の時代。


 辻斬りの現れに、1人の髷グラタンサムライは刀を抜く。


 1対1の真剣勝負、朧月夜の畔の道。


 グラタンを頭に乗せた2人は慎重に呼吸する。

 少しの振動が、グラタンを揺らす、これすなわち【髷の揺れ】に繋がるからである。


 髷の揺れは、心の乱れ、相手に目に見えた隙を与えることと同じ。


「さて、儂はグラタンを地面に置かせてもらおう!」


「む。貴様、それでも髷グラタンサムライか!」


 髷グラタンサムライがグラタンを地面に置くことは、背中に傷を負うことより恥。


 零さず騒がず、精神を統一して頭に乗せ続ける、これが髷グラタンサムライの信念である。


 信念を曲げるものは心、グラタンに非ず。


 辻斬りとなった髷グラタンサムライは、その信念に微塵も興味が無い。


 グラタンを1度地面に置いたが最後、二度と髷グラタンサムライには戻れないのだ。


「勝負というものは有利であるからこそ面白いのだ」


「む。その考え、あの世で悔いると良い」


 髷グラタンサムライは、自分の名、神楽かぐら 丹十郎たんじゅうろうを名乗り腰を落とす。


 居合の構えである。


 丹十郎はグラタンを零さぬ修行の末、受けの戦術を極めた数少ない髷グラタンサムライである。


 グラタン四天王、その一角である。


「いざ、参る!」


「む。掛かってこい!」


 辻斬りは、刀を頭上に真っ直ぐ一本の線のように構える。

 これは、髷グラタンサムライが絶対にやらぬドリアの構え。


 グラタンを零すリスクが、高まってしまうからだ。

 単純に邪魔という説もある。


「でやぁ!」


「む。隙だらけでごさる」


 辻斬りは刀を上から叩きつけるように振り下ろした。


 最低限の動きで避けた丹十郎は、刀を鞘から抜いた。


 辻斬りは、腹から横一線に血を流して倒れた。


 丹十郎の髷は、少しの揺れも起こしていない。

 凪の髷、グラタン四天王であるからこその妙技である。


「……最後に……グラタンを……食べたかった……」


「む。グラタン愛が残るが故に、悲しき男であった」


 刀の鍔が、鞘に収まる音を響かせた。


 丹十郎は意識が薄れゆく辻斬りに歩み寄り、彼のグラタンをそっと口に運ぶ。


「む。あちぃでござる」


 素手で掬ったグラタンは猛烈な熱さであった。


 トロトロのグラタンは、丹十郎の手からするりと零れ落ち、辻斬りの眼球に直撃。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁああす!」

 それが、彼の最期であった。


「む。思わぬトドメを刺してしもうた」


 丹十郎は自分の髷を整え、再び歩き出した。

 グラタン四天王はいつでも命を狙われる。


 強き者の、運命グラタンなのである。


 これが幕末グラタン物語。

 歴史の資料としてはまだ見つかっていない、おそらくきっともしかしたら、存在していたかもしれないワールド。


 髷グラタンサムライの旅、それは、まだまだ続いていくのであった。


「む。なにやつ」

「げきあつだ」

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