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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第六章 恋敵クライマックス

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74.彼の吐息と想いを胸に

「七瀬がそんなにいいのかよ? 他の女子と簡単にキスする男だぞ!!」


 そんなの全然簡単じゃない。


 だってアレは七瀬の油断だし、具合を悪くした七瀬が油断しただけ。()()()()()があってから七瀬はわたしの為に体を鍛えていて、体調を崩さなくなっている。


「綾希……」

「――やっ!?」


 七瀬にすぐにでも会いたいと思っていた一瞬の油断――それが決定的だった。


 こんなこと、なんて言えばいいの? 


 わたしの唇が汚されるなんて、そんなの思うはずもなくて。沙奈とのキスのことももう言えなくなるし、そんな資格ももうないじゃない。


「オレは綾希だけしか好きにならねえし。お前への気持ちを示すためにやったから悪いとも思ってない。お前だって俺のこと――」


 信じられない、最低すぎる。


「無理、絶対無理!! もういい! わたしに付きまとわないで!!」

「あっ、おい!?」


 気付いたら何もかもを教室に置いたまま、雨が降り続く外に向かって走り出していた。元彼にされてしまったコトを雨で洗い流したい、全て流してしまいたくて、多分後にも先にもこんなに全力で走ったことがないってくらい走っていた。


「七瀬、ごめんね。わたし、七瀬以外の男にキスされた……」


 後ろも振り向くことなく雨の中をずっと訳も分からずに走り続けている、それだけで、失恋映画で走る場面を自分に照らし合わせてしまう。


 自分の場合、失恋じゃなくて油断と後悔と悲しみだけど。




「ウチ、七瀬のことがずっと好きだったんだ。だからウチと……」


 わたしが走っている中、七瀬は教室で告白を受けていた。


「……悪いけど、俺が好きな女子は綾希だけだ。だから誰の告白も受け付けない。それに、綾希に心無いことを言う女子は大嫌いなんでね。もう構わないでくれるか?」

「――え」

「いつも綾希のこと見てるから分かるんだよ。あいつ、最近元気ないし落ち込んでたし、そういう風にした奴は男でも女子でも許すつもりなんてない。途中から隙を狙ってきたことくらいバレバレだ。さっきの授業だってそうだろ? そんなわけだから、付き合いたくないし付き合えない」

「……あ」


 ……七瀬の方も色々あったみたいだけど、わたしはどこに向かえばいいのか分からずに、ひたすら雨に濡れたままでそんなに早くもない足を動かし続けていた。


「はぁはぁはぁっ。……七瀬輔、まだいるか?」


 教室に戻って来た宇月世が息を切らせながら七瀬に声をかける。


「お前は……! 確か、綾希と会ってたんだよな? 綾希はどこにいるんだ?」

「……あいつ、外に走っていっちまった。悪ぃ、目を離した隙に……」

「――まさかお前、綾希を泣かせたのか?」


 七瀬から目を背ける宇月を見て、七瀬は宇月に迫って問い詰めた。


「いやっ、それは……」

「ふざけんな! あいつは滅多にそんな意味のないことしない奴なんだよ! しかもこんな雨の中を走っていくとかあり得ねえし!」


 七瀬が声を張り上げると、その様子に気づいた雪乃がすぐに七瀬に声をかける。


「七瀬くん、あやきちを頼みます! カバンとか後で持っていくから」

「泉。任せた」


 教室の中には七瀬と雪乃たちがわたしを待っていたらしく、帰らずに残っていた。そんな中、七瀬だけがわたしを追いかけ、傘も差さずに外へと出て行く。


「えーと、綾希ちゃんの元彼の宇月君だっけ? もう関わらないで欲しいかな。そうじゃないと、七瀬くんが本気で怖くなるし私も怒りたくなるから」

「……ごめんなさい」


 外へ走り出してからそんなに時間が経った感じはしなかったけれど、大粒の雨に全身を濡らしながら走っているだけでこんなにも体が冷えるとは思わなくて、ずぶ濡れの全身がとてつもなく重たくなってきた。

 

 でも、これだけびしょ濡れになれば唇につけられたあいつの汚れも取れるかも――なんて思っていたら流石に具合が悪くなってきたうえ、屋根も見当たらないその場で体のバランスを崩しかける。


「綾希っ!」

「んんん……?」


 そんな体を崩しかけたタイミングで、わたしの目の前に七瀬がいた。肩と腰が七瀬の手に支えられて、そのまま抱えられて近くの屋根付きバス停に避難させられていた。


「あれ、七瀬?」

「マジかよ……半端なく体が冷えてるじゃないかよ。くそっ、心配させんなよ。ちゃんと教室で待ってるって言ってただろ。何で外に走って行くんだよ」

「走りたくなった。あと、汚れたから……七瀬、ごめん」


 多分この言い方で伝わった。今思えば、やっぱり七瀬に付いててもらえば良かった。そうすればこんな気持ちになることなんてなかったのに。


 元彼がどうとかじゃなくて、わたしの油断が彼を悲しませたと思っていたらその時点で走る以外に選択肢がなかった。


「――んむっ!?」


 雨に濡れて体を震えさせていたけれど、温かい彼の手がわたしの唇をなぞったと思ったら、彼の吐息と同時にキスされていた。

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