72.別れのコトバ
「綾希」
「……ん」
「あいつにはっきり言うつもりなんだろ? 俺が一緒についててやろうか?」
七瀬にいてもらえば怖い事なんてないしどんなに聞きわけが悪くても理解するはず。だけど、きっとわたしだけでつけなくちゃいけないけじめだ。
まさかあそこまで諦めの悪い男だとは思わなかっただけに、元彼との問題はわたしひとりだけで言わなくちゃ駄目なんだ。
「いい。わたしひとりで言う。ありがと、七瀬」
「そか。綾希は意外に強いんだな。それなら俺は教室の中で大人しく待っとく。本当は別に元彼とかそこまで気にすることでもないんだけど、同じクラスにいる奴だしはっきりさせとけばもうお前に絡んでこないはずだ」
「うん」
放課後になって、ずっと気にしていた梅雨空から大粒の滴が降り出していた。七瀬は予想通り真面目に傘を持ってきているらしく、コトが済んだら一緒に帰ってくれるという約束をしてくれた。
「傘を差しながら綾希と帰るなんてあの時以来かもな」
思えば、あの出来事からわたしたちは付き合い出したことを思い出す。それでもあの時は沙奈が七瀬にしたことがずっと頭から離れられなかったけど。
でも、もうそんなことはどうでもよくて今はとにかく彼と一緒にいたいだけ。
七瀬に背中を押されてなんて、そんなに大袈裟なことでもないけれど元彼が待つ玄関に向かう。
「葛西さん。今からヨリ戻しに行くんでしょ? 世君は正直イイ人だし、きちんと返事してやれば? あなたが彼に会いに行ってる間、ウチは七瀬に告るけど」
……今さらどうでもいいんだけど。
余計な邪魔をされつつも、元彼がいる玄関に向かった。
「おっ! ちゃんと来てくれたな!」
「それはそう。ここからじゃないと外に出られない」
「まぁそうだけどさ。てか、雨降ってきたし一緒に帰ろうぜ? 俺、傘持ってきてるし。綾希は持ってきてないんだろ?」
「ない」
「だと思った。じゃ、帰ろう」
あり得ない。無理。
「残念だけど、宇月くんと帰ることは出来ません」
「何? 何か用があんの?」
予想以上に手に負えない男かもしれない。この反応だけで判断すれば、わたしとまだ付き合ってると思っているみたいだから。
告白とか以前の問題で、初めからフラれたってことを理解していない。
「ごめんなさい。わたしとあなたはただの同級生。友達でもないし、恋人でもない。だから一緒に帰るとか無理だし、そんなに気軽に話しかけられても困るんです」
「お前……オレを振ったのって、学校が離れただけのことだろ? 何となく別れただけって自分から言ってたじゃん! あれってオレ的には一時的なもんなのかなって思ってたんだぞ? そうじゃねえの?」
やっぱり曖昧なことを言ったからこうなったんだ。これはわたしの落ち度。
「全然違うし」
「じゃあ何だよ? 今はあの七瀬って奴と付き合ってんの? 沙奈って奴とキスした男なのに、そんなんでもお前付き合ってるって言えんの?」
「彼が好きだから」
わたしの七瀬への言葉に世がキレたっぽく、わたしに詰め寄ってくる。
どんなに圧をかけてきてももう無理だし諦めて欲しいって思いながら、世からの返事を待つことにした。




