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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第六章 恋敵クライマックス

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62.七瀬の想い

 前をよく見ないままズンズンと進んでいたら、七瀬の胸元に飛び込んでしばらく抱きついていた。


 ――ということは結構危なかったって意味。


「お前、俺がいなかったら今頃空にいたかもしれなかったんだぞ? 分かってんのかよ、全く」

「空を見上げたら七瀬がいたから」

「ちげーし」


 七瀬とするくだらないやり取りが好き。


 別にからかうつもりで言ってるわけじゃなくて、わたしの言葉に対し、仕方ねえなって感じで返してくれるところがあるから。


 他愛のないやり取りで、優しさを初めから出してきた人だから好きになったんだって思える。


「とりあえず、電車乗ってそこから綾希の家な」

「分かった」


 ()()()()()に空気を読まなくてもいいのに、七瀬はわたしの手に触れてこなかった。けれど、わたしの傍から離れずにいてくれた。


 多分彼なりに恥ずかしくなっていたのかも。そこがまたわたし的に可愛く思えた。


 駅に着いてからもわたしたちは沈黙したまま歩き続けている。


「席替えのことだけど、俺は何ていうか先生に頼んでたんだ。これ、オフレコな!」


 そう言って人差し指を口に当てているけど、わたしに打ち明けたらオフレコじゃない。


「特別扱いは出来ないって言われた。それが事実な。だから、別にお前と離れて良かったとかこれっぽちも思ってないから」


 それまで黙っていたというより、七瀬は我慢していた言葉を次々と言い放つ。その言葉を聞かされたからといってどうということはないけれど。


「……ん」

「あと、お前の元カレのあいつ。アレは相手にならないから気にしてないけど、綾希もそうなんだろ?」


 ()()()に対しての答えだけは確実に何度も無言で頷いた。


「だよな! 沙奈が変な事言って俺らを別れさせようとしてたらしいけど、無駄だったってわけだ」


 そういえばどうして沙奈は世のことを知っていたの?


 今さらどうでもいいことだけど気になった。


「あいつら塾が同じらしい。だからお互い知ってたってか、そこで知り合ったみたいだな。ま、よく分かんないけど波長でも合ってたんじゃねーの? その割に宇月は沙奈に相手にされてないけどな!」


 疑問を浮かべる顔が分かりやすかったのか、七瀬が答えを教えてくれた。


「うん」

「安心したか?」

「何となく?」


 それについてはわたしもいまいち断言出来ない。


「そこは断言しとけよ! まぁ、その……無駄に涙を流させてごめん。そんなつもりじゃなかった。綾希が大事すぎたんだ。だから、その……」


 優しさを大胆に出してくる割に結構不器用な人なんだ。


 わたしへのキスもわたしが認識出来るような感じじゃないし。やっぱり恥ずかしいってことなのかも。


 焦らずにわたしも七瀬もこれから……だよ。


 話しながら歩いていたらあっという間にわたしの家に着いた。家の前にはどういうわけか、遅い時間でもないのに腕組みをした兄が仁王立ちで待っていたけど。


「おそーーい!! 綾ちゃんはいつから非行少女になったんだ。お兄ちゃんは悲しいぞ!」

「七瀬、家に上がる?」


 でも堂々と無視する。


「え? いや、お前の兄キは?」

「あれ、銅像」

「おま……それ、ひどくね? 一応兄なんだろ?」

「一応?」


 はっきり言えば相手をしていると終わりが見えない。だから銅像だと思うしかなくて。今は七瀬だけ見ていたかった。


 それなのに兄は邪魔してくる。一体何を比べているのかって話でわたしは理解が追いつかない。


「玄関に」

「いや、行けないだろ。いるし」

「まてーーい! そこの男! ここを通りたくば……」


 ……しょうがない。嫌だけど、この手を使うしか。


「お兄ちゃん? 大人しくどいてくれると喜ぶと思うの。どいて?」

「うっ!? 綾ちゃんが喜ぶ……むむむ」


 普段絶対に呼ばないお兄ちゃん呼びをしておけば、その場で硬直するくらいに歓喜に包まれるらしいから惜しみなく使う。


 出来れば七瀬とは自分の部屋でもっと話をしていたいから。


「――って、待った! 家に入っていいのはうちの綾ちゃんだけ。見知らぬ男は許可してない!」

「綾希。俺、帰るよ。時間も遅いし、また今度。な?」

「……行かないでくれると、もっと好きになるかも」

「そうか。じゃあ、戦っとく」


 兄と七瀬はわたしを巡って戦うらしい。はっきり言ってこういう展開が一番ウザいし面倒になる。


 でも、七瀬のやる気を削ぎたくないからここは黙っておく。


「俺、七瀬輔って言います。綾希と付き合ってます。お兄さんより綾希のことが好きなんで、放っておいてくれると嬉しいです!」

「こ、この野郎……!! お、俺の方が小さい頃から好きで大好きで――」


 この期に及んで何を争っているんだか。


「ちょっと! さっきから電話鳴ってるんだけど! 会社からじゃないの? 早く行かないと……あれっ? 七瀬くんだ! あやを送って来てくれたんだ? ちょっと上がってって!」

「あっ……」


 青ざめた顔で兄はそのまま慌てて走って行く。


 本当に会社に行っているのか怪しかったけれど、呼び出しを食らうということは一応会社は行ってたんだ。


「で、ですね。すいません。少しだけお邪魔します」


 良かった、これで七瀬と一緒。

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