60.友達の笑顔
いくら鈍すぎるわたしでも七瀬が気を遣って屋上に来たことくらいは理解していた。七瀬がしたキスを夢として思わせられたのも全然覚えている。
わたしたちの出来事は時間にしたら結構経過していた。だけど、一方で雪乃と弘人の様子も気にはなっている。
雪乃が好きな人は弘人だ。でも、弘人が好意を寄せていたのは雪乃じゃなくて、綾希――つまりわたし。
本人と面と向かって、しかも当事者がいる前で好きと言われて気にならないわけがなかった。友達として……そう言わせたのはわたしだ。嫌いじゃないからこそ、はっきりとした言葉をかけられなかった。
「綾希、気にすんなよ」
「なにを?」
「お前の顔を見れば考えてることが分かるんだよな」
またそうやってわたしの心を奪おうとする。そんな七瀬だからこそ、わたしはあえて捻くれた答えを出す。
「何で分かった? 揚げ物が大好きだってこと」
「えっ? そうなのか。じゃあ覚えとく……って、誤魔化すなっての! 雪乃と林崎のことだよな? 何となく綾希が気にかけてんのが分かるんだよ」
「あれ、呼び方変えた? いつから雪乃呼びに……」
「友達だからな。今さら泉さんってのも変だろ?」
七瀬と雪乃は凄く仲がいいから、その細かい部分も何となく妬ける。
「あいつらなら大丈夫だから、綾希も笑顔を見せればいいと思うよ」
七瀬に言われるまで自分がどんな顔をしていたのか気付いてなかった。多分、自分では気付かないくらい落ち込んだような表情になっていたんだと思う。
そこまで見られて、しかも気付かれたなんて何か悔しい。
「七瀬」
「……ん?」
「手を出して」
「……って、いてててて!?」
手を繋ぐでもなく握るでもない。何となくの抵抗で七瀬の指を引っ張る。
「お前なぁ……小指だけ伸びたらどうしてくれるよ?」
「うるさい」
「何で怒ってるんですか? 綾希さん」
そんな感じでイチャイチャしながら、展望台に戻った。わたしたちを出迎えてくれたのはもちろんお友達のふたり。
「あやきちーー! いちゃついてんな、こらぁ!」
「してないし」
「くっ、反抗するようになりおって……七瀬くん、何とか言ってやってよ」
「今は勘弁」
そんなに痛くしたわけじゃないけれど、小指をさすりながら気にしていた。今は七瀬じゃなくて、弘人のことを。
「ははっ、七瀬は綾希さんには形無しなんだな。マジでウケる!」
弘人の言葉が最初の頃に戻ってる?
でも嫌な感じはなくて、その証拠に嫌な予感とは別に、雪乃も弘人も笑顔を見せている。
「てか、あやきちも七瀬くんも抜け駆けで屋上にいきおってー! 罰としておごれー!!」
「ごめん、雪乃! 林崎の分を含めて奢るから、許してくれないかな? 綾希を!」
「なんでわたし?」
「このとおり、綾希も頭下げてますんで!」
七瀬の手がわたしの頭の上に乗っかってきたと思ったら、半強制的に頭を押さえられて結局わたしも頭を下げて謝っていた。
もちろん、強い力とかじゃなくて。
「そういうことなら許してあげようじゃないか! じゃあ、ひろ! ウチらも上へ行こうか」
「そうだね。七瀬、綾希さん。そんなわけだから、俺らの後ろをついて来て」
「分かった、行くよ」
結局また屋上に行くことに。
でも、雪乃と弘人の距離が急激に縮まったように見える。いつもの明るいキャラの雪乃なのに、彼女の手は弘人の袖口を遠慮がちに掴んでいたりして。
……多分そういう意味なんだろうなぁと。




