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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第五章 ラブ・カルテット

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59.見上げた空に七瀬

 見上げれば空はどこでだって見える。だけど、その距離を少しでも縮められるからこそ人は高い所に登って空を見上げるのかもしれない。


 今日は青い空がよく見える絶好の日――そんな日に、わたしを展望台に誘ってくれたのは弘人だった。


 そして今は、七瀬の手に引っ張られて屋上の外。


 風が強いけれど、流石に飛ばされはしなくて少しだけ体がよろめく程度。決められた通路とスペースの中でしか空や景色を眺めることが出来ないから、飛ばされる心配もない。


「綾希、広いスペースのところに行くぞ」

「行く」


 風に揺られながらも、七瀬が繋いでくれている手はわたしをしっかりと支えている。飛ばされるなよなんて言っていたけれど、そんな心配をする必要はどこにも無かった。


「おー! 天気いいし、見晴らしマジで最高!!」


 しっかりと掴んでた七瀬の手はようやく離れ、すぐに両手を上げてはしゃいでいた。少年みたいにはしゃぐ七瀬を見るのは初めてかもしれない。


 こういう一面があるというより、元々あったけど出してこなかったというのが正しいかも。


「大きな子供」

「正解! や、でもはしゃぎたくなるって! こんな晴れてるし、風が気持ちいいし。綾希だって髪がなびいてんぞ」

「窓の席を思い出した。戻りたいかも」

「そっち!? でも、気持ちは分かる。ここは教室の窓より全然高いけどさ、風は同じ感じがするもんな。だからといって眠くなるなよ?」


 七瀬に言われる前に、思い出してたら眠くなっていた。それと同時に、一瞬だけ強い風が吹いて――気付いたら体のバランスが崩れた。


 大げさに騒ぐほど体が崩れたわけじゃないけど、でも、咄嗟に瞼を閉じていた。


「……んん」

「おいっ、綾希! 起きろって。ここで寝るとか、マジかよお前」


 違うし。眠るために体を崩したでもないしそのために瞼を閉じた訳じゃないのに。


 何となくの抵抗を試みる。七瀬の声が聞こえていても、ほんの数秒だけ瞼を閉じたままにして。


 そんな七瀬の両手はわたしの両肩を支えていた。


「綾希、マジで寝たのか? 襲うけどいいんだな?」


 ……思い出した。


 これのくだりって、確か弘人と一緒に図書館にいてわたしが寝ていた時に言ったセリフだ。あの時は場所も悪いし弘人がいたし、とにかく却下したかったやつ。


 今だってそんなこと言ってきてるけど屋上だし誰かが見てる前だから、多分冗談だと思う。そう思いながら何も言わずに瞼をゆっくりと開け、青空でも眺めよう――そう思っていたら。


「襲う……いや、奪う!」


 奪うって何だっけ?


 頭の中で思い浮かべながら空を眺める。そこには何故か七瀬がいて、青空じゃなくて、七瀬の顔が。


「……ん――」


 うん、奪われてるね。


 だけど、嫌でもなければ拒みもせずに自然と奪われていた。再び瞼をゆっくりと開けて見上げたら、七瀬じゃなくて今度は青い空だった。


「あれ?」

「夢でも見てたのか、綾希? 手、引っ張るからな。しっかしお前、どこでも寝れんのかよ」

「七瀬」

「どした?」


 まさか本当に寝てたの?


 でも、確かにいたよ?


「青空に七瀬が見えた」

「気のせいじゃね? とりあえずそろそろ下に降りとくか。あいつらも気付いた頃だろうし」

「ん、分かった」


 夢で片付けられたけど珍しく七瀬が隠してる。いくらわたしでも流石に気付く。でも言わないんだね。


「とりあえず、今は手繋ぎはやめとく」

「なぜ?」

「空気を読む。そんだけだ」

「七瀬の話っていつする?」

「……まぁ、あいつらが帰ってから」


 雪乃と弘人に気を遣うのも変な話だけど、七瀬は七瀬なりにって感じ。


「分かった」


 無駄な言葉なんていらない――あれが七瀬の返事だった。手繋ぎもきっとそう。起こす時の七瀬の声は、初めて声をかけられた時みたいな優しさのある声だった。


 七瀬とわたしの関係は、その時から始まっていたのかもしれない。

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