58.涙を見せる相手
弘人を追った雪乃が自販機コーナーの方に行ってから、時間にして約十分くらい。
もしかしてジュース買い込みすぎて動けない?
などと呑気なことを思いながら動こうとしたら動けなかった。考えてみれば、わたしの手はずっと七瀬に繋がっているままだった。
「待て、綾希」
「なぜ? もしかしたらジュース買いすぎてるかも……?」
「違う。林崎には泉さんがついてる。それに、お前が行かなくても大丈夫だから」
「七瀬。凄く手が強いけど、なんで?」
「行くな。今、綾希を離したくない。……痛いか?」
何だか必死そうにわたしを抑えてるけど、七瀬はきっと分かってるんだ。
「平気。七瀬がそういうなら行かない」
わたしよりも背が高い七瀬には、弘人たちが向かった先の展開が見えているのだろうか?
彼が掴んでいるわたしの手は痛くはないけれど、ギュッと強い力で掴まれている。七瀬が心の中で思ってることがその手を通して、何となく伝わってきたようなそんな気がした。
だから黙って大人しくふたりを待つことにする。
「ひ、ひろくん……そ、その、何ていうか~」
「泉さん。オレ、フラれちゃった。最初から分かってたんだ。別に席が隣じゃなかったからとかそんなのは関係なくて、ちょっとの差だったかもしれない。でもさ、オレじゃダメなんだよ。オレじゃ……」
「ひろくん……」
「泉さん。オレ、オレさ……好きになる資格ってあるのかな?」
泣きそうな顔を見せる弘人に対し、雪乃は――
「――あるに決まってるよ! この私が保証するし! だからさ、えっと……」
「ありがとう、雪乃さん。オレ、しばらく壁にキスしまくるから、だから戻ってていいよ」
「や、ひろくんの近くにいるし。近くにいるけど、存分にキスしてていいから」
「うぅぅぅぅ……」
十分どころか三十分くらい経っても雪乃たちは戻って来なかった。その場でしばらく待っていたけれど、流石に待ちきれなかったのか七瀬は歩き出していた。手を繋がれたままのわたしには拒否権なんてなくて、引っ張られるままに足を動かすしかなかった。
「どこ行く?」
「……そうだな。あいつらは多分しばらく帰って来ないだろうし、屋上に行こうぜ!」
「外に?」
「そう、外で空を見る!」
「すでに高いのにさらに高い所が好きなんだ?」
なぞなぞ的な?
「関係なくね? とにかく行く。しっかり掴まってろよ? 綾希飛ばされそうだし」
「それこそないし」
いくら屋上で風が強く吹いていても、飛ばされるとかそんなに軽くない。でも、なぜか分からないけど七瀬は嬉しそう。外は凄く晴れていて、外で青空を見上げるっていうのもいいのかもしれない。
「ほら、行くぞ」
「うん、行く」
七瀬のわたしを引っ張る七瀬の手が一段と力を増したような、そんな気がした。




