51.それって、なんの誘い?
「まだどうするかは決めてないんだ?」
「ん。決めてない」
「でも綾希さんならどっちでも上手くいきそうな気がするけどね」
「……どうして分かる?」
「えっ? い、いや、根拠はないよ? 何となくそんな気がしたっていうかね」
昼休みの屋上。
一緒にお昼ご飯を食べている相手は今日も弘人だけ。
「……何となく? その感覚は分からなくもない。弘人は?」
「俺は……人にとやかく言っといてなんだけど、全然決めてないんだ。だからバイト始めたってのもあるし、今の内にお金貯めとけばいいのかなぁって。あんまり深くは考えてないんだけどね」
弘人とふたりで話す話題は、はっきり言って大した話にはならなくて。けれど、沙奈といた時の弘人とはまるで別人のように真面目な男子に思えた。
高二は進路を考える時期。
将来をどうするかとか普段はあまり意識していないけど、わたしと違って弘人はちゃんとしてた。
「あのさ、綾希さん。高い所は平気かな?」
「高いよ? 屋上」
「あはは、確かに。それもそうなんだけど、そうじゃなくて。今度の週末にさ、もっと高い所に行ってみない? 展望台とか行けば気分も変わるし、風とか感じられて気持ちいいよ」
そういえば、席替えしてからはあまり風を感じることがなくなった気がする。春と違ってあまり自然の風は入ってこなくなったし、その意味で考えればこの誘いは嬉しいかも。
……だけど、今回もふたりだけ?
「うん。風を感じたい。だけど、何の誘い?」
「え? えっと、俺は――綾希さんとふたりで行きたいんだ! ……と、友達! 仲のいい友達としての誘い。だから深い意味はないよ」
「仲のいい……そうなんだ? じゃあ、雪乃と七瀬も誘っていい?」
「……そ、それは」
友達と行くならみんなで行きたい。
ふたりきりで行くのはまだ無理だし、お昼ご飯を食べるのとは根本的に何かが違う。弘人がバイトしてる所に行くのだって他にも人が沢山いるから別にいいって思ってた。だけど、そうじゃないならやっぱりみんな一緒がいい。
……だって、弘人とは付き合ってもいない関係だから。
「わたし、カフェに行ってくる。そこに七瀬と雪乃がいると思うしついでに訊いてこれる。予鈴が鳴ったら弘人だけ教室に戻ってていいから!」
「……あ」
嬉しそうに話していた弘人だったけれど、みんなで行くのは嫌なのだろうか?
途中から明らかに落ち込んだ表情に変わっていたのが気になった。何でなのか、その意味も理由もわたしにはさっぱり分からなかった。
「――で、七瀬くんの話ってなに?」
「泉さんはもう知ってるかもだけど、俺と綾希は離れたっていうか……」
「別れたくないから離れるって言ったんでしょ? そういう風にしとけば、あやきちのことだからすぐに仲直り出来るって思ったんじゃないの? それが何でああなったの?」
言いづらそうに話す七瀬に対し、雪乃はお見通しといった態度を見せる。
「いや、なんといえばいいのか……。俺の元カノといる所にたまたま綾希がきて。それを勘違いされた。その後にようやく気付いて、追いかけた。だけど会えなかった……」
七瀬は後悔してもしきれない、そんな表情。
「は? ……っていうか、何で元カノと会ってんの? ヨリ戻すとか言われた?」
「そうじゃなくて逆っていうか、今は以前いた学校の俺のダチと付き合ってて、元彼の意見を聞きたいとかで相談受けてた。ただそれだけ。それを誤解されたままあんな感じに。よりにもよって林崎……あいつと」
何度も首を振りながら話す七瀬に、雪乃は呆れるように首を振る。
「……それはそうなるって! だって綾希、七瀬くんだけは信頼してたし。でも、隠し事されてしかも隠れて会ってたんならそうなる。そんないい加減な七瀬くんと違って、弘人くんは優しいからね。綾希は弘人くんのこと、全然何とも思ってなかったみたいだけど、どこかで優しくされたよね……それこそ保健室とかで」
「――あ」
「うむ。それだよきっと。あやきち的には七瀬くんと終わったと思ったんじゃない? だからひろくんに傾きつつある……」
しょうがない男子――そんな呆れ顔を見せながら雪乃は七瀬をなるべくフォローしようと笑顔を見せた。
「泉さんはいいの? だってあいつのこと……」
「知ってるよ? 彼があやきちを好きだってことくらい見ればすぐに分かるし。それでも諦めないんだ。だからさ、七瀬くんがもう少ししっかりしてくれないと困るわけよ! オーケー?」
「お、おーけー。なら、これ以上泉さんも泣かせないようにする。俺がきちんと綾希に話す!」
吹っ切れたのか、雪乃に向けて七瀬も笑顔を向ける。
「うんうん。ではでは、協力の握手をしようじゃないか!」
「じゃあよろしく、泉さん!」
カフェに着き、そのまま七瀬と雪乃を探していた。
「雪乃、それと七瀬……?」
ふたりを見つけたと思った直後、ふたりとも仲睦まじいといった様子で手を握っている――そんな光景を目の当たりにして動けなかった。




