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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第五章 ラブ・カルテット

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44/75

44.七瀬トライアングル①

「葛西。これ、課題のやつ。写し終わったら机の中に入れとけばいいから」

「ん、分かった」


 朝の教室。


 入るとすぐに七瀬がわたしの所にやってきて、課題ノートを手渡ししてくる。頼んでもいなければ頼んだ覚えもない、でも、自然と課題のノートを貸してくれてそれをわたしが写して返すというやり取り。


 ……実のところ、彼とわたしのコミュニケーションはたったこれだけ。


 そんな光景に雪乃と弘人、それから沙奈だけが見飽きたようにしてスルーしてくれていた。だけど、ウザいほどに納得の出来ない奴がひとりだけ。


 転入直後は全く近づいてもこなかったくせに、クラスに馴染んで慣れてきたのをいいことに、わたしにしつこくしてくるようになった。


「綾希。あいつはお前の何だ?」

「そういうあなたは誰ですか?」

「……本当に酷い奴だな。そんなに俺が嫌いか? 仮にも元カレなんだぞ?」

「仮であって本物じゃない」


 何も間違ったことは言ってない。


「それはちげーだろ! 良かったら、本物のせいくんに教えてくれませんかね?」

「世くん? どこのどなた?」


 ちょっと何を言ってるのか分からなくて、首を傾げる。


「オ・レ!」

「カフェ?」

「――こっ……」


 こんなのをまともに真面目に相手していたら、完全に相手の思うつぼ。それくらいこの男はお調子者。


 本当に、どうしてこんなのと三年以上も付き合っていたのか未だにわたし自身に問い詰めたい問題。


「何か?」

「あいつ、七瀬って奴! 何でお前にノートを貸してんだ? ……ってか、お前って勉強してこない女子だったのかよ。課題くらい自分でやれよ! 中学ん時は真面目系だったはずだぞ?」

「中学? すみません、記憶にないです」


 過去は過去。


 卒業しちゃうと思い出せないことばかり。


「はぁぁ!? じゃ、じゃあ俺との思い出も何もないとか言い出すんじゃ……」

「ないです」

「こ、こ、この野郎……」


 野郎ではありません――なんて当たり前の返しをするのはこの男を調子づかせるだけ。いちいち突っかかってきては最後まで答えを求める男。


 それが元カレの世という奴。そういう意味で、中学の頃はそういう細かいとこまでは見ている余裕は無かったのかもしれない。


 だからこそ、コイツを調子づかせた。


「おい、宇月だっけか? お前、女子に向かって野郎は無いんじゃないのか?」

「出やがったな、この七瀬野郎!」

「俺が七瀬だけど、何か用か?」


 朝から騒がしくてウザい男が何でか知らないけれど七瀬に突っかかっている。周りの女子は最初こそ心配して注目をしていたけれど、すぐに世の正体が分かったらしく七瀬にだけ応援の視線を送るようになっていた。


「お前、コイツを甘やかすんじゃねえよ! そもそも課題ってのは自分の力でやるもんだろうが! なんで甘やかして貸したりしてんだよ。理解出来ねえぞ!」

「俺が好きでやってるだけだ。それ以上でも以下でもない。それを関係のない宇月につべこべ言われたくはないな」


 そうだそうだ~!


「あ、分かった。お前、コイツ……綾希のことがまだ好きで貸しを作ってヨリを戻したいとか思ってんだろ?」

「……」

「もしかして当たった? 今日はツイてるな!」


 それ以上言うと七瀬が怒るからやめてよ。


「ハッ。まだ好き……って、それはお前の方だろ? いつまでも葛西にしつこくしやがって、彼女の気持ちを考えろ! だからフラれるんだよ!」


 ……言っちゃった。いつもなら割と冷え冷えとした態度で返事を返していた七瀬なのに、今日は機嫌でも悪いのかな。


「くっ、この野郎……」


 そう言って拳を頭上に上げようとしていた世だったけれど、


「おい、HR始まるぞ。いい加減席に戻れよ」

「ちっ……。七瀬、お前に綾希は渡さねえからな!」

「笑わせてくれるね。ちっとも面白くないけど」


 渡した覚えもないけど。


 やっぱり七瀬がいい。前よりも教室の中ではわたしに気持ちとかぶつけてこなくなったけれど、でも何となく大事にされてる気がする。


 外での七瀬も悪くないけれど、学校の中の七瀬、何だか凄く男っぽくて余裕がある感じがするし、きちんと見てくれている感じ。


「葛西、気にすんなよ」

「ん、ありがと」

「じゃあ、また休み時間とか昼にな!」

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