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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第四章 彼の心とわたしの心

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40/75

40.その手の距離が届かずに

「……あら、あなたは?」

「あ、はい。B組の林崎です。僕はこれで失礼します」

「ありがとう。葛西さんは体調が優れないみたいだから、教室に戻ったら担任の先生に伝えてくれる?」

「分かりました」


 弘人はわたしを保健室に連れてきてくれた。


 彼は言葉通りに保健室の前まで来て、中には入らずにいてくれた。保健医も珍しくいたということもあるけれど、その気遣いと優しさがすごく嬉しく思えた。


 わたしは――未だ現実を認められず、あの場で呆然としていた。そのせいもあってなのか、気が抜けて歩くこともままならなくなっていた。


 通りがかった弘人がここまで連れて来てくれたのは幸いというべきなのか分からないけど、厚意は素直に受け止めることに。


 その後、午後の授業が開始されてもわたしはしばらく保健室のベッドで横になっていた。以前、輔が同じベッドで寝ていたのを思い出すけれど、今はそれがとても辛く感じられた。


 放課後になって――


「――たすく。あのね……わたし」


 目が覚めた時、保健室に来てくれた七瀬を見てすぐに名前を呼んでいた。きっと弘人から伝えられたから来てくれたんだと思う。


「いいって、今は無理するなよ」

「……ぁ」


 七瀬がそっと額に手を添えてくれた。もちろん熱なんてないけれど、凄く優しい手に触れられた。


「お前、歩けなくなってたんだろ? 林崎から聞いた。あいつのおかげでここまで来れたってことも。そういう意味じゃ、感謝するしかないな」

「……ん」

「今日出てた課題とかは俺がやっておいてやるから。綾希はゆっくり休んでいい」


 ……あぁ、やっぱり優しいな。


たすく。ごめんなさい。わたし、輔が好きだから。だから――」

「ようやくか。お前、俺のことをすっかり下の名前で呼んでくれるようになってるぞ。それとも弱ってるからか? それに、分かってるよ。俺だって綾希だけだ。でも、今はとりあえず……休んでていいから」


 彼への気持ちに応えたくて、重くて上がらない手をシーツから出して上げてみせた。


 だけど、てっきり輔の優しい手がわたしの手をそのまま握ってくれるかと思っていたのに、彼はそのまま立ち上がって保健室を出て行ってしまった。


 すごく近くて腕を伸ばさなくても届いていたのに、どうしてか今はその手がすごく遠い。


 大丈夫だよね? 

 わたしと輔、離れないよね。

 だってわたしの好きな人は輔だけなんだよ?


 輔が出て行った保健室の扉を見つめながら、わたしは気づかぬうちに眠っていた。


「あや。迎えに来たからね。立てる?」

「立つ」


 しばらくして、母が学校に迎えに来ていた。


 ――その後、学校自体を休んだのは週末を挟んで三日くらいだった。


 けれど、登校して教室に入ったその時から大きく景色が変わってしまっていた。夏休み前の教室、そしてわたしが休んでいる間に席替えがされていた。


 恐れていたことが起きるとは思っていなかったのに起きていた。


 わたしの隣は輔ではなく、弘人に変わり雪乃が前の席になった。良かったのかそうではなかったのかは分からないけれど、彼氏の輔とはすっかり離れてしまった。


 以前に彼は、席替えになったとしても無理やりにわたしの隣に座ってやる――なんてを言っていたのに、それは現実的じゃなかったのか隣にはいなかった。


 そんな輔の席を探すと、近くには沙奈そして、()()()の姿が確認出来る。それ以外に、沙奈と仲良くしている女子が輔の周りにいて楽し気に話をしていた。


 輔も以前と違って沙奈とも普通に話をしているし、他の女子とも笑いながら話をしている。


 ……そっか。


 そうだよね、彼ばかりがわたしを好きで離さなくてずっとそばに居てくれていたけれど、彼に離れて欲しくなかったのはわたしだったんだ。


 ずっと隣にいたからそれが分からなかった。だけど、距離も気持ちも離れてそれがどんなに苦しくて辛いのか、なんて。


 ようやくわたし自身が自覚したんだ。


「あやきち? どした、まだ具合悪い?」

「葛西さん、具合悪いなら保健室に……」

「違う……違くて。わたし、わたしは――」


 誰も悪くないけれど、気づいたら涙を流していた。


「あ、あやきち? ……えーと、ど、どうする? 弘人くん……」

「……で、でも、どうすることも出来そうにないし」


 溢れる涙で周りのことが見えなくなっていたけれど、焦る雪乃と弘人の声が途中から聞こえなくなっていたのは何となく覚えていた。


 そんな状態で、涙で溢れる視界の中から誰かの姿が微かに見えた。それが誰なのか分からず、涙で見えないままわたしは廊下に連れ出された。


 見えづらくてもその声を聞いて、すぐに分かるくらいの距離で誰かがわたしの手を強く握っていた。


 そして――。

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