4.春眠妨害への反抗心
「あんた……じゃなくて、輔はどんなのが好みなん?」
「面白い奴」
「そっかぁ、じゃあ当てはまるわ!」
朝、教室に入ったら二人で会話してる光景を目の当たりにしてしまった。
……つまり、沙奈の言葉ってそういう意味だった。でも、わたしは今のところはそういう気持ちにすらなってないからどうでもいいけど。
そのまま自分の席に着こうとすると、隣の彼に声をかけられてしまう。沙奈がわたしのことについて余計な何かを話したのだろうか。
肝心の沙奈はとっくに七瀬さんから離れ、廊下側の林崎さんのところに行って話をしていた。
何だかやる気を見せつけられている気がするのはわたしの気のせいだろうか?
「机って眠くなるよな?」
「た、多分?」
「隣だし、話していいか?」
「い、いいんじゃないでしょうか」
よく分からないけれど、机顔が彼のツボに上手くハマッてしまったらしい。
「あいつ、友達なの?」
七瀬さんが顔を向けた先にいるのは沙奈だった。ここは別に隠すことじゃないので素直に肯定。
「そうだけど、あの子が何か?」
「葛西はどうか知らないけど、あいつ慣れすぎ。ちょっと苦手なんだよな」
「あ、そうなんだ。でも、わたしの友達だからあんまり言わないでくれると……」
慣れすぎってなんだろ?
そもそも沙奈はわたしと違って壁を作らないタイプ。だから何気に人気があるんだよね。分かる気がする。
「別にそれ以上言わないけど、あいつに比べて葛西は大人しそうだし真面目そうだから安心するんだよな、マジで」
「それ、けなしてる?」
「褒めてる」
う~ん……何を言いたいんだろ。
「しつこいようだけど、とりあえず沙奈のこと、悪く思わないでやってくれる?」
「思わない。代わりに、葛西のことを良く思ってていいか?」
何が言いたいのかさっぱりだけど、多分話をする相手が欲しいし隣だから話しかけたいって意味?
「良く分かんないけど、それでいいなら」
「んじゃ、これからよろ! 俺のことは気楽に七瀬って呼んでいいから」
「七瀬」
「いや、そうじゃなくて……まぁいいか」
隣だから途端に塩対応っぽくなったけど仕方ない。
でもこの日以降、七瀬から話しかけられるってそういう意味なんだと、そう自分に言い聞かせるしかなかった。
「……何でそんなに寝れんの?」
春といえば別れと出会いの季節。
わたしは自分から別れをすでに済ませてしまったけれど。
もちろん、そうは言っても振った直後は落ち込みもした。落ち込んで沈んでいく前に、新たな男子二人と出会えたのは多分幸せだったかもしれない。
隣の席に七瀬輔、廊下側席にまだ話してもいない林崎弘人。
二人のうち、何となくのきっかけが出来たのは七瀬が先だった。とはいうものの、この季節のわたしは近くの男子よりも、春眠が優勢。
「……眠いし、春だから」
「分からなくもないけど隣になったし、話がしたいんだけど?」
「後でならいくらでも」
「いや、今じゃないとタイミング合わねえし」
隣の席になった七瀬。
今のところ、春眠がわたしの癒し。だからなのか、他の女子より若干冷めてる感じで返事を返している。
つい最近までダークだったわたしの気持ちを無くすためにも、今は眠ることを最優先にしていた。
「……というか、俺と話がしたいんじゃなかったのか?」
「それ、誰情報?」
「葛西の友達」
「あーうん。それ、誤情報。だから夏まで保留よろしく」
「――待てねえよ!」
彼氏が今すぐ欲しいとか思ってたら少なくてもこんな返しは出来ない。だけど、隣の七瀬に今すぐどうこうとかそんなのはなくて。
何だかわたし自身、どうするのがいいのかちょっと分かんなくなってた。だから、春眠ということに。
「妨害よくない」
「……悪ぃ。じゃあ、黙っとく」
「ありがと」
ようやく静かになって深い眠りにつこうとしたものの、流石に顔を机に伏したまま寝てしまうとこの前みたくなりそうだった。
そしたら間違いなくまた七瀬をツボらせる。それが何か嫌だと感じて、今度は顔を横に直して眠ることにした。
この時、一瞬だけふいに瞼をうっすら開けていたのが油断というか。
「……えっと、何してるの?」
「面白いから眺めてた」
何となく嫌な予感と気配を感じて、隣にばれない加減で瞼を開けていたのに――どうしてかな? というくらいに、顔を見られていた。
「寝顔フェチは流石にひくけど……」
「ちげーし。てか、机顔引退すんの?」
「する。もうしない」
「残念。ま、それだけじゃないからいいけど」
そういえば。
「……気づいたけど、女子からの人気は一日限りだった?」
「そうじゃねえけど、そんなもんだろ。情報聞き出したら、後は普通にその辺の男子と同じになるんじゃね?」
その辺の男子とはクラスの男子って意味だろうか。
わたし自身、他の女子と違って七瀬のことなんて何も聞いてないけど、どんなに群がっても最初に聞き出せることってそんなものだと思う。
そう思っていたけど、何気なく沙奈の姿を探してみたら、彼女は廊下側の方にばかり行っていた。
「その辺の基準なんて知らないけど。わたし、七瀬のこと知らない」
「だから、話がしたいって言った。てか、起きたなら……」
「うん、もうすぐ三限だから」
「マジかよ……」
本当にタイミング悪いね。
この場合調子に乗ってずっと寝ていたわたしが問題だったけど。隣だしぶっちゃけ、いつでも話なんて出来ると思う。
……タイミングさえ合えば。
「はぁ~~……難易度たけぇ」
何かのゲームでも夢中なのかな?
……なんて思いながら、昼になるまで睡魔との戦いが始まっていた。