3.きっかけは、どこからともなく
波に乗ることが出来ない……。
もちろん、流行の波という意味で。
確かに新たな出会いに期待を膨らませてはいたけれど、みんなで一斉に話しかける――なんてわたしは好きじゃなくて。
そうなると、何かのきっかけでもなければ声をかけることなど夢のまた夢……は言い過ぎ?
仲良くなるのがきっかけで付き合えるなら苦労なんてない。
そう考えると、元カレのあいつとはどうやって付き合ったのだろう?
何だか自然というか、あまり意識しないまま付き合っていたような気がする。どのみちこのまま考えても話せないし、無理に考えてもって話。
――そう思っていたらわたしは自然と机に伏して、春風と共に安らかな寝息を立てていた。
色気を見せる、そんなのとは全くの無縁……そう思いながら。
「おい、ちょっと……」
「ん~~眠い。ごめ、いま気持ちいいところだから声かけないでくれると喜ぶから」
「いや、じゃなくて、呼んでるんだけど?」
さっきからうるさいなぁ。せっかく気持ちのいい睡眠がとれそうなのに。
「はぁ~~? 誰が? ってか、さっきから誰……って、な、七瀬さん?」
「うっわ……てか、顔やべえ。顔が机になってるって、マジで面白すぎ!」
顔が机って何?
急いで手鏡を覗き込んでみると、ものの見事に机の痕が残ってる!
しかも見られて笑われてるなんて嘘でしょ?
……見られた以上それは気にしないとして、何でわたしに声なんてかけてきたんだろ。
「えっと、呼んでるって?」
「何かの係とか? 俺は言われたから呼んだだけ。そんだけ」
「あ、どうも」
そういえば学期の初めにそんなものを受けてた気が。それにしても意外なところからきっかけが生まれたなぁ。でも最悪は最悪。
机顔の女子として印象には残ったとは思うけど。隣の席ってこういうのがあるから怖いんだよ。
一限が始まるまでに結構時間があったので、廊下に出て声かけのヌシを探してみると、すぐに声をかけられた。
かけてきたのはいつもの友達だったけど。
「綾希、こっち! で、顔見た?」
「呼び出したのって、沙奈? や、顔見れてない。それどころじゃなかった」
「え~? せっかくきっかけ作ったのに。何で? 何があったん?」
沙奈がきっかけ作りなんてどういう気まぐれ?
「寝てた。グースカと。いつも通りに机に伏して」
「期待を裏切らない子やね。そういうとこ、応援したくなる。で、七瀬が声かけてくれたん?」
「そう、七瀬さん」
「さん付けって、それはよろしくない! 距離離れるって。呼び捨てで呼んでみ? 多分、喜ぶ」
そうは言っても呼び捨てはもちろん、『くん』呼びも難しいんじゃないかな。
「流石に無理。そういうのは沙奈に任せるし」
「なら、そうする。恨みっこなし。おーけー?」
「何を恨むのか知らないけど、別にいいよ」
沙奈のきっかけ作りで隣の席の七瀬さんに声をかけられた。あんまりいい印象は与えられなかったけれど。
そして、沙奈の言葉の意味がよく分からなかった。要するに沙奈も二人のうちのどっちかときっかけ作りをしたいって意味だとこの時は思っていた。
彼らが編入してからまだ数日。
これからどうなるか――なんてさっぱり分からないまま。