25.女子の敵が増えた日?
「一瞬で好感度下がるとか何でだよ~……。すげぇ凹む」
やばい、七瀬もそろそろ泣きそう。このままだと流石に余計な敵を増やしそうな気がする。
「えっと――」
【間もなく、対抗競技が始まりますので一度も参加していない人は必ず参加してください!!】
出たくないけど、強制参加競技のアナウンスが流れてしまった。
「ほら、綾希が呼ばれてんぞ。俺がお前をちゃんと見ててやるから頑張れよ」
「ん、分かった」
強制というかクラスとか関係なしに毎年恒例になっている競技。
だからやらざるを得ないわけで。
……と言っても、この競技自体はとても楽。走らなくていいし、あまり動かなくても活躍してそうに見られるから。
男子が入るとフェアじゃない綱引きは基本的に女子のみでやる競技。ぶっちゃけ、やる気が無くても出来る……はずだったけれど、わたしの前後を挟むように沙奈と雪乃が配置されていた。
それはさながら何かの謀略が働いているかのように。
「綾希~。今は同じクラスの味方としてやる気、見せるんよね? イケメン七瀬にいいとこ見せたら惚れ直されるかもよ?」
「や、沙奈一人ででも勝てるから、応援してる」
「ちょっ……!? あんた全然変わってないやん。なんかその適当さが許せてしまうんは何でなん?」
七瀬を全然諦めてないっぽい沙奈。
それでも、流石に体育祭でそういうのを見せてくるわけでもなくて。でも、ちょいちょい視線を気にしてるんだなぁって分かってしまう。
「あやきち、やる気出せ! 勝てばクラT分の資金が返ってくるかも?」
「そうなの? じゃあ、応援する」
「や、あやきちも本気出せ。七瀬にいいとこ見せたらいいじゃん!」
「じゃあ努力する」
そんなわけで、綱引きにやる気を出す二人に挟まれながら一応わたしなりにやる気を出してみた。
その結果、他クラスには勝てたけれどわたしは予想通りに弾き飛ばされて、膝ごと地面に擦ってしまった。
「んー……」
「あやきち、大丈夫? うわっ、ちょっとだけ赤くなってるやん。保健室に行って消毒してもらお?」
「なんか立てない。運動しすぎた」
「……って、綾希は引っ張ってなかったような。あんた、アレは酷すぎやな。あまりに動かなすぎや!」
沙奈に何を言われてもこんなもんだし。
「運動は苦手。綱引きは形だけしてればいいと思ってた」
「はぁ~~……あんた、弱すぎやわ」
そんな感じで、膝からほんのり赤く滲み出てきたものが立てないわたしをさらに動けなくした。
「しょうもないけど、友達やし肩貸すわ」
「ありがと沙奈」
「じゃあ、もう片方は私が貸す! さぁ、あやきち立て!」
まさかのライバル同士の助け合いが目の前で見られるなんて、わたしの運動音痴っぷりもたまには役に立つかも。
「葛西さん、大丈夫?」などと、普段は気にもかけてくれてない女子たちから、知らず知らずのうちに声援を送られていた。
もしかしたら、こんな分かりやすい怪我をしたのはわたしだけだからかもしれないけれど。
この光景は七瀬を保健室に運ぶ時の光景に似ていたなぁ――なんて思っていたら、周りの女子たちの声援がまさか悲鳴に変わることになろうとは。
「た、輔? あんた、何でここに……って」
「七瀬くん!? えーー!?」
「そ、そうだったんだ……なんかショックなんだけど~」
それと同時に、沙奈以外の敵が増える日になるとは想像だにせず。
「綾希、立てないのか? 仕方ねえな。女子たちには悪いけど、俺が代わりに運ぶ」
「……ありがと」
わたしの味方と中立・無関心な女子たちのほとんどは、体育祭によって敵と化してしまった。
雪乃だけは「はいはい、だと思った」なんて、分かりきっていた。
七瀬に運ばれている最中、怒り狂う女子たちの怒声に、林崎くんが何かを言ってなだめて怒りを収めていたところまでは目視で確認出来た。
「な、七瀬……あの、降ろさなくていいけど、もう少し周りを見てくれないと困るから」
いつもの目立ちたくない七瀬らしくない。
「……見てた。他の女子のことなら知ってる。もちろん、あいつのこともな。でも、お前怪我してんじゃん。運動苦手なお前が怪我したんだ。なのに、俺が何もしないとかあり得ねえし。だから、こうしてる」
七瀬はいつだって公正にわたしを見てくれてるんだなぁ。
「なるほど……膝の怪我は七瀬の抱っこで浄化されると」
「いや、保健室に行く前にそこの水道水で流す。いったん降ろすぞ」
「うん」
七瀬の言葉通り、中に入ってすぐの蛇口で膝の辺りを水で流した。膝を濡らしたからこのまま引きずってでも保健室に歩こうとしたものの、七瀬によって再び持ち上げられた。
「七瀬、一人で歩くし……」
「無理だ。お前が良くても俺が無理。だから、もう少し我慢な」
どういう理屈ですか?
七瀬が無理って何?
この場合、むしろ我慢するのは七瀬の方でしょ。でも、廊下に人がいないのが幸いすぎたかもしれない。
でも、七瀬の大胆な行動によって時間を置かずに外に出て行くのが怖い――そんな日になった。




