20.三人目の男
「あやきち、クラTのデザインどれがいい?」
「派手じゃない方」
「だと思った~。でも、派手な方に票集まってるから決まったらそっちを着てね」
「ん、努力する」
「ほいほい」
髪が湿ってじめじめする時期が近づいてきてる。
そんな時期に体育祭をやるなんて本当にだるい。幸いにして実行委員とかでもないわたしは、質問に答えたりするだけでいい役目。
「綾希にも女子の友達が出来たみたいだな。あやきちか~それもいいな」
「駄目」
「早すぎだろ! まだ何も言ってないってのに」
七瀬が言いたそうにしてる理由も分かるけれど、準備が必要だし。
「雪乃だからいいのであって、七瀬が真似するのは駄目」
「相変わらずケチいな。あ、今日も一緒に帰るだろ?」
もちろん黙って頷いた。
「たまには川沿いでも歩いてみないか?」
「泳ぐ?」
「泳がねえし無理だし。面白いなお前」
「分かった、歩く」
席が隣の七瀬と教室で話してることといえば、ほとんど放課後のことばかり。 わたしも七瀬も帰宅部だから当然ではあるけれど。
「じゃあ、綾希――」
「輔、放課後暇~?」
あっ、ここで割り込んでくるんだ?
「暇じゃねーし。暇でも無理だ。てか、何か用かよ?」
「声かけただけやし。今日も綾希と一緒に帰るん?」
「悪ぃかよ?」
わたしの存在を無視して七瀬にケンカ? を売りにきている沙奈。いつ割り込んでくるのかと思ってた。
「いや、別に。別にやけど、今のうちに綾希と仲良くした方がええよ。輔のライバルが増えそうやし」
「どういう意味だよ?」
「夏に分かるし楽しみやね」
七瀬がわたしに何か言いかけてたけど、何だったのだろう?
沙奈に色々言われて機嫌悪くしていた七瀬だったけれど、帰る頃にはすっかりご機嫌になってた。
手を繋ぎながら、二人だけで川沿いを歩く――ただそれだけのことなのに、すごく嬉しい時間って感じがする。
「なあ、綾希……体育祭が終わったら、どこか行かね?」
「川で泳ぎを?」
「川で泳がねーし! 海なら泳いでもいい」
「……考えとく」
「考えといて。でさ、綾希は――」
七瀬が何か言おうとすると、今度は橋の上から誰かの声が響いてくる。
「綾希ーー!! 久しぶり! 俺だよ、俺!」
「ん? 誰だあいつ……」
噓でしょ、何でこんなところに?
七瀬との時間をぶったぎるなんて、やっぱり嫌い大嫌い。
「そっちに行くから、そこで待っててくれよな!」
来なくていいし来ないでほしい。
「綾希、あいつ誰?」
「……ん〜」
川沿いを何気なく歩いててまさか偶然会うなんて、全然思いもしなかった。
……あぁ、嫌だな話したくないな。
しかも隣には七瀬がいるのに何で?
「綾希~~! 俺だよ。俺!」
なんでこんな所で会う?
よりにもよって七瀬といる時に。フラれたのに何で嬉しそうに声なんかかけてこれるの?
意味不明だし怖いしキモイんだけど。
「詐欺の人?」
「その反応、やっぱりお前だわ。返しが秀逸だ! ここで会えたのもやっぱ、運命的な何かが途切れてないものなのかもしれないな~」
話し方も声も何もかもが嫌いすぎる。
何でこんなのと付き合っていたんだろ、わたし。
「綾希、コイツってアレか?」
「うん、あれ」
「そうか、こういう奴なのな。それなら良かった。何も心配することなんてないな」
七瀬的に多分凄く嫌いなタイプだと思うし、林崎くんとはまるで違うから絶対に友達になんかならなさそう。騒がしいしウザいし、空気なんて読まないし。
「綾希、別の道を歩くか?」
「ついてく」
わたしに声をかけてきた男なんていないみたいに相手にしてないみたい。
七瀬はそれでいいと思う。
「……って、こらー! シカトすんなって! 綾希の隣のそこのお前、お前のことだよ!」
「あ? 何って、お前こそ何なんだよ! 俺は綾希の彼氏だけど?」
「彼氏? ほんとかぁ?」
何でこんなに喧嘩売る前提なの?
やめてよ、もう関係ないじゃん。
「悪いけれど、七瀬はわたしの好きな人。あなたとは何の関係もないし、ここから帰ってくれると喜ぶから」
「そういうことだ。俺らはあんたと関係ないんだ。悪いな」
「いや、あるね。お前、七瀬っていうんだろ? 最近綾希と付き合いだしたって聞いてるぞ。まぁ、別にそれはいいけど夏までに終わらせてくれるか? 夏休み終わったら、綾希は俺と付き合うから」
何で七瀬を知ってるの?
それに夏って、まさか沙奈が何か言ってたアレのこと?
「フラれた奴が何を言っても無駄だ。その理由すら気付かないで、また付き合えるとでも思ってる辺りが終わってる。七瀬は確かに俺だけど、知らないお前に気安く呼ばれる必要を感じない。夏とか訳わかんないことを勝手に言うのやめてくれる? 綾希を困らすなよ」
そうだそうだ! 七瀬、もっと言ってやって!
「理由なら知ってるけど? 綾希は俺と距離が……ってか、同じ学校じゃないから別れただけ。たかだか向こう岸の距離だぜ? それが同じになればそういう心配とかいらなくなる。そういうわけだから!」
「本当にそれだけの理由で別れたとでも? わたし、あなたとはもう、全然関係ない!! いい加減、七瀬を困らせないでくれますか?」
話もしたくないし無駄だし。
「おいお前! 綾希困らせんなよ。とにかく、お前と俺らは無関係。行くぞ、綾希」
「……ん、行く」
そもそも立ち止まって話をする意味もないし、聞く必要も無かった。七瀬はわたしの手をほんのちょっとだけ強く握ってその場を離れてくれた。
流石に強引に追ってはこなかったけれど、わたしと七瀬に対して何か吠えてた。
川沿いを歩くのは別に良かったけど、考えてみればあいつの学校は橋を渡った先にあるから、あいつの家ごと離れた訳じゃなかったんだよね。
橋一本くらいの距離だと、そこを歩く時もあるって考えてもいなかった。それにしたって何で会うかな。
今すぐあんなのと付き合っていた事実を消滅させたい。
「綾希、あいつが振った元カレなんだろ? 何だよアレは。最悪すぎるぞ。あんな奴、気にしなくていい。俺が守るから」
「ん、ごめん」
「……と言うか、あんな奴綾希と合わないだろ」
本当にそれ。
「心配しなくていいからな」
「……うん」
「綾希は俺から離さないし、夏がどうとかよく知らないけど気にするなよ」
そういってわたしの頭を軽く撫でてくれる優しい七瀬。
こんなに優しいのに、何で不安がよぎるんだろ。名前で呼ぶのはいつだって出来るし隣の席だし離れるなんて無いのに。
……今さら冗談じゃない。
「ま、とりあえず体育祭も近いし、それに集中しようぜ」
「七瀬がね」
「――っておい、お前もな!」
振った相手がきたところで何も関係ないし、何てことはない。
夏までとかじゃなくて、ずっと一緒だから。
七瀬とはずっといたいから。




