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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第一章 きっかけ

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16.熱をもらいに?

 わたしも七瀬もお互いが好きってことが分かった。


 ……それはいいけれど、沙奈が七瀬にしたらしきことをすぐに聞かされて好きがそのまま消えずにお互いが盛り上がるかというと、そんなでもないわけで。


「綾希。怒ってるよな?」

「……知らない」

「アレは俺の油断であって、そのまま抵抗なくされたわけじゃなくて。いや、だからその……」

「なにが?」


 言いたいことはわかるよ。

 でもね。


「つまり、その……」

「七瀬はベッドに寝てた。合ってる?」

「うん」


 沙奈が休み時間に保健室に行った時、多分だけど寝始めて意識がぼんやりしていた時。そんな時にキスされたから目覚めてしまって、間髪入れずに告られた――だと思う。


「不意打ちには誰も勝てない。武士とかもきっとそう」

「は? 武士?」

「昨日、時代劇見てたから」

「はは……相変わらずだなお前。まぁ、その……ごめん!!」


 キスくらいでってなるけど、七瀬は思い切り頭を下げてきた。


「別にキス痕がずっと残るわけじゃ無いし、気にしてない」


 気持ちが変わる方が気になるし。


 でも沙奈にしてみれば、わたしよりも先に告ってキスをしてそれで奪おうとしたのかも。たとえフラれてもキスしとけばそれが証拠にもなるし、わたしに対してマウントも取れるもんね。


「まぁ、綾希の口はすでにつけられたわけだし、それで守られた感じだ」

「わたしの口はバリア?」

「ある意味な。それがあったから良かったかもだし、汗かいて熱も下がった」

「そうなんだ」


 何となく会話が弾まない。


 雨も冷たいけれど、どうにもならないもどかしさがあるようなそんな感じ。しばらく時間なんて気にしてなかったけれど、結構歩いてる気がする。


 気付いたら七瀬は傘を閉じてたし。


「……って、あ。屋根のある所に着いてたんだ。どこ、ここ?」

「俺の家の近くのバス停」

「家にしては小さいって思った」

「綾希って、面白いってか自分じゃ気付かないド天然か? それも可愛いけどさ」


 自分じゃ良く分からないけど、可愛いならいいかな。


「んん? なにが」

「まぁ、いいや。ハンカチタオル出して」

「出番?」


 七瀬の家の近くなら家で乾かしたほうがいいと思うけど、何でバス停なんだろ。


「はい、これ」

「えっと、俺すげー濡れたんだわ。それを使ってくれると嬉しいっつうか、綾希に傘傾けての貸しを返してもらおうかなぁと。お前は濡れてない。俺すげー濡れた」


 言ってる意味がよく――あ、そういう意味?


「……貸し借りなしに?」

「だって嫌だったんだろ? 傘を借りるのも、傾けられるのも」


 なるほど、そういうことをしてくる男子なんだ。


 どことなく恥ずかしそうにしてるのはそういうこと?


 ……やっぱり七瀬は子犬のよう、それもわたし的に子犬っぽい。

 しょうがない子っていうか。


 ――というわけで、わたしは七瀬の差し出したハンカチタオルを使って、七瀬の頭と腕とか水滴が付いてるところを拭いてあげた。


「家に行けばちゃんとしたタオルあるよね? お風呂入って温まるべき」

「そうする。面倒なことさせちまってゴメン。でもこれで、風邪は悪化しない。約束する」

「まだ濡れてるとこある」

「ん? そりゃぁ、シャツとかは仕方ない――」

「――違う」


 七瀬のハンカチタオルは絞れる位になってたし、頭を拭いたから使えなかった。


 だからわたしは、自分の指を七瀬の唇につけた。指をなぞらせて、七瀬の唇を拭くように。


「なっ!? な、なな、なにしてんのお前……」

「汚れてたから雨で濡れたわたしの指で拭いてあげた」

「汚れって……あ! そ、そうか。そうだけど、お前……あいつは友達じゃなかったのか?」

「恋敵」


 単なる敵じゃなくて恋の敵って沙奈も自分で言ってたし。


「マジか」


 本当はわたしも対抗して七瀬の唇に重ねれば良かったかもしれない。でも、今そんなのをしたらわたし自身が嫌になる。


 雨の滴に紛れて七瀬についた沙奈の――を、拭いて消したかった。

 今はそれだけで。


「じゃあ、そういうことで」

「んん? 付き合うって意味で合ってる?」

「合ってる。けど、好きから嫌いじゃないに格下げしたから、それでよろしく」

「綾希、お前……やっぱり怒ってんじゃねえかよ。はぁ~~マジかよ……」


 怒りが収まるまではそういうことにしておきたい。


「じゃ、また」

「あ、あぁ。またな、綾希」


 雨も小雨に変わり、これ以上一緒にいても何となく嫌だった。七瀬と関係がすぐにどうこうになるとは限らないけれど、付き合うっていうのが消えるわけじゃない。


 せめてわたしが安心を覚えるまで七瀬を守るしかないっぽいから。


「38℃……ん~熱すぎ」


 昨日の雨は七瀬のおかげで確かに濡れなかった。


 ……けれど、しっかりと彼からうつしていたようで予想通りわたしは寝込んだ。

 流石に学校は休むしかなくて。


 今頃七瀬は学校に行ってる頃だろうか?


 もしかしたら隣にわたしがいなくて泣いてる頃かもしれない。


「あや、なんか買ってくるけど何食べたい?」

「氷」

「あーはいはい、アイスね。鍵は閉めてるけど、誰か来たら返事はしてね。じゃあ、寝てて」

「……いってらっしゃい」


 わたしの家には兄とわたしと両親の四人で暮らしている。兄はすでに社会人だけど、実家暮らしをしてる関係でしょっちゅう顔を合わせている。


 彼女いない歴何年とかでわたしが話相手。熱を出したわたしを看たいとかで会社を休む気満々だったけれど、それはやめろって言っといた。


 ――で、結局親に頼ることに。


 誰か来たら返事してとか寝かせる気ないじゃん。なんて思いながら、冷たいタオルを取り換えに部屋を出たら早速誰か来たっぽい。


 チャイムを聞くたびにどこかのファミリー向けコンビニに行った気になる。それがウチのチャイム音。


 でも、鳴るだけで声が聞こえてこない。

 いたずら? 


「あー誰かいませんか? ここ、綾希さんの家で合ってます?」


 わたしが声を出すのはおかしい気がしたのでそのまま放置してみたら、昨日沢山聞いた声が聞こえてくる。


「合ってません」

「お! 影が見えたからいるとは思ってたが、しかもその声、若干ハスキー入ってんな」

「犬は七瀬。わたしじゃない」

「……ってか、開けてくれませんか?」


 なんでこんな時間に来てるの?

 学校を休んだとか?

 それにわたしの家もいつ知ったんだろ。


「で、なに?」

「綾希が休んでつまらないから、早退してきた。ついでに、課題も土産に持ってきた」

「そういう押し掛けいらないし。家も何で?」

「先生が教えてくれた。葛西綾希は自分の彼氏ですって言ったらあっさり」

「じゃ、後で先生を訴えとく」


 彼氏になりたての七瀬が家に来て、家に上がるとか。

 もしかして何かの陰謀?


「ま、嘘だけど。そんなの先生に言うはずないし、言う必要ない。さっきその辺うろついてたら通報されそうだったから、試しに尋ねてみたんだよ。葛西さんのお家はどこですか? って感じで」


 ……そんなことだと思ったけど。


「って、家から出たばかりの人って――」

「綾希のお姉さんだろ? だから家を教えてもらえた」

「お姉さん? 七瀬って、視力いくつ? 相当目が老化してると思う」


 そっかぁ。お母さんきっと泣いて喜ぶよね。


「目はいい方だけどな。それより、何かして欲しい事ある? コンビニで適当に買ってきた」

「熱をもらってくれると喜ぶ」


 熱を逃がすには寝て寝まくって冷たいタオルとか、とにかく何かしてくれるだけでも楽。


 そう思っていたけど七瀬の方が熱を上げてたっぽい。


「……()()行為について、言い訳は?」

「しない」


 七瀬がした行為はあんまりドキドキしなかった。


「綾希から熱もらっといた。早く治って欲しいしお前が隣に座ってないと、俺、寂しいから」

「……ど、どうも」

「とにかく、来週までには治れよ? じゃないと、困る」

「なぜ?」

「もうすぐ前期の中間だし、お前と勉強したい。またノート貸すし」


 そういえばそんなものがあった。七瀬は真面目と優しさの塊なんだ。これはありがたいかも。


「七瀬、ありがと」

「お、おう。じゃあ帰るよ……って、なに? 何で服引っ張ってんの?」


 その後の展開を何も考えないまま七瀬の服を思い切り掴んでた。


 ん~どうしよ?

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