15.ありふれたシチュでありふれた告白
雨で濡れるのはわたし一人だけでいい。
でも、七瀬はそれが嫌っぽい。
だったら先生から傘を借りれば問題なかったわけで。特定の生徒に貸してくれるわけがないことくらい知ってる。
……それでも七瀬に迷惑かけたくない。
「綾希、どこ行こうとしてる? どうせ職員室とかなんだろ。やめろって、そんなの」
「七瀬は自分の傘使えばいい。わたしはどっかから借りるから」
職員室に行くだけなのに七瀬が凄く必死にわたしを止めてるけど、何で?
「良くない。あぁーもう、アレだ! よくあるシチュ(エーション)とか嫌だったけど、もういいや」
「んん? なにが?」
「とりあえず、外に出るから綾希も一緒な?」
「ん、分かった」
何か知らないけれど七瀬は何かと必死に戦ってる。
外玄関からだと雨がはっきり見えていてやっぱり本降り。折り畳みでも厳しいかもしれない。
当たり前だけど、傘立てには傘なんて入ってなかった。だからって人のを使う気にはならないけど。
「綾希って案外、意地張りなのな。俺が貸すっつってんのに拒否るとか、マジかよ」
「治ってないのにずぶ濡れって、どう考えても病院送り」
「送られねーし。そうじゃなくて、俺よりも綾希がやばいって。お前、俺からうつされただろ? 絶対明日寝込むはずだ。そんなことになったら、学校来ても面白くなくなるだろ……」
ああ、そうか。
七瀬的にわたしって、面白枠が認定されてるんだ。だから隣でいつも笑顔なのか。確かにわたしがいないと、つまらないって思うかも。
他にいないもんね、机顔になる女子。
「じゃあ、沙奈……ううん、他に面白い女子を見つければ解決する?」
「じゃなくて、綾希、手を出して!」
手を出すってことは手を繋ぐ?
そう言えば元カレとはまともに手繋ぎしてこなかった気がする。それがとうとう手繋ぎデビューとか?
「これ、やるよ。だから、家の近くってか、屋根のある場所に着いたら遠慮なく使ってくれ」
手繋ぎかと思ってたら、手に平の上に置かれたのは七瀬のハンカチタオルだった。
あれ?
「――で、それとは別にいま傘を開く。だから綾希は俺の近くに寄って。寄ったら歩きだしてくれ。嫌かもしれないけど、マジで頼むわ」
「んん? いいけど、ハンカチタオルって何のため?」
「いいから。それはとりあえず濡れない所にしまっといて」
七瀬がしたことに理解出来ないまま、七瀬のハンカチタオルをカバンの中に放り込んだ。そして、わたしは彼のそばに寄って歩き始める。
「スゲー雨だな。綾希、濡れてないよな? こういう時に俺の背の高さが役立つってもんだけどな」
「七瀬も濡れてない? 大丈夫?」
「俺、傘スキル高いから平気」
結局ありふれているどこかの光景のままに、二人で狭い傘の中で雨をしのいでいる。
「こういうのって、ただのクラス……隣の席だからってやることじゃないよな」
「もしかして、嫌い?」
「嫌いなわけないだろ! 俺は最初っから好きで、いつもこんなありふれシチュを夢見てたんだ」
「え? 好きって何のこと?」
一応とぼけてみせたけど、好きって多分わたしのことだよね。やっぱ机顔がきっかけなのかな。
「……そうだよ。だから綾希の」
「うん、好きってことで合ってた。面白いからで好きになった――で合ってる?」
「別にそれだけじゃない。でも、そういうことで合ってる」
こうして七瀬と一緒に雨降りの中を歩きながら、好きを確かめ合った。
――しばらくして気付いたことがあった。
それは、元気なわたしだけが全然濡れていなかったことだった。七瀬のことだから絶対に傘をわたし中心に傾けてくると思ってた。
予想してたから断ったのに、七瀬も案外意地っ張り。
「そういえば、沙奈のこと――は?」
「何とも思ってない。さっき言わなかったけど、あいつ休み時間に来てた。で、告られた。けど、断った」
「休み時間にちょくちょくいなくなってたから、そうかなって思った」
「それにあいつ……いや、何でもない」
「キスでもされたとか?」
嫌な予感と悪そうな感じは大概当たるもの。
それがこんな傘シチュで知ることになるなんてね。
……かと言って沙奈と同じことなんてやりたくない。とりあえず、家の近くに着いたら先のことを考えよっかな。
「七瀬。七瀬の家どこ? そこじゃなくてもいいけど、屋根のあるとこに行く」
「このまま一緒に来てくれればいい。お前、走って逃げないよな?」
「ないし」
「ならいい」
全開で傘を傾けられてて雨に濡れてないのに、ずぶ濡れで走って帰るとかないでしょ。
家に着いたら考える。
七瀬のことや沙奈のこと。
そして、わたしのことを。




