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きみのその手に触れたくて 〜リメイク〜  作者: 遥風 かずら
第一章 きっかけ

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14.予感の雨に

 昼前には戻ってくるくらい大丈夫――なんてことを七瀬は言っていた。


 その言葉を信じて、休み時間になる度に廊下を気にするくらいそわそわしていた。それでも、保健室から歩いてくる気配は無くて流石に心配になった。


 もう一つの心配事。


 それは、沙奈が休み時間に教室からいなくなってどこかに行っていたこと。もしかして保健室に行っていた?


 今まで誰かを気にしたことなんてなかったのに。沙奈の恋敵宣言がこんなにもわたしを動揺させるなんてつい先日までは無かった。


 窓側と廊下側。


 廊下に近い沙奈の動きの方が当然だけど早い。だから余計に不安に駆られてしまった。


 沙奈は七瀬が好きって言ってた。でも、だからと言ってどうしてそんなのわたしに……そんなの嫌だ。


 お昼時間になってようやくまとまった時間が取れたので保健室に行ける――そう思って向かおうとしたら、七瀬の姿が見えた。これも今まで無かったけれど、わたしはすぐに彼のところへ近寄っていた。


「七瀬。生きてた!」

「生還してきた。……その、なんつうか心配かけた」


 休み時間に沙奈が来ていたのだろうか?


 聞いてみていいのか正直言って迷う。


「休み時間にずっと保健室いた?」


 かなり遠回しに聞くしかない。ストレートには流石に無理だし。


「いたことはいたけど、寝てた。ん? もしかしてあの後も綾希、来てたの? 何か気配はしてたっぽいけど気付かなかった。ごめん」

「や、行ってないけど。誰かがいたんだ? じゃあ、多分お迎えだったかも?」

「笑えね~……せっかく会えたのに。それはねーわ」

「……うん?」

「何でもない」


 何かの気配がしてた……か。


 それってやっぱり沙奈――なんて、言えるはずもなく、代わりに死神に置き換えたけど、もし沙奈だったなら本当に嫌だ。


「ふわぁぁ……午後はずっと寝る。寝心地がいいベッドは寝やすいけど、一人だから寂しくてさ。隣に誰かいた方がいい。そう思った」

「それはそう思う。七瀬も机顔になるならすごい楽しみ」

「……どうだろうな。綾希に見られて笑ってくれるなら、それでもいいな」


 いつもこんなことわたしに言っていたっけ? 


 なんか意識しだしたら言葉の変化に驚きを隠せないんだけど? 


 あぁ、どうしよどうすればいいんだろ。


「……おやすみ、綾希。先生公認だし放課後まで寝る。帰る時、起こして」

「うん、おやすみ。七瀬」


 午後の授業が始まっても、机に伏したまま返事もしない七瀬。周りの女子たちは気にして見ていたけれど、先生は何も言わなかった。七瀬の言うとおり公認だったみたい。


 夕方に近付くにつれ、季節が変わりやすい春っぽくなんとなく髪が湿ってきた感じがしたと思っていたら曇ってた。


 そしたら案の定、放課後直前に雨が降り出した。


 七瀬は傘とか持ってきてるのかな?


 午後の授業が全て終わってHRも終わった。七瀬はまだ寝ていて、そんな時に弘人が声をかけてきた。


 流石に名前呼びはやめよう。そうしないときっと駄目だから。


「葛西、傘持ってきてる? 良かったら俺、貸すけど」

「大丈夫。それは林崎さんが使うものだし」

「――! あ、うん。まぁそうなんだけど。じゃ、じゃあまた!」


 七瀬をいつ起こそうかのタイミングを計っていた最中もあって、彼とは話をする気にならなくて。


 わたしもそうだけれど、寝てるのを無理に起こされるとテンションが下がるどころか気力も削られてしまう。自然に起きるのが一番だけれど彼は一向に起きる気配がない。


「七瀬」

「……」

「お迎えがきてるから、起きたほうがいい」

「……ん~? 死なねえし」

「もう夕方。目覚めてくれないと閉じ込められるし」


 これは本当。


 早く帰らないと玄関から出られなくなる。


「それもいいな」

「や、無理」

「即答かよ。へこむぞ……ってか、雨降ってるし! マジかよ~綾希、傘は?」

「持ってきてる――わけない」

「ですよね」


 予想してたみたいで特に驚きはないみたい。


「七瀬も?」

「俺は真面目で出来てるから折り畳み傘くらい持ってるけど、一本だけだし小さくて……」

「それは七瀬が使えばいい。わたし元気だから、ずぶ濡れでも平気」


 せっかくずっと眠って顔色を良くしているのに七瀬の傘を奪うとか、それは流石に無理。


「……綾希。俺の傘使え」

「や、それは……」


 病みあがりの人から傘を奪ってずぶ濡れにして再び寝込ませるとか、それはあまりに酷い話。


 そんなの、あり得ない。


 それなら職員室に行って正直に言って先生の傘を借りよう。


「綾希、行くな」

「――え?」


 出なければ帰れないけど、どういうこと?


 そう思いながら、彼の次の言葉を待った。

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