10.たぶん、好きかも
「沙奈の好きな人って……」
誰なのか知りたくて聞こうとしたわたしに弘人は遮るように――
「――葛西、あ、あのさ、話があるんだけどいい?」
まるで別人なのかと疑うくらいの口調で割って入ってきた。
……というか、どうして遮るの?
「あたし先帰るからさ。弘人、あとよろしく」
それが狙いだったかのように、沙奈がこの場からいなくなろうとしている。
「用事?」
「そうでもないけど、その方がいいかなって思ったんよ。じゃあね~」
そんな感じで置いていかれた。
林崎弘人――彼は七瀬と同じに編入してきた男子だけど、今まであんまり話してないしそもそも合わない感じがしてた。
「沙奈と一緒にいなくていいの?」
沙奈が帰っていった方を指差して訊いてみるも。
「いや、別に。今は葛西と話がしたい」
そう言って弘人はわたしを見ている。
「あ、そうなんだ。何?」
前と雰囲気が違うような?
随分と大人しくしてるけど、実はこれが素とか?
「ごめん、前に会った時は沙奈に合わせてた。あれ、本当の俺じゃないから」
疑問を浮かべるわたしに気づいたかのように、精一杯に首を振って否定している。
だからといってだけど。
「あ、うん。えっと、何が?」
別に気にしてないけど何が言いたいんだろ。普段話してない人って良くわかんないな。
「……特に用がないなら帰るけど」
この場から帰りたいと思って踵を返そうとすると。
「俺、葛西いいなって思ってて。でも、席離れてるし話す機会無くて。だから、あいつ……沙奈に相談してた」
すごく必死な表情で訴えてきた。
「うん……?」
「俺が気にしてるのは、本当は葛西なんだ」
「…………」
どういう意味だろう?
「葛西はあいつのこと、好きなんだよね?」
あいつ……?
それって七瀬?
「ううん、違う」
「え、じゃあ……」
「ちょっと分からない」
あれ、これって告られてるとかなのかな?
でも答えようがないなあ。弘人のこと、全然知らないし。それにもしかしたら七瀬のことが好きになってるかもだし。
「ごめん。返事はちょっと無理」
「そ、そうか。あ、でもこれからは学校でもちょくちょく話しかけていい?」
「……それはいいけど、弘人って双子?」
あのふざけた態度に言動――どう考えても同一人物とは思えないけど。
「へ? 何いきなり。林崎弘人は俺だけしかいないよ?」
「沙奈といた時と違うから別人なのかなって」
「面白いね。その辺、いいって思った。あいつもそうだと思う」
「はぁ、どうも……じゃあ、帰るから」
告られたけど何にも響いてこなかった。
これって多分知らないからだよね。そう考えると、やっぱり距離が近い方がいいな。だから七瀬のこと好きかもしれない。
なんたって彼は優しさで出来てる。
「うん、明日学校で! じゃあな、葛西」
「また」
わたしより先に帰った沙奈の好きな人が少しだけ気になる。だけど、沙奈のことだからそんなに本気じゃないかも。
わたしは――弘人よりも七瀬と話が出来ればいい。
隣の席だしすぐに話が出来るし。明日からは春眠よりも七瀬ともっと話をしようかな。




