プロローグ 始まりは別れのコトバ
「……別れたい」
「ん、分かった」
「ごめんね」
「別に、綾希が決めたことにオレが文句なんて言えないし」
「……うん」
中学の頃から付き合ってきた彼氏と別れた。
理由なんて特に無くて。
でも、強いていえば同じ学校じゃなくなったから。それが自分の中で辛かった。
元彼となった彼は、電車で川を一本渡った先の学校に通い続けている。
「なぁ、一応聞くけど何で?」
「何となく……」
「そか」
中学から付き合ってきたけれど、彼を意識したことなんて今まであっただろうか?
多分、思春期の付き合いってそんなもん。そんなものだから、たかが川を挟んだだけの距離ですら遠く感じてしまった。
それだけのことだった。
これを友達数人に話すと、「遠距離っぽくていんじゃない?」なんて聞こえてきていたけれど、それって多分意味そのものが違くて。
だって、別れる時に彼はそれ以上も以下でもなくて慰めも追及も何も言ってくれなかった。それも何だか悲しかった。
ただそれだけのことが理由。
そんな彼のことを自分から振ったくせに、高校二年生になったばかりの春だというのに、ダークなわたしが続いていた。
「おはよっ、綾希! ちょっと、もしかしてまだ落ち込んでんの? そんな気持ちになるんならヨリ戻せば?」
教室の日当たり良好な窓側の一番後ろの席で、顔を机に伏しながら生返事するわたしに、沙奈は呆れた感じで声をかけてくる。
そんな沙奈の声かけに反応するかのように、伸ばしに伸ばしたわたしの長い髪だけが吹き込んでくる風を浴びて靡いていた。
「あんたって、つくづくめんどい女子やね。……てか聞いた?」
「なにが~?」
呆れる沙奈に対し、わたしも生返事だけど。
「クラスに編入してくるっぽい話!」
「何者が?」
「男子が一名、や、二名だったかな?」
「嘘っ! ど、どこから!」
思わず凄い勢いで顔を上げてしまった。
「さぁね~そこまで知らんけど、なになに? 期待しちゃうん?」
「だって、これってチャンス到来ですよ? 沙奈さん」
「ですよねー綾希さん!」
すごいバカっぽいやり取りをしてる。それこそ二人で漫才でも始められるくらいに……でも、そんな甘くない。
……けど、わたしも沙奈も編入してくる男子たちに対して期待を膨らませていた。同じクラスなら寂しい思いをすることなく、付き合い続けられるんじゃないか――と。
そう、単純に夢を見て。
「とりあえず、二人ならどっちかに期待しとけば?」
「まだ分かんないけどしとく」
「んじゃ、あたしも混ざってイイすか?」
「あれ、沙奈って男より運動が大好きじゃなかった?」
「いい男なら別っしょ。応援するからさ、混ぜよろしく!」
今の時点でどうなるか分かんないのに。
「まぁ、それは別にいいけど」
この春、付き合ってきた彼と別れてダークなわたしは、春から編入してくる新たな出会いに何となくの期待をして始まりそうな恋の意識に予感を感じた。