プロローグ 8
自分よりもずっと年下の若者に吐露したことで照れくさくてしようがなかった。
「いいじゃないですか、この際です。胸の内に貯めていたこと、全て吐き出しちゃいましょうよ。あれ? そう言えばリアさん、追放されたって言ってましたが1人でこの村に来たのですか?」
「……いや、1人じゃないよ。当時、私の爺やと婆や。それに2人の孫だったチェルシーって若いメイドがついてきてくれたんだよ。屋敷に勤める使用人達は200人以上いたのに……たった3人だけが、私についてきてくれたんだよ。……給料だって払ってあげられないのに」
あの3人のことを思うと何十年も昔のことなのに、今でも申し訳ない気持ちで胸が締め付けられる。
爺やと婆やは高齢だったから仕方ないとして……チェルシーはあんなに若くして死ぬことは無かったのだ。まだ19歳だったのに、私についてきさえしなければ……。
思わず俯くと、ビリーが声をかけてきた。
「あの、リアさん? 大丈夫ですか?」
これ以上ビリーと話していると弱音を吐いてしまいそうだ。こんな孫のような若者に自分の弱い心をさらけ出したくはない。
「大丈夫だよ。ほら、もう家に帰りな。家族が心配しているだろう?」
「そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ。でも、もしかしてもう一度人生をやり直したいとか思ったことはありますか?」
何だろう? ビリーは妙なことを聞いてくる。
「まぁそうだね。でも人は誰しもそんな風に思ったりするんじゃないのかい? もう一度、あの頃に戻れたらって」
「そうですね~。確かにそれは言えるかもしれませんね。それじゃ俺、そろそろ帰りますね」
「あぁ、気を付けて帰りなよ」
「はい、失礼します」
ビリーは立ち上がると、笑顔を向けて家から出て行った。
—―パタン
扉が閉じられると、再び家の中は静まり返る。
「……全く奇妙な若者だね。こんな年寄りの婆さんを相手に長々と話を聞くなんて……うん? それにしても、よくよく考えてみると……あんな若者、この村にいたかねぇ?」
腕組みして少し考え……。
「いやだねぇ、身体だけでなく、頭もガタがきてしまったのかしら。考えてみれば近所づきあいなんか、殆どしていないんだから顔なんか一々覚えていられるはずないし」
飲み終えたカップを片付ける為に、立ち上がるとビリーの座っていた椅子の上に懐中時計が落ちていることに気付いた。
「おや?」
近付き、拾い上げてみた。
「へぇ~……これは中々良い品じゃないか」
これでもかつては貴族令嬢。物の価値を見る目はまだ健在だ。
「随分年代物だが、凝ったデザインだねぇ。今から届けようにも私の足では追いつけないし……でも忘れたことに気付いて取りに来るかもしれないから取っておいてあげよう。ん? よく見ると止まっているじゃないか。ゼンマイが切れているのか?」
そこでゼンマイを回して、時計の針を合わせてあげることにした。
カチカチカチカチ……
回せるだけゼンマイを回してみた。
「もう、これ以上は巻けないか……なら、今度は針を……え?」
懐中時計を見て、思わず我が目を疑った。なんと時計の針が逆回りで物凄い速さで回っているではないか。
「? な、何! これは……!」
グルグル回る針を見ている内に……私はだんだん意識が遠のいていくのを感じた——