プロローグ 6
私は自分を押しのけて、アシルの婚約者に選ばれたソネットを憎悪した。
そこで彼女に嫌がらせをして、アシルの婚約者を諦めさせようと考えた。
けれど時期王太子妃の立場を失った私は、もう自由に城に出入りすることを禁じられ、宰相の許可証が無ければ出入り出来なくなってしまったのだ。
私は何度もアシルに謁見を申し出たものの門前払いを受け、入城を許されることはなかった……。
仮にも侯爵令嬢であり、アシルの婚約者だった私を締め出す。これ以上ない屈辱に、増々ソネットへの憎悪を募らせていった。
どうすればソネットに接近できるのだろう……?
困った私はお金で人を雇い、彼女の動向を調べさせることにした。すると面白い情報を手に入れることが出来たのだ。
それは聖女の再臨とうたわれたソネットに、未だに神聖力が現れていないという。こと。
焦った王家と神官たちは少しでもソネットの神聖力を高められるよう、定期的に神殿を訪問して祈りを捧げることを義務付けたのだ。
私はさらに調べを進め、ソネットが神殿を訪れる日程の情報を手に入れることが出来た。
そこでお金を払って人を雇い、様々な手段でソネットに嫌がらせをすることにした。
彼女の乗って来た馬車の座席を水浸しにしたり、塗料をぶちまけたこともある。
時には物乞いの子供にお金を渡し、ソネットが馬車に乗る際に、わざとぶつかって怪我をしたふりをさせたり……ありとあらゆる嫌がらせをした。
決して自分では手を汚さず、陰からソネットが困る様子を見守ってほくそ笑んでいたのだ。
ここまで不運が続けば、神殿との相性が悪いと世間で噂になるだろう。
そして聖女失格の烙印を押され、アシルとの婚約も破談になるに違いない……そう思っていた。
それなのに一向にソネットは婚約破棄されるどころか、私の知らない所で婚約式が開かれることが決定してしまったのだった——
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その知らせは突然もたらされた。
婚約を破棄された私の立場はすっかり地に落ちてしまい、あれ程頻繁にあったお茶会の誘いが、ピタリと無くなっていたのだ。
『何故、皆私を無視するのよ……私の落ち度で婚約破棄されたわけでも無いのに……!』
イライラがピークに達した頃、ようやく1通だけお茶会の招待状が届いた。
差出人は私がアシルと婚約中、親しく付き合っていた令嬢。けれど婚約を破棄されてからは一度も連絡が来なくなってしまったというのに……。
今更どういう風邪の吹き回しか知らないが、やはり私の居ないお茶会は盛り上がらないのだろう。
喜び勇んでお茶会に出席した私は、明日王城でアシルとソネットの婚約パーティーが行われるという驚きの事実を聞かされた。
しかも、お茶会に出席していた令嬢たちは全員婚約パーティーに呼ばれており、私だけが招待を受けていなかったのだ。
彼女たちはその事を知っていながら、あえて嫌がらせで私をお茶会に招いていたのだった。
私が不愉快なお茶会を途中で退席したのは……言うまでも無い。