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3章3 村長 2

「これは又、随分唐突なお話ですな。ですがその様子では、もしかして長旅でもされてきたのですか?」


村長さんは背後にある荷馬車に沢山荷物が積まれていることに気付いたようだ。


「はい、そうです。私と弟は王都から一カ月かけて、こちらの村にやってきました」


「何ですと!? 王都から一カ月かけてですか!?」


私の話に驚いたのか、村長さんの目が見開かれる。60年前もこんなふうに驚かれた記憶がある。


「はい、そうです。都会の暮らしに疲れてしまって、弟と2人で静かな場所で暮らしたいと思って旅を続けてきました。ここまで来るのに色々な町や村を通ってきましたが、この村が一番気に入りました。もし空き家があるなら、そこを貸していただけないでしょうか?」


丁寧に頭を下げた。


「それは大変な長旅でしたね。見ての通り、ここは王都から一番離れた辺鄙な村です。しかも周囲を山脈に覆われている為、冬はとても寒い村ですよ? 今は秋ですが時期に寒い季節がやってきます。この話を聞けば、大抵の人達は移住を考え直すのですが……お2人はそれでも構わないのでしょうか?」


『ルーズ』の村は若者の数が少なく、子供の数もそれほど多くは無い。村からして見れば、私たちのような若者が暮らすのは歓迎するべきことなのだが、村長さんは村の生活の厳しさを、あえて教えてくれているのだろう。


「はい、私たちは大丈夫です。覚悟のうえでこの村に住みたいのです。どうか空き家の提供をお願いいたします。家賃を支払える分の貯えはありますので」


すると村長さんは笑顔になった。


「分かりました、良いですよ。空き家でしたら沢山ありますので、好きな場所を選んでください。家賃だっていりませんよ。ここに住んで下さるだけで、我等『ルーズ』村にとっては財産なのですから。それでは今からご案内いたしましょう。後3時間後には日が落ちてしまいますから、早めに住む場所を選んだほうが良いでしょうからね。では、少し出掛ける用意をしてくるので少々お待ちください」


村長さんが家の中へ入っていくと、ビリーがスカートの裾を引っ張ってきた。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「何?」


「王都から来た侯爵令嬢だってことは言わなくていいの? 王様からこの村に来るように言われてきたんだよね?」


「いいのよ。わざわざ言う必要も無いし、変に気を使って欲しくないもの。私はむしろ、村の人達には普通に接して貰いたいと思っているから」


 前回の私は気位ばかり高くて、村の人達に『私に気安く話しかけないでちょうだい』と相手にはしなかった。


それでも村の人達は気を悪くすることが無く、親切にしようとしてくれた。

けれど私は彼らを無視した。

婆や達がいなかったら、完全に私は孤立していただろう。


村に来て数年後に婆や、爺や、それにチェルシーが相次いで亡くなってしまった。

たった1人残された私を、村の人達は親切に接してくれた……。


だから、今回は村人たちと仲良くなりたい。


「あのね、ビリー。仲良くなるには身分のことは明かさないほうがいいのよ。だからビリーも誰にも言わないでね?」


「うん、お姉ちゃんが内緒にしておくって言うなら僕誰にも言わないよ」


その時。


「どうも、お待たせいたしました」


上着を羽織った村長さんが家の中から出てきた。


「では早速見に行きましょうか? 気にった空き家があると良いですけど」


「きっと気に入る空き家は見つかるはずです。案内をお願いします」


私は笑みを浮かべて村長さんに頭を下げた――





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