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1章7 父との再会 2

(お父様……)


 この時の父はまだ45歳。とても若々しかった。

懐かしさで思わず目じりに涙が浮かぶと、父が怪訝そうな顔を見せる。


「どうしたのだ? オフィーリア。もしかして……泣いているのか?」


私は気位が高く、人前で弱い姿を見せることを嫌っていた。

その私が涙んでいるのだから、父はさぞかし戸惑っているのだろう。


「い、いえ。太陽が目に染みただけです。大丈夫ですから」


指先で目頭を押さえた。


「そうか? まぁそれなら良いが……ところでだ」


ゴホンと父が咳払いする。


「オフィーリアよ。そのドレス姿を見るところ、どうやらアシル殿下の婚約お披露目パーティーに行ったようだな」


「……はい、行きました」


「私は今日の婚約披露パーティーを秘密にしていたのに。ひょっとして誰かに聞いたのか?」


「親切な貴族令嬢達が教えてくれましたので」


このやりとり……60年前と同じだ。


「何? それで出席したというのか? 招かれてもいないのに?」


「はい、そうです」


すると父は、身体を震わせ……。


「オフィーリアッ! 何ということをしてくれたのだ! 何故私に一言の断りも無く、参加したのだ!? 王室から出入り禁止をされていただろう!?」


「ええ、されていましたね」


頷くも、今では愚かだったと思っている。

何故私はアシルに固執していたのだろう? 彼はいつも私に暴言を吐き、蔑ろにしてきたのに。


「先程、アシル殿下から連絡があったのだ」


父の机の上には、魔力の込められた水晶が置かれている。この水晶は離れた場所にいる相手の姿を映し出し、会話が出来る様になっている。

とても希少価値の高い物で、この水晶を有する貴族はこの国では恐らくドヌーブ家だけであろう。

私がアシルの婚約者になったことで、王室から賜った伝達具だ。


「アシル様は何とおっしゃっておられましたか?」


知ってはいるものの、敢えて尋ねた。


「勝手に城に入り込み、神聖な婚約披露宴に現れた罰で……お前をドヌーブ侯爵家から除籍して『ルーズ』へ追放しろと命じてきた。……愚か者め!! 王室からの命令は絶対だ。むしろ極刑にならなかっただけ、ましだと思うしかない。良いか? ここを出る為に2日間の猶予をやろう。その間に荷物をまとめて出て行くのだ。分かったか?」


今迄散々私に甘かった父の初めての叱責。そして守ってくれると信じていた父の裏切り。

あの時の私は必死で父に謝罪して許しを請おうとしたが、無駄だった。

結局ろくな準備も出来ないまま、追い出されてしまったのだ。


だが、今回は違う。


「はい、お父様。謹んで王室からの命令、承ります」


すると父の目が見開かれる。


「な、何だと……? 本当にそれで良いのか?」


「はい、王命ですよね? 逆らえないことは知っていますから」


父と別れるのは辛いけれど、もう私は王都に未練はない。互いの顔色を窺い、足を引っ張りあうような貴族社会はもう、うんざりだ。


するとそれまで険しかった父の表情が変わる。


「……すまなかった、オフィーリア」


「え……? 何故謝るのですか?」


前回はこんな展開にはならなかったはずなのに。


「我々は……結局、王命には逆らえないのだよ。そんなことをすれば領民達が……」


父の顔が苦し気に歪む。

やはり、そうだったのだ。父は……領民達を守る為に、私を切り捨てたのだ。


「いいえ、お父様。どうか気になさらないで下さい。全ては自分で蒔いた種ですから」


「オフィーリア……」


「出立の準備があるので、私はこれで失礼しますね」


「あ、ああ。分かった」


父に会釈すると、書斎を後にした――


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― 新着の感想 ―
王宮に出入り禁止なら御者に言っとけばよかったんじゃ? 娘の行動パターンを把握してなさすぎかな 物語としてはしょうがないのかもしれんが
オフィーリアの家、侯爵家なんだから親戚やら分家から、 誰か引っ張って来れば没落しなかったんじゃないの? 民が路頭に迷うと言うのも変、領地はそもそも王国の物であり、 領主はその地を国から管理者として置か…
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