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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋とコタツの魔力


「俺はもう動きません」


「私も動けません……」


 下半身は暖かく、多幸感に支配される瞬間が何度も味わえる。


「あぁ~……なんで今まで買わなかったんだこれを……」


「私は……子ども以来ですかねぇ……」


 まったり。


 二人とも怠惰の極みを体現して机に突っ伏している。


 そう、これは――――コタツである。


 両手も布団の中にいれると、じんわりとした暖かさが手を包む。


 遥も同じことを考えていたのだろう、暖めているとコタツの中で遥の手が触れた。


「………………」


 どちらともなく手を握り、指を絡める。


「えへへ」


 遥が笑うと、どうしようもなく心も温かくなってくる。


「なんか……本来の目的忘れてしまいそうだなぁ……」


「良いんじゃないですかぁ……?」


 それもそうだな。


 家財道具も買い集めず、ただ寝る場所として機能していた俺の家が、こんなに幸せな空間になるなんて誰が想像できただろうか、いや誰も出来ていないはず。だって俺がしていなかったんだから。


 繋いだ手に力を込めると、遥が目を開けて俺を見た。


 その顔に、俺は顔を近づけて行くと――


 ピンポーン。


 ドンドン。


 なんともはや、けたたましい来客である。


「……いいんですか?」


「良いの良いの、それよりも……」


 更に顔を近づけていくと、インターホンとノック。そしてドアノブを捻る音が激しさを増す。


「………………」


「…………ふふっ」


 遥が堪えきれずに笑いをこぼす。


「また後で、ですね」


 そう言って軽く口づけをしてきた。


「………………」


 それだけで俺は有頂天である。もう舞い上がって空まで飛べちゃう気分。


「……さて! こんな礼儀知らずなお客様は何処のどいつですかバカヤロー!」


 大声を張り上げてみると。


「コ「コタツの「コタ「コタツ「コタツの!!!」


 なんか一杯いた。


 全員が同時に喋ったせいで誰がいるのかわからない。


 インターホンを覗いてみると。


「うーわ」


「どうしました?」


「いつものメンツ全員いる」


 興奮しきった顔でインターホンを覗き込むいつもの面々。


 とりあえず居留守はもう使えない、ので扉を開くと。


「どわあああっ!?」


 開くやいなや、俺を弾き飛ばして全員が入室してきた。


 転がる俺は華麗に受け身を取り立ち上がる。すると。


「はあ~…………」


 全員が幸せたっぷりな顔をしてすっぽりとコタツに入っていた。


「……何しに来たんだ?」


 誰も何も言わない。コタツの快感に身を任せているようだ。


 俺と遥は全員を見回すが、全員目を閉じてコタツの温もりを享受している。


 むう、家主を無視するとは中々あっぱれ。だが。


「答えないならコンセント抜くぞ」


「抜いたら殺すぞ」


 雫さんのセリフ。


 マジで殺意がこもっててちょっと怖かった。ちょっとだけな? ちょっとだけ。


 顎を天板に乗せ、目を閉じたままのひなたが言う。


「それは勿論、コタツを味わいに来たんですよ~……」


「俺、誰にも買ったことを伝えてないんだけど」


 俺は遥を見るが、遥もブンブンと首を振った。


 つまり、買った当事者が誰にも伝えていないのだが。


「なんで知ってんの?」


「いいじゃん、そういうことは……どうでも」


 というのは霜崎さん。どうでも良くないだろ。


 俺のプライバシーって何処まで筒抜けなんだろうか。……というか。


「俺入る場所ないんだけど!!」


 コタツに六人、ギッチギチである。


「いいじゃん、家主は私たちが帰ってから入れば……」


 志保ちゃんさんがコタツに身を任せながらそう言うが。


 俺の持ち物なら俺が好きな時に入りたいものですけどね?


「ジローさん、入りますか?」


「いや、大丈夫。遥はいたままでいいよ」


 というか、こんな女だらけのコタツに入り込んだら、何処に触れてしまうかわからない。


 最早入りたくても入れない状況になっていたのだ。


 しょうがない、帰った時に入るしか無いか……


 ………………


 …………


 ……


「なあ」


 誰も何も言わない。


「なあて」


 無視である。それとも俺は死んでるのだろうか。


「おーい」


 返事がない。俺は透明人間にでもなったのか?


「………………」


 寒いんですけど。


 かれこれ数時間。一度も動かない来客に俺はいい加減焦れてきていた。


「……トイレ行きたいです」


「お、ひなた! さあ行けすぐ行け!!」


「ちょっと携帯トイレ持ってきてもらっていいですか……?」


「ねえよ! っていうか勘弁してくれよ!」


「…………頑張って我慢します」


 するな、病気になるぞ。


 そして更に数時間後。


「……いつ帰るの?」


 俺は布団にくるまれて寒さを凌ぎ。


 全員は一度も動かないまま夜を迎えた。


 ちなみに遥も動かなくなってしまっている。


 夕飯はピザを出前。勿論取りに行ったのは俺だ。


 室内をちらりと見た時の配達員の顔といったらもう。


 男一人に対し、女性六人だからな。どんなハーレムなんだと。


 だけど言わせて欲しい。


 俺寒い。


「ジロー、ウェットティッシュくれ」


「くすん、寒いよう、寒いようっ」


 訴えながらウェットティッシュを用意するが、誰も動こうとしない。


 コタツを味わえない寒さよりも、コタツに負けているという現実がより一層俺を寒くさせた。


 そして日付が変わろうとしても帰ろうとしない面々を、強制的に追い出すのであった。


「イヤです! コタツで寝ます!」


「そうだよ! もうこの家に住むもん!」


 ひなたと二夕見さんのワガママを無視して、追い返した。


 その後コタツに入ると。


「………………」


 なんか、良い匂いがした。


「ジローさんも割と変態ですよね~……」


「ゴカイデス」



――――――――――



「じゃあジローさん、また後で」


「ああ、また後で」


 喫茶店の前まで遥を送り届ける。中でお義父さんが軽く会釈を返してくれた。


 喜びから調子に乗った俺は敬礼を返すが、その時には既にもう俺を視界に入れていなかった。


 いつかデレさせてやるんだからっ!


 同棲を始めて数日、特にストーカーに動きはない。


 付き合っている人間がいるとわかって諦めたのだろうか? それならそれで御の字ではある。


 だがそうなった場合、同棲期間はいつまでになるのだろう?


 解決するまで、という名目だけれども、解決が目に見えない場合はどうするというのか。


「どうした兄ちゃん、地獄の門番の首をひねってきたような顔をして」


「どんな顔だそれ」


 商店街を通ってバイト先へ向かっていると、フジさんが話しかけてきた。


 いつものようにゴム製のエプロンとメガホンを片手に持ち、客寄せスタイルである。


「例えばさ、呪いの手紙を送ったとするじゃん」


「おう…………おう?」


「その手紙がちゃんと相手に届いたかどうかって確認するには、どうすればいいと思う?」


「何度でも送りつける」


 なるほど。


 でもそれ最初に送る相手を間違っていたらずっと違う人に送り続けることになりそうだな。


 相手を間違えてたら迷惑防止条例違反になりそう。いや、間違えて無くても適用されるだろうけど。


「なんだってそんな物騒な事を聞くんだい?」


「この前の土下座に関連することだよ」


「マスターに呪いの手紙送るってことか?」


 なんでそうなる。


 俺の未来のお義父さんだぞ。口には絶対出さないけど。


 出したらぶん殴られそうだ。


「まあいいや、参考にはならなかったけど。ありがと」


「お、おう。一言多いな」


 手を挙げてフジさんと別れて前に向き直ると。


「あ、ごめんなさい」


 誰かにぶつかってしまった。すぐに謝罪する。


 俺よりも小柄な……男性だろうか? ジャケットのフードをすっぽりと被っていてよくわからない。


 だけど着ている色合いからして男性だろうと推測する。


「……ん?」


 ポケットに何かがある。


 紙のような感触のものが入っていることに気付き、ポケットから取り出すと。


「………………なるほど、俺に来たか」


『別れろ』その文字だけが書かれた白い紙が、俺のポケットにねじ込まれていた。

読んでいただきありがとうございます。


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