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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と始まった同棲


 ん……。


 意識が浮上していくのを感じる。


 カーテンの隙間から漏れる朝日を目端に感じながら、ゆっくりと目を開けると。


「…………おはよう、ございます」


 遥の顔が目の前にあった。


「…………?」


 なんで、遥が……同じベッドで?


 ……ああ、そうか。


 一緒に暮らし始めたんだったな。


「よく眠ってましたね」


「いつから起きてたんだ……?」


「30分くらい前でしょうか? 寝顔を見ていたらあっという間の時間でしたよ」


 なんか、恥ずかしい。


 いつもならベッドの中でウダウダするのだが、今日はもう起きてしまおう。


「もう起きるんですか?」


「ああ………………いやぁ?」


 上体を起こしたことで気付いたことがある。


 これは、動けない。


「どうしました?」


「…………いや? そうだ、遥。洗面所あっちだから、先に顔洗ってきたらどう?」


「え? …………ああ」


 きょとんとしたのも束の間、何故か妖しい笑顔を見せた。


 やだ、そんなSっ気たっぷりな顔見せたの初めてじゃない?


「じゃあ、先に行ってますね…………ごゆっくり」


 俺を跨いで顔を洗いに行った。


 活動可能になるには今しばらくクールタイムが必要なのである。


 ………………生理現象も大変だ。


 ………………


 …………


 ……


 俺、起動。


 遥が作ってくれた朝食も食べ終わり、二人でお茶を飲みながら向かい合う。


「今日こそ、やりきりたいと思います」


 何を、とは聞かない。聞いてしまうのはフラグになりかねないからだ。


 お互い主語はなく、意気込みを見せる。


「おう、やってやろうじゃないか!」


「ええ! 今日こそ…………ゴニョゴニョを手に入れてみせます!」


「遥ぁ!?」


 ギリアウトか? ギリセーフか?


 ………………


「セーフだったようだ」


「良かった……」


 言霊、という言葉がある。


 お約束、という言葉もある。


 買いに行こうとする時に限って邪魔が入るお約束。


 数々の怪奇現象を引き起こしたのは、買いに行こうとする言葉を発した際に引き起こされる。それは言霊。


 それら神秘的な現象は、俺たちがいくら言葉を濁そうと逃れられるものでは無いわけで。


「…………」


 俺のスマホが鳴っている。


 俺は遥を見た。遥も俺を見た。


 スピーカーにして通話ボタンをスライドする。すると――


『あ、先輩? 今日仕事休みですよね? もし良かったら――』


「お断りだぁ!!」


 電話を切る。


 残ったのは静寂を俺の息が切れた声だけ。


「良かったんですか、詳しく聞かなくて」


「今日はどんなフラグが来ようとへし折ってやる」


 その時。


 遥のスマホが鳴る。


「………………」


 遥が俺を見る。俺も遥を見た。


 ごくりと生唾を飲み込んだ遥は、意を決して通話ボタンをスライド。


『もしもしはーちゃん? よかったら必要なくなった――』


「ごめんみーちゃん!!」


 電話を切った。


 訪れた一時の静寂である。


「一体何だって言うんだ……! なんで毎度毎度邪魔が入る!?」


「この家、呪われてるんですかね?」


 やめなよ、そういう怖い話は。


 ホラーは映画の中だけで十分なんだよ?


 ……そうだ!


「電源だ! 電源を切ってしまえばいいんだ!」


「そ、そうですねっ!」


 二人ともスマホの電源をオフに。


 大きく息を吐いた。ふう、これでもう大丈――


 ピンポーン。


「ひぃぃぃぃぃ!?」


 声にならない声が出た。


 何度も鳴るインターホン。モニターから来客の正体を確かめようと……。


「あれー、いないのかな?」


「こんな朝早くに来たら流石に迷惑でしょ?」


 二夕見さんと志保ちゃんさんだった。


「でもでも、早ければ早いほど良いって言うよね」


「そんな、魚市場じゃないんだから」


 なんで魚市場で例えたんだあの人。


 扉の向こう側から聞こえてくる話し声、俺たちは息を潜めて居留守を使う。


 カシャカシャと郵便受けが開かれる音。


「やめなって花蓮、不審者みたいだよ?」


「んー? 見えるかなって……」


「深海魚みたいに言うのね」


 なんであの人は魚で例えるんだ。今日そういう日か?


 見えるわけがないのに、その時の俺は焦っていた。


 慌ててドアの視界から隠れる。遥を抱きかかえて。


「んむっ!?」


 遥の後ろに回り込み、口を抑えて部屋の隅へと飛んでいく。


「いないみたいだね」


「ええ、早く帰りましょ」


 カツカツと足音が遠ざかって行く。


 ………………


「……ふう…………」


「じ……ジローさん……?」


 気がつけば、遥を後ろから抱きしめるような形。


「こ、これ、必要でしたか?」


「必要じゃなかったけど、今は必要かもしれない」


 力を込めて抱きしめる。柔らかくて温かい。それに良い匂い…………いや、俺の匂いだこれ。俺と同じシャンプー使ってるし。


「んぅ……………………はっ! ダメダメ、ジローさん、ダメです!」


 されるがままになっていた遥が我を取り戻す。ちぇ。


「そういうのは夜になってから!」


 夜はもっとダメだ。我を見失う危険性がある!


 お義父さんと約束した以上、守らなければならない!


「とりあえず、買い物に行きましょう。色々買うものがありますよ!」


「そうだなあ……遥の日用品、衣装ケース……あ、化粧品もか」


「日用品と化粧品は家から持ってくるとして……調理器具と、掃除用品もですね」


「掃除機あるよ?」


 そう言うと、遥はデカデカとため息を吐いた。


 なんか俺変なこと言ったか?


「ジローさん? 掃除は掃除機だけで事足りるわけじゃないんですよ? 拭き掃除や高所の掃除、色々あるんですから」


「はあ」


「トイレにもキッチン周りにも、使うものは全部違うんです。それぞれ買い揃えないといけません」


「はあ」


「聞いてるんですか!?」


 聞いてる。聞いてはいるけど、何のことかちんぷんかんぷんである。


 それに……。


「俺は遥の楽しみを奪いたくないから!」


 掃除が好きな遥にやってもらうのが両者幸せへの一途なのだ。


 なのだが。


「覚えたくないだけですよね?」


「否定はしない」


「まったくもう…………ふふ」


 呆れてはいたが、楽しそうではあった。


「あっ」


 遥が手を打って、俺の顔を覗き込む。


「色々お揃いにしませんか?」


「お揃い? 血液とか?」


「なんでそう猟奇的な発想になるんですか。パジャマとかコップとか! お箸とかお皿とか!!」


 何やら楽しそうだった。


「一度やってみたかったんです、そういうお揃いってやつ!」


 まあ、俺は構わない。こと家の中の話となると俺の発言権は無いに等しい。


 俺の家なのにね、変だね。


「ベッドも必要だよな、狭いし」


「………………それなんですけど、邪魔になりますし……一つのままでもよくないですか?」


「…………狭いよ?」


「それが、いいんです」


 顔を赤らめながらそんな風に言われてしまうと、断ることなんて出来るわけもなく。


 照れてしまっていた俺も、何も言えずにただただサムズアップするだけだった。


「あ、そうだ! テレビいるよな。二人で映画鑑賞! いやあ、楽しくなるぞー!」


「………………ジローさん」


「どうした? いっそのことプロジェクターとかにしてしまうとか!?」


 テンションが上がってきた俺に、遥は冷水をかけるような事を言ってのけた。


「映画を布教するマンは、当分封印です」


「なんでえ!?」


 天国から地獄。短い天国でした。


 やっぱり俺の家のことなのに、俺の発言権は無さそうだった。

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