表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/113

失恋と餃子戦争


 久しぶりのバイトの日。


 急な休みにも対応してくれた店長には本当に頭が上がらない。


 遥とも仲直りが出来て、久しぶりに働ける俺は注意が散漫だったのだろう。


 後ろからこっそりと近付いてくる、砲弾のような少女に気付けなかったのだから。


「せんぱーい!!」


「ぐっはあっ!?」


 背後からの唐突なタックル。


 突然のひなたの衝撃に前のめりに倒れそうになるところを、すんでの所で受け身を取る。


「おー、さすが先輩」


「おー……じゃねえんだよアホ! また折ったらどうする!」


「今度は私が介護してあげます!」


「バカか!?」


 せっかく治ったっていうのに!


 まあ、怪我をしている間は何もしてこなかったひなたのことだ。


 フラストレーションが溜まっていたのだろう。


 しかしこいつにタックルされるのも慣れたものだ、特に腹を立てる場面でもない。


「今日同じシフトだっけ?」


「はい! 久しぶりの一緒です!」


 喜びを全身で表現するひなた。そこまで喜ばれるとこちらとしても嬉しくなってしまう。


「なら行くか」


 しかし俺はそんなことおくびにも出さない。喜んでいるなんて悟られれば最後、からかわれるに決まってる。


「……先輩も、ひょっとして喜んでます?」


「そそそそそそそそんなことありませんわよ!?」


 クソ、何故バレた!?


「スキップしてましたけど」


「…………これは、あれだ。普通に歩くことにまだ慣れてないんだ」


「え…………っ!?」


 まるで一世一代の勝負をした株が急下落したかのような。


 この世が終わったらこんな顔をするんだろうなあ、というような表情。


「た……大変です、今日は休みましょう! まずはリハビリからです!!」


 俺をグイグイとコンビニから引き離そうとしてくる。


 まだまだ鮮度の高い嘘を使ってしまった所為で、とんでもない事態に!


「う、嘘だって! 久々にお前と働けて喜んでたんだよっ!」


「まあ、知ってましたけどね!」


 俺の背中に抱きついてくる。


 ……今日は敵いそうもないな。久しぶりのスキンシップにひなたの鋭さは増しているようだ。


「さあ、行きますよ後輩! 今日も頑張って汗水流して働きましょう!」


「へいへい先輩」


 意気揚々と先導するひなたの背中を追いかけて、今日の仕事が始まるのであった。



 ………………



「ちょっと! 品出しばかりに集中してないでください!」


「はい!!」



 ………………



「販促の準備ってもう出来てます?」


「まだ始めてすら無い」


「今すぐやってきてください!」



 ………………



「ちょっと! ホットスナック無くなりかけてるんですけど!!」


「ごめん、販促の準備してたら……」


「言い訳しないでください!」


「はい」



 ………………



「おつかれさまでしたー」


「おつかれさま……でした……」


 久々の仕事はとてもハードでした……。


 というか、ひなたがいつにも増して厳しかった。


 俺にも勿論ブランクはあったが、それにしてもハードだったと思う。


「疲れました?」


「ああ、かなり……」


「今日は特別厳しく指導してみましたからね」


 なんで?


 ブランクあるのに?


「ブランクがあるからですよ。忙しい中に身を投じれば嫌でも体が思い出しますからね」


「んー……まあ、忙しすぎて考える暇もなかったかもなあ」


 体が覚えていることをひたすら繰り返すって感じだったかもしれない。


「せんぱいせんぱい」


 俺の服の裾をクイクイと引っ張る。


「私ラーメン食べたいです」


「お、いいな。食っていくか」


 ひなたの家に入るのは控えようと思っているが、外食ならば話は別。


 それにラーメンと聞いた瞬間俺もラーメンの胃袋になった。もう今日はラーメン以外食べられない。


 駅前に辿り着いた俺たちは、いつも行くラーメン屋ののれんをくぐる。


「らっしゃい!!」


 大将の威勢の良い声を耳に受け、空いてるテーブルに座る。


 何度も何度も来ているため、ほとんどのメニューは記憶しているしほとんどのメニューは頼んだことがある。


 だが席についてメニューを眺めるこの時間は、何とも言い難い楽しい時間だ。


「決めました? 私はいつものにします」


「久しぶりだし、ここはやっぱり……いつものかな」


 二人で目を合わせ、笑い合う。


「大将! 私はチャーシュー麺と餃子と半チャーハンで!」


「俺はチャーシュー麺と餃子とチャーハンと唐揚げ!」


「あいよ!」


 オーソドックスながらも定番の頼み方。


「でも先輩~、寂しかったですよ~」


 向かいの席で足をプラプラ。俺の脛を何度も小突く。


「しょうがないだろ、折れちゃったんだから」


「私がお世話したかったです」


「バカ言え、年下の世話になんてなれるか」


 俺にだって一応先輩としてのプライドはある。


 例えそれが砂粒のような大きさでも。


「でも、あれですね。また一緒にお仕事できるのは楽しかったです」


「楽しみだと感じてたのは最初だけだったな……俺は……」


 後は忙しさに目を回していたら気がつけばシフト終了、みたいな。


 それもこれも目の前にいる、自分のショートポニーをいじってる後輩のせいだが。


「どうしたんですか? 触ります?」


 頭を差し出してくる。


 俺は手を伸ばし…………頭をはたいた。


「あいたっ」


 勿論力は入れていない。


 顔を上げたひなたの顔は最初は不満そうだったが、すぐに笑顔に変わった。


「ほい、まず餃子!」


 餃子が二皿、テーブルの上に置かれる。


 割り箸を取り出し、ひなたに渡す。


「いただきます」


「いただきますっ!」


 俺はタレを直接かける派、ひなたはタレを小皿に乗せて、つけてから食べる派だ。


 どうでもいい? でも両方試してみて欲しい、意外と味が違うのだ。


「んー! やっぱりここの餃子が一番です! チルドや冷凍のだとなんか物足りないんですよね」


「わかる、ここの焼き立ての餃子を食べると他のが食べられなくなるよな」


 タレの味の後から来るタネの味。たまりません。


 しかしパクパク食べすぎるとラーメンが来た時には無くなってしまう。ここは自分でセーブしなければならない……のだが……。


「……無くなっちゃいました」


 既に食べきった後輩がいた。


「俺の餃子を見るな」


「じーー」


 口に出して言うな。


 ……はあ。


「一個だけだぞ」


「だから先輩大好きです!」


 餌付けしてるみたいな言い方だな。


「あいよ、チャーシュー麺! チャーハンすぐ持ってくるからね!」


「ありがとうございます!」


 湯気が立つラーメンが目の前に、思わず生唾が出てくるほどだ。


 スープを飲み、麺をすする。うん、いつも通り美味い。


 ひなたを見ると、満面の笑顔で食べていた。これだと料理人冥利に尽きるってもんだろう。


「はいよチャーハンと唐揚げ! しかしお二人さん久々だねえ」


 チャーハンと半チャーハンと唐揚げ六個入り。


 これで全部揃い、少し暇になったのか話しかけてきた。


 これもまたいつも通り、ひなたの人懐っこさによるものだろう。こいつと行く店は大体が店員と顔なじみになりつつあった。


「ええ、俺が骨を折っちゃって。来たくても来れなかったんです」


「へえ骨折。そりゃ大変だったねえ。嬢ちゃんの夜が激しすぎたのかい?」


 なんて下ネタを交えてガハハと笑う豪快な大将。


 気さくないい人だが、事ある毎に下ネタをぶっこんでくるのが玉に瑕だ。


 そして陽気なひなただが、こういう他人から振られる下ネタにはめっぽう弱い。


 だから今も、顔を真っ赤にしながらラーメンをすすり続けているのだ。


 なので俺が対応することになるのも、これもまたいつものこと。


「それだと良かったんですけどね」


「ぶっ!?」


 反応するな、合わせてるだけだ。


「実際はバーゲンセールのおばさまたちに吹き飛ばされて折っちゃったんですよね」


「あー……うちのカミさんも今日は何人の骨折ってやったとか自慢してたなあ……」


 嘘でしょ? 怖くない?


 そんなの聞いたらもうおばさまの群れに入ることなんて出来ない。


「まあ、見た感じもう治ったんだろ? 良かったな!」


 彼女の介護のおかげだな、なんて笑顔で言いながら去って行った。


 特に言及することでもないので黙っているのだが、大体の店が、俺とひなたをカップルだと思っているようだ。


「実際は彼女でも何でもない人に介護してもらってましたけどね」


「うるさいな」


 言い返せない俺が悔しい。


「食べないんですか? 冷めちゃいますよ」


 確かに。話していて食べていなかった。…………って、あれ?


「最後の餃子は……?」


「……知りませーん?」


 皿に残しておいた最後の一個が、消えていた。


 俺は食べていない。だとすれば犯人は目の前にいるヤツだけなのだが。


「吐け!!」


「いいんですか? 食べるんですか?」


「吐くな!!」


 どっちなんですか、とか言いながら咀嚼する餃子泥棒。


 くそう……! 最後の楽しみに取っておいたのに……!!


「また今度来るからな!」


「はーい、今度は取られないように気をつけておいてくださいね!」


「絶対盗ませねえぞ!」


 とは言ったものの。


 大将と話している隙にやっぱり盗み食いするひなたであった。

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・いいね・感想を、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ