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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と次郎生誕記念祭


 宴はまだまだ続きます。


 というか始まってもいない、俺の誕生日。いわゆるバースデー。


 生まれて初めての誕生日会。あれ、マジで?


 思い出してみる。マジでした。


 成人になってようやく催された俺の誕生日会にテンションはぶち上がる。


「さあ、次は誰だい!?」


「なんか急に偉そうになったわねこいつ」


 霜崎さんの嫌味なんて俺の耳には入らない。


 ウキウキワクワクの俺にとって、多少の嫌味なんてなんのその。


「ジローくん、久しぶり」


「二夕見さん!!」


「…………名字?」


 だって言いやすいんだもん。


 しかしここは祝いの場、特に深く追求することもなかった。


「ジローくん、なにも教えてくれなかったね」


「……いや、なんというか。忙しかったと言うか」


 事実、火事が起きてから実家に行ったりと、なんだか事が目まぐるしく起こっていた。


 しかしながら全員の現状を説明しておくべきだったとは思う。


「ごめん」


 頭を下げて謝罪。


 そんな俺の肩に手を置いて、二夕見さんは優しく言った。


「言ってくれれば私の家に連れて行ったのにね」


「…………二夕見さん、実家暮らしじゃなかったっけ?」


「そうだけど?」


 なんだか既成事実が無理やり作られそうな怪しい笑顔だった。


 ……説明しておかなくてよかったのかもしれない。


「まあ、それはともかく。はいこれ」


 長方形の薄い白い紙袋だった。


 セロハンテープを剥がし、中身を取り出すと。


「こ、これは…………っ!?」


 ファンシーな絵。


「ジローくん映画好きだって言ってたし、映画に纏わるものがいいかなと思って」


 デフォルメされたサメ。


 それらが様々な形態に変化した映画の図鑑であった。


 とてもかわいい。


 これは素晴らしいものだ。


「ありがとう!!」


「…………今から、家に連れて帰ってもいいかな?」


「それはダメです」


 油断も隙もない。


 唇を尖らせて下がる二夕見さん、言葉はちょっとアレだけど俺のことを考えてくれたプレゼントはとても嬉しい。

 

 なにせ一つ前のプレゼントが駄菓子詰め合わせなのだ。地獄から天国といったプレゼントの質である。


「ちょっと、なんか失礼なこと考えてない?」


 志保ちゃんさんが目ざとく……目ざとく? 俺の心中を読み取った。


「気の所為」


 追求をさらりとかわし、次に俺の目の前に立つのは。


「………………」


 俺を睨むのは、俺の後輩。


「先輩、最近冷たいです」


「そうかな」


 そうです、と頬をふくらませる。


 今まではひなたしか構う相手がいなかった分、ひなたに全力で構っていた。


 だが何人も知り合いが出来たりした以上、やはり昔とは同じにはいかないのかも。


「でもいいです。これからはいーっぱい遊んでもらいますからね!」


 言いながら笑顔で笑うひなたは、いつもどおりの彼女だった。


 底抜けの明るさにいつも救われる。


 そして差し出した丁寧にラッピングされた物は薄い長方形。


 ラッピングを丁寧に剥がし、開けると。


「新作のゲームです。前に欲しいって言ってましたよね?」


「あ、ああ……言ってたけど……」


 これは……どうしたものか。


 嬉しい、嬉しいのだが。


「……どうしました?」


 リアクションが無い俺に対して、少し不安そうに伺ってくる。


 ……しょうがない、言うしかないか。


「あのな……ひなた。俺、ゲーム機、焼けた」


「……あ」


 しまった、という表情。そういう表情をさせたくないから言おうかどうしようか迷ったんだが。


「え、ええと……じゃあ、私の家で遊んでいけばいいですよ!」


「そ……そうだなっ!!」


 本当に行くかはともかくとして。


 こうでも言わないと気まずい空気は払拭出来ないだろう。


 ふと貰ったゲームに目を落とす。


 裏面を見る。


 …………行ってもいいかな。


 見てるとやりたくなってきた俺だった。


「さて、次はあたしの番な訳だが」


「……し、雫さん…………」


 怒ったような表情を見せる雫さん。当然のことだろう。


「よくも逃げやがったな」


 ……これは、本気で怒っているのだろうか。


 座ったままの俺を見下ろす彼女の目は細く、睨みつけているように見える。


「……まあ、いきなり言ってテンパらせたのも事実だしな。今回は不問ってことにしてやるよ」


 慈母のような沙汰が下った!


 と思うが早いか、雫さんは俺の耳元に口を寄せて、囁いた。


「ちょっと離れたくらいであたしの気持ちが冷めるとでも思ったか? 甘いんだよ」


「………………え」


 離れていく。


 不敵に笑うその表情は、とても自身に満ちた物だった。


「気ぃつけろよジロー、遥。気を抜いたら奪っちまうからな」


「させませんけどね」


 遥も笑顔で応じていた。……なんか、俺がいない間に、俺について話は済んでいるのだろうか?


「ほらよ」


 大きなラッピングを放り投げられる。


 重量物なら痛そう……! と身構えたが、俺の胸に飛び込んできたそれはとても軽やか。


 ……なんだろう、柔らかい。


 ラッピングを開けると、そこには黒色のセーターが。


「大事にしろよ。初めて編んだんだ」


「って、手編みですかこれ!?」


 出来栄えが凄い。


 店で買ったって言われても遜色ないほどだ。


「おう、頑張った。おかげで原稿はまだ真っ白だ」


「先生!?」


 編集さんが驚きの声を上げるが、俺はセーターに夢中。


 料理もやろうと思えば出来るし、編み物も出来るとか、もしかしてガサツなだけで完璧超人なんじゃなかろうか。


「じゃ、最後は私ですね」


 遥が前に立つ。


「と言っても、そのセーターの後だと霞んじゃうかもしれませんけど……」


 後ろ手にあるのはラッピングした紙袋。


 そして俺は、彼女の唇にばかり目がいっている。


 ダメだとわかってはいるのだが、目が吸い寄せられていく。


「……ジローさん、何処見てるんですか」


 俺の視線に気付いたのか、顔を赤くして唇を抑える遥。


「あ、いや……ごめん」


「……なんか、ただならない気配を感じますが」


 そして俺たちの空気に異変を感じたのはひなた。


 二人で顔を赤くしながら俯いていたら無理もない。


「なんかあっただろ」


 今度は雫さん。


 何かあったか、と聞かれれば。勿論何かありましたが。


 そこは言う必要がないといいますか、恋人だけの秘密と言いましょうか。


「話せ」


 短い言葉、しかしそれに強制力は含まれていた。


 俺と遥を交互に見比べる雫さんに、遥は根負けしたのかゆっくりと口を開く。


「じ……ジローさんが……………………地元で女の子とキスしてたんです!!」


「遥ぁ!?」


 なんでそれを言う!?


 一番言わなくていい情報じゃない!?


「へぇ……」


 雫さんの目が細まる。


 その細い瞳の奥に殺意が含まれてそうな気がして、俺の体は本能的に逃げようとするが。


 俺の両肩を抑え込む二つの手があった。


「そんなことがあったなんてね」


 左肩に二夕見さん。


「先輩……ズルくないですか?」


 右肩にひなた。


 そして前には雫さん。


「あたしのは逃げた癖に……他の女とはするんだな?」


 睨んでいた視線がへにゃりと歪む。


 全身が恐怖に満たされていたはずが、途端に罪悪感に駆られてしまう。


「い、いや……不可抗力なんです」


 とても男らしくない言い訳。


「ほう、不可抗力」


 そしてすぐに言ったことを後悔した。


 ニヤリと笑う雫さんが、俺の後頭部をがしりと掴む。


 そして、近付いてきた。


 俺は思わず目を閉じる。


「ちょっ……!?」


 驚きの声は遥のもの。


 そして俺の唇に何かが押し付けられた。


 更に――何かが流れ込んでくる。


「んん!?」


 目を開く。


 すると、ワインのビンを持った雫さんが俺の唇に流し込んでいるではありませんか!


「酔って前後不覚になって全員とキスするぞコラァ!!」


 アルハラ!! アルハラ!!


 しかし口を塞がれている俺は飲み込むしか手段はなく、旅の疲れと空きっ腹にすぐにワインは染み込んでいく。


「じ、ジローさん!! これ!!」


 遥が慌ててラッピングを破って渡してきたのは。


「わ……私も自分で編んでみました!」


 手編みのマフラーだった。


 水色の明るい色のマフラー、手に取ってみるとそれは柔らかく、彼女の愛情を感じる気がした。


「なんか、今渡さないともう渡す機会がない気がして……」


「それは、どういう――」


 最後まで言葉を紡ぐことはなかった。


 何故か? 二本目のワインが俺の口に押し込まれたからだ。


「んぐぐっ!?」


「飲め飲めー!!」


 自分も飲みつつ俺にワインを押し付けてくる。


「私もー!!」


 お前はダメだ! 未成年だろ!!


 口からビンが離れた。タイミングは今しかない!


「遥……ありがとう、大事にするよ――もがっ!!」


 三本目。死んじゃう!!


 そこからの記憶は、もう、ない。

読んでいただきありがとうございます。


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