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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と積極性


 ぐっもーにん皆様。


 リビングのソファーからの目覚め、実家に帰ってきたというのにその目覚めは最悪の一言と言ってもいい。


 朝練によって早起きなノボルは、熟睡した俺の睡眠を邪魔しようとわざと物音を立て。


 母親は俺が寝てると言うのにテレビをつけてニュースを見始める始末。


 唯一物静かだったのは元々無口な父親のみだった。


「なんで家に帰ってきたのに自分の部屋で寝れないのかね」


「寝てもいいよ」


「あそこは自室っていうより物置っていうんだよ」


 家電製品の空箱、季節違いの衣類を箱に詰めて無理やり押し込み。


 またいつか使うかもしれないから。という理由で捨てずに取っておいてあるものが乱雑に積み上げられている。


 あんな場所で寝た日には出られなくなること請け合いだ。


「ていうかジロー」


 母は俺の姿をしげしげと見る。


「あんた、怪我してたんだね」


「今更!?」


 さんざん面と向かって話したよね!? え、今まで気付いてなかったの?


 どんだけ俺に興味ないんだ。


「それって、ファッション?」


「んなワケ。普通に両方折れてんだよ」


「ふーん」


 ふーんて。


 どんだけ俺に興味ないんだ。


「じゃあ、母さんパート行ってくるから」


「あれ、俺の朝ご飯は?」


「これでなんか食べてなさい」


 そういって手渡したのは、一枚の硬貨。


 それは白く光る白銅、表面には桜の刻印、そして裏にはデカデカと100という数字。


 つまり百円。


「最近の物価高騰なめんな!?」


「いってきまーす」


 そして誰もいなくなった。


「くそ……せっかく帰ってきたのに誰も優しくしてくれない」


 リビングのソファーにもう一度沈み込む。


 小さく嘆息、その後天井を見上げると。


「………………」


 のどかがいた。


「うわああああああ!?」


「っ……!?」


 ビクッと体を跳ねさせるのどか。それはこっちがやることじゃないかな。


 な、なんでいんの……?


 俺の心を読んだのか、のどかはぽつりと説明を始める。


「お、おばさんが……入れてくれた」


 ああ、なら納得…………じゃなくて!


「どうしたんだ、こんな朝から……?」


 黙り込む。そのまま俺をじーっと見つめていた。


 …………これはあれだな、我慢比べだな。


 寝転がっていた体を起こして、のどかと相対する。


 前髪の奥にあるであろうのどかの目を一直線に見つめる。


 見つめ続ける。


「………………」


「………………」


 お互いに何も言わない。


 黙って見つめ合う、それは変顔のないにらめっこ。


 笑ってはいけない時、それは逆に真顔の方が面白いパターンもあったりなかったり。


 やがてふいと目を逸らしたのは――――のどかだった。


 よし! 俺の勝ち!


「あ……遊びに、来たの。ジローくんのところに」


 何やら顔を赤くしていた。


 ははぁん? 負けたのがそんなに悔しいんだな。しかし勝負は非情、再戦の機会なんてものは存在しないのだ。


「しかし、遊びに来たって言っても……」


 時計を見てみる。


 午前八時四十分。


「早くね?」


「……たぶん」


 たぶんじゃないだろう。


 小学生ですらこんなに早く遊ばないだろうし……それに、今日は平日だ。


「のどかって、今何やってんの?」


「……? 遊びに、来たんだけど」


「じゃなくて。仕事とか大学とか」


 フリーズする。前髪で目が見えないため元々無表情っぽく見える彼女は、より一層無表情に見えた。


 固まること数分、ようやくフリーズが解けたのか、肩がピクリと動いた。


「……も、黙秘します」


 黙秘権を使ってきた。


「却下します」


 却下した。


「…………………………か、家事手伝い、とか?」


 家事手伝い。


「人はそれを?」


「……無職と、呼ぶ」


 そのとおり。


 しかし……そうなのか。


「……幻滅した、よね」


 幻滅は……していない。というか意外だった。


 何でも真面目にコツコツと取り組むという印象だったからな。


 まあ、しかしここは田舎。もう自分で認めてやる、ここは田舎。


 働き口は少なそうだし、職がないというのもしょうがないのかもしれない。


 俺が何も言わないのを不安に思ったのか、のどかは言葉を続けた。


「め、面接でね、上手く喋れなくて……」


「…………ああ~……」


 妙に納得してしまう。


 あっさりと納得したのが気に入らなかったのか、少し頬を膨らませていた。


「いざとなれば……おじさんのところの事務として雇ってくれる……って」


「おじさんって、何してる人?」


「運送会社……」


 物流は途絶えることがないだろうし、優良物件ではありそうだけど。


 のどかの表情を見るに、親戚に頼るということは本意ではないのだろう。


 十年以上付き合いがあったとはいえ、俺も彼女と話し始めたのは昨日から。


 会話を重ねてはいないが、小さい頃から姿を見ていて解っていることはある。


「口下手っていうのはどうしようもないけど……勿体ないよな」


「……勿体ない?」


 俺は頷いて、彼女を指差す。


「ああ。お前…………お前って呼んでもいいか?」


 頷かれる。了承を得たことで言葉を続けた。


「他の分野には案外積極的じゃん? だからその積極性を、もっと外にも向ければ十分やっていけそうなのになーと思ってな」


「……積極的、かな?」


 今度は俺が頷く。頼まれてもいないのに、朝から夕方まで俺の背後につきまとい。


 小学生の頃のあだ名なんて鬼の守護霊だったしな。


 今でもこうして、朝っぱらからやってくるくらいだ。これが積極的と言わずに何だというのか。


「でも、これは……やりたくて、やってることだし」


「それだよ。のどかがやりたくてやってることには、前向きに動けるんだ。それをもう少し他に向ければ…………といっても、それが難しいんだけどな」


 言うや易し、行うは難し。


 所詮は外野が言ってるだけのこと。そう簡単に行けば苦労しないだろう。


「わ、私は……ジローくんしか、友達がいないから……」


 その言葉、学生時代に聞きたかったものである。


 いや、監視役と決めつけていた当時に、素直に聞き入れたかは疑わしいけれども。


 それでも多少は浮ついただろう…………たぶん。


「っていうか、ノボルは?」


 俺が友達だって言うなら、あいつも友達の範疇に入るんじゃ?


「ノボルくんは…………ジローくんの弟って感じ」


 感じっていうか事実そうなんだけど。


 え、実は血が繋がってないとかある? 俺の両親の若い頃の回想って必要かな? いらない? そう……。


「うん……でも、頑張ってみる」


「……ん?」


 見れば、胸のあたりで握り拳を二つ作っていた。


 それは俺を殴るポーズか……はたまた……。


「積極的に、なってみる……!」


 自分を鼓舞するポーズでした。


「おう! 積極的に俺の朝飯買ってきてくれ!」


「う、うん……! わかった……!」


 髪の毛を揺らして踵を返し。


 玄関へと向かった。


 って。


「待った待った待った!! 一緒に行くって!」


「え……?」


 そんな『マジで?』みたいな顔しなくてもよくない?


 俺の朝飯なんだ、俺が行かなくてどうするよ。


 このジロー、パシられることには慣れていてもパシらせることには慣れていないのだ。


 立ち上がって、松葉杖を取ろうとすると、その前に立ちはだかるのどか。


「……今日は、私がジローくんの……松葉杖の代わりになる」


 失くしてもいないのに?


「そういう積極性はいらん」


「……うぅ」


 そして二人で外出して、少し遠いがコンビニへと二人で歩いた。


 24時間営業ではなく、0時で閉店するタイプのコンビニである。


 やっぱ田舎だわ、もう言い訳出来ないわ。


 勿論働いている人はこの町……村……集落? の人。


 大人であれば俺を見ても騒ぎはしないだろうが、老人なら完全にアウトである。


 さて、レジに立ってる人は……?


「……オウ」


 お爺さんでした。立ってすら無い、椅子に座って眠っていた。


 これは、俺は行けないな。隣で同じく覗き込んでいたのどかを見る。


「これで、何か買ってきてくれ。のどかの分もな」


 お札を一枚渡す。まるで始めてのおつかいだとでも言うかのように、気合を入れるのどか。


 いざ入店。俺は壁に身を隠し、のどかのお使いを温かく見守る。


「お、のどかちゃんじゃないか。今日も良い天気だねえ」


「お、おはようございます……」


 知ってる人には普通に喋れるんだよな。少しどもったりはするけど。


 でも、知らない人となると途端に喋れなくなる。重度の人見知りらしい。


「今日もおっぱい大きいね!」


「ふ、普通です……!」


 セクハラやんけ。


 ちなみに、普通である。


 ひなたと雫さんのを見てきた俺が言うのだから間違いない。


 …………かくいう俺もセクハラ気味だったのかもしれないな。猛省。


 レジを済ませて、慌てて店の外へと出てくる。


 その顔は真っ赤であった。


「…………あのお爺さん、苦手……」


「得意なやつはいないだろうなあ……」


 年寄りのセクハラにご立腹なのか、珍しく饒舌に愚痴り続けるのどかの言葉を聞きながら、買ってきてもらった惣菜パンにありつく俺。


「あ、買ってくてくれたパン美味い」


「……え、そう? ……良かった」


 へにゃりと笑う。さっきまでぷりぷりと怒っていたのは何処へいったのやら。


 とてもチョロそうだった。

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