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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と商売繁盛


「あのぉ……少しいいですか?」


 大学からの帰り道のこと。


 唐突に背後から声をかけられた。俺は振り向く。


「…………」


 お爺さんがいた。


 杖をついて背骨は曲がり、こうして立っていてもプルプルと震えている。


 そんなお爺さんが俺を見上げてフリーズしていた。


「……あの…………?」


 思わず声をかける。


「あ、ああ……」


 それでようやく正気を取り戻したのか、ズレたメガネを上げてもう一度俺を見る。


「この土地に住まう荒御魂様ですか?」


「失礼な!」


 いや、失礼なのか?


 スマホを取り出して検索してみる。


 ………………。


 失礼じゃなかった。


「それで、どうかしました?」


 気を取り直して、最初の用件に戻ってみる。


「この辺に、喫茶店があると思うのですが……」


 喫茶店。チェーン店も挙げればそれこそ枚挙に暇がないといった数だけれども。


 お爺さんは手帳を見ながらあたりをキョロキョロ。


「それ、見せていただいても?」


「ええ、はい」


 手帳を見せてもらうと、住所と簡易的な地図、そして店の名前が書いてあった。


 喫茶マタン。


 ………………


 遥のところの喫茶店じゃんこれ!


 なんとここに来て喫茶店の名前を初公開である。


「この店なら知ってますよ、案内します」


「おお、なんと……ありがたやありがたや……」


 そんな、両手を擦り合わせられても俺は神様じゃないし。悪い気はしないけど。


 悪い気はしないけど!


 お爺さんの歩く速度に合わせてゆっくりと歩いて行く。


「ここは、珍しい場所ですね」


「そうですか?」


 俺は住み始めて一年も経っていないが。


「駅前は人通りが多く、都会感が出ているにも関わらず、こうして一歩外れると途端に長閑になる。動と静がまるで隔てられたみたいに」


「…………そう、ですね?」


 前半しか理解できなかった俺だった。


 ドウトセイ? オットセイの仲間?


 歩いていると、人の喧騒が耳に届くようになる。


 しかしここは駅前ではなく商店街。


 昼頃ということでまだ人も少ないが、それでも話し声などは届いてくる。


「未だ、賑わいを見せる商店街があるんですねぇ……」


 それは俺も引っ越してきてから思った。


 ショッピングモールやスーパーやコンビニという便利な施設によって、個人商店が建ち並ぶ商店街は消滅の憂き目にあっていた。


 そんなニュースはテレビやネットでそこかしこに流されていて、他人事ながらも心配していたのだけれども。


 しかし、この街の商店街は未だ人の賑わいを見せる珍しい場所だった。


「楽しい場所ですよ。良い人ばかりで」


「ほう……そうなんですか……」


 商店街に少し入り、少ししてから横道に逸れると見えてくるのは遥の喫茶店。


 そんな時だった。


「おう兄ちゃん! 今日も徘徊かい!」


 魚屋の店主、フジさんである。


「誰が土地神だって!?」


「そんないいもんじゃねえだろ」


「失礼な」


 これは失礼だろ…………だよな?


「この爺さんは? 兄ちゃんの爺ちゃんか?」


 こら指を差すな、失礼でしょうが。


「遥の喫茶店に用事があったらしいんだけど、迷ったみたいで。案内してる所」


「………………あそこって、常連以外に来るんだな」


 そりゃ来るだろ。


 俺が行った時もチラホラと客がいたりしたぞ。


 コーヒー飲んだり、食事したり。


 俺の顔を見た途端退店する客とかいたけど。


 …………あれ、俺行かない方がいいのかな?


「お店の人と、お知り合いなんですか?」


「ええ、まあ。そうなんです」


「あの喫茶店のマスターの娘さんと、付き合ってるんだぜ」


「それはそれは……」


 ほっほ、と老人のように笑う老人。老人だから当たり前か。


 なんて小ボケは置いといて、フジさんと別れて喫茶店に一路向かう。


 ………………


「もうすぐですよ」


「ふぅ……結構な距離を迷子になっていたんですねぇ……」


 ポケットから出したハンカチで汗を拭い、小休憩を終えて歩き始める。


「それにしても、ここまで時間を使わせてしまって申し訳ありません」


 いやに礼儀正しく深々と頭を下げられる。


「いえいえ、俺の知り合いの店ですし。将来の常連さんになるかもしれませんしね」


「ほっほ、そうなればいいですねぇ」


 そうして見えてくるのは喫茶マタン。


 店先で遥が掃き掃除をしていた。すぐに俺の姿を見つけて大きく手を振るが、傍の老人を見つけて手を止める。


「ジローさん! この方は?」


「喫茶店に用事があるんだって、迷ってたみたいだから案内してきた」


「こんにちは、ご主人いらっしゃいますか?」


「はい。今日は中にいますが……?」


 中にいるのか、じゃあ退散しないと。


「ジローさんもコーヒー飲んでいきますか?」


「い、いや……俺は今日は帰るよ……」


 俺の意図を察したのか、ジト目に変わる遥。


「いくじなし」


「ぐっ」


 辛辣な言葉に胸が詰まる思い。


 そのやり取りを見てお爺さんは温和に笑う。


「あ、すみませんっ、中にどうぞ」


 人前だということを思い出した遥は、ドアを開いてお爺さんを招き入れる。


 カラン、というドアベルと共にお爺さんは店内に入っていった。


 最後に遥に一度ジト目をされ、俺は来た道を引き返していったのであった。


 そして数日後のこと。



――――――――――



 ムー、ムーと机の上に置いておいたスマホが振動している。


 マナーモードにしていたスマホだった。


 画面に表示されていた名前を見ると、遥。


「もしもし?」


「じ……ジローさん!」


 慌てた声。まさか、何かあったのか?


「どうした!?」


「お店が……っ!」


 店が!?


 潰れる!? 壊される!? 立ち退き!?


 次々と頭の中に不吉な文字が現れては消える。


 一体どうしたというのだろうか。


「忙しくて……っ!!」


「……………………」


 なに?


 忙しい?


「良い事じゃん」


 暇すぎて潰れるより。


「この前の、お爺さん覚えてますか?」


「ああ、あの杖をついたお爺さん」


「あの人……実はなんか有名な人だったみたいで……」


 有名? 俳優だったとか?


 確かにドラマとかはあまり見ない。だから知らなくても無理はないか。


 映画なら見るんだけどな。


「あの時は雑誌の取材の一環で来られたみたいで、その時の記事が影響して……毎日、凄い来客数で……っ!」


「え、マジで?」


 評論家的な?


「なので、当分会えそうもないんですが……」


 嬉しい悲鳴というヤツである。


 店が繁盛して嬉しい反面、プライベートを削ることになってしまう。


 しかしここは男の俺がドーンとした態度で受け入れるのが大人の対応。


「大丈夫、今はそっちのことだけ考えてればいいよ」


「私が大丈夫じゃないんです……!」


 そう来たか。


「夜、電話するとか?」


「はい、絶対します! あと、姫宮先生に当分食事作りに行けないって言っておいてもらえませんか……?」


「オッケー、伝えとく」


 俺が雫さんの所に引っ越して以来、ちょくちょく遥は食事を作りに来てくれていた。


 後は俺の服の洗濯も。その度雫さんに呆れた目で見られていたものだ。


「じゃ、じゃあ今日はこの辺で! 明日の夜も電話しますから!」


「うん、頑張って」


 そうして電話を切る。


 だが次の日も、そのまた次の日も。


 毎日毎日仕事で忙殺された遥は体力が尽きて、電話する前に眠ってしまっていたのは、また別のお話。

読んでいただきありがとうございます。


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