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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と緊急避難先


「なんで……これ……?」


 まず出てきた言葉がそれだった。


 真っ黒になった壁。壁が無くなってすらいる箇所もある。


 一様に窓はなく、焼け落ちた一部が周囲に散乱していた。


「ジローさん、スマホ」


 遥が短く言う。言葉に従いスマホを見てみると大量のメッセージと着信が来ていた。


 旅行の邪魔をされないためにサイレントにしていたのだが、それが仇となったようだ。


「……うーわ」


 見慣れない電話番号や、両親の電話番号、ひなたや雫さんなど。


 百回以上の着信があったようだ。


「私にも来てます。ほら」


 遥が向けたスマホの画面には、雫さんからのメッセージ。


『家が火事になった』『ジローと連絡がつかない』『どうしよう』など。


 普段の彼女からは想像もできないほど弱りきった感情が窺える。


「と、とにかく連絡しないと……」


 これだけの数の着信、もしかして死んでいるのかと思われてるのかも。


 まずは両親。


 コールするとすぐに出た。既に涙声で応答した母は、俺の無事を知るや否や泣き崩れた。


 父親が変わって応答するが、父もまた涙を堪えているかのような詰まった声。


 知らなかったとはいえ、これだけ心配を掛けてしまったことに申し訳なく思う。


 住むところは? と聞かれたが。


 現状、俺も理解が追いついていないところだ。これから考えるとだけ言って電話を切った。


「こりゃ……近々地元に帰らないとダメかもな」


 元気な様子を見せる必要がありそうだ。


 ふと横を見ると、遥が涙目で俺を見ていた。


 ぎょっとする。なんで遥が泣いてるんだ?


「もしも、ジローさんがいなくなったらって想像したら、なんか、つい……っ」


 俺の胸に顔を埋めながら、声を押し殺して泣いていた。


 そのままの体勢で、次は雫さんとひなたへと電話を掛ける。


 二人共驚いた様子で電話に出た。


 居場所を聞かれ、アパートの前だと言うと即座に電話を切る。


 ものの数分で来たのはひなた。


 部屋着のままサンダルをはいて走ってきた彼女は。


「ぶぇっ!!」


 俺の左頬を引っ叩いた。なんで?


「……心配かけさせないでください!!」


 初めてかもしれない。ひなたがこれほどまでに俺に怒ってるのは。


 歯を食いしばって我慢していたであろう涙は、溢れるように零れ落ちていく。


「でも、無事で良かったです……っ!」


 そして俺の左腕にしがみつく。


 痺れるような痛みを左頬に感じながら、されるがままにしていると、目の前からは雫さん。


 息を切らせながら走ってきて、俺の姿を見るなり睨みつけてくる。とても怖い。


「お前……っ!」


 殴られる? そう思っていたら。


「ぶぇっ!!」


 左頬を引っ叩かれた。同じところ……!


「心配かけさせんなよ……ドアを叩いてもスマホに連絡しても反応ねえし……最悪を想像しちまっただろうが!」


 涙を見られたくないのか、俺に背を向けて目元を拭っていた。


 胸元から、左腕から、すぐそばから鼻をすする音。


 傍から見れば奇跡の生還者かとんだプレイボーイかの二択だ。


「それで……なんで今まで連絡取れなかったんですか?」


 ひなたが顔を上げて言う。


「そうだ、携帯の充電切れてたってワケじゃないだろ」


 雫さんが背を向けたまま言う。


 なんというべきか。正直に伝えると殴られそうだが。


 しかし、ここまで心配をかけておいて嘘をつくというのも……。


「旅行の邪魔になるからサイレントにしてた」


「は?」


 二人ともハモった。


 俺の手を見る。着替えを入れたボストンバッグにお土産の紙袋。


 俺の顔を見る。


「……へへ」


 気まずさから笑いが零れる。


「ぶぇっ!!」


 両頬を引っ叩かれた。


「バカ!!」


 涙を流しながら怒る二人に、何も言えない俺だった。



――――――――――



 見知らぬ番号は大家と警察だった。


 行方不明として処理されないためにも翌日警察署に行かないといけないようだ。


 大家からは火災保険のあれこれ。


 これは後日改めてということになった。


 …………ともあれ。


 怒りながらも離れようとしないひなたと雫さんに、少し困っていた頃。


 ようやく泣き止んだ遥が言った。


「寝る所って……どうするんですか?」


「…………さあ……」


 どうするんだろう。


 家が焼けたことに対してもまだ現実感がなく、未だ夢のような気分。


 そこに二人のビンタが炸裂して脳が揺らされ、更に夢から抜け出せくなったような。


「私の所に来ますか!?」


 ひなたが言う。


「行かない」


 俺は即座に断った。


「どうして!」


 どうしても何も! 行ったらこの前みたいなことになるだろうが!


 それはよろしくない。とてもよろしくないのだ。


「何処かホテルでも泊まんのか?」


「うーん」


 現実的な面ではそれが一番良いのだけれども。


 懐事情を考えると非現実的になってしまう。いつまで泊まり続けるのか、それまで嵩む出費。とてもじゃないが生きていけない。


 火災保険とか大家は言っていたが、それがいつ入るのかわからない以上、あてには出来ない。


「なら実家か?」


「となると、大学に行けなくなっちゃうんですよね」


 俺の地元はここから少し……結構離れている。


 そんな場所から通い続けるのは非現実的だ。なら休学?


「休学かあ……」


 卒業が遅れるのはちょっとなあ。


 しかし金銭面的な壁にぶつかっている以上、休学という選択もやむ無しか。


「ごめんなさいジローさん、私が泊めてあげれたら良かったんですけど……」


 遥は両親と共に暮らしている。そこに男をあげるのは些か問題があるだろう。


 それに俺も肩身が狭そうだ、凄く狭そうだ。


「あれ? 雫さんは何処で寝泊まりしてるんですか?」


「あ? あたしは全員で映画見てたあの作業場だよ」


「ああ、あの広い所か……」


 確かにあそこなら寝泊まりは可能か。


 売れっ子だと二つ寝れる場所があっていいな。


 俺も顔の悪名だけは売れてるんだけどな。嬉しくないかガハハ。


 …………自虐も今の俺には響かないようだ。


「あの、姫宮先生。もし良かったら、ジローさんを泊めてあげてくれませんか?」


 と、いきなり遥がそんなことを言い出した。


 その提案に面食らう雫さん。そりゃそうだ。


「え? や、やだよ。寝る場所一つしかないし」


 まあそうなるだろうな。


 拒否されたことに悲しみは感じない。むしろ正常なんだと安心するくらいだ。


「私の家にもベッド一つしかありませんけど、一緒に寝れば大丈夫ですよ!」


 ほら、こんな事言う後輩がいるくらいだ。何が大丈夫だと言うのか。


 異常な後輩、正常な隣人。なら俺は?


 未だ夢現……ってところかな。


 遥たちは既に現実として受け止めて前へ進んでいるが、俺はまだピンと来ていない。


 ブロック塀に張られた立入禁止の黒と黄色のビニールテープ。


 それを眺めていても、未だテレビの向こう側の出来事といった、ぼんやりとした事実しか飲み込めない。


「お願いします! ジローさん行く場所がないんです! 私も姫宮先生なら安心できるんです!」


「って言われてもなあ……」


 受け入れ難いようだ。気持ちはわかる。


 男を泊めるということに危機感を持っていてくれて俺は嬉しい。とても嬉しい。


 まあ、人に迷惑をかけるのは俺としても賛成できたことではない。


「いいよ遥。今日のところはネットカフェにでも泊まって、明日警察行って大学に休学届を出しに行ってくるから」


「だけど……」


 ん? 遠距離恋愛になるのがそんなに心配か?


 大丈夫だ、あそこは俺の顔に悪評が広まりまくって、近付く人間は老若男女問わず皆無なのだ。


 人口の多い町ではないが、あそこほど孤独を感じる場所はないだろう。


 だがまあ、今の俺には遥がいる。孤独を感じる暇なんてないだろうさ。


「でも先輩、バイトは……っ!?」


「バイトなあ。通い続けるのは無理だし、辞めるしかないな」


「そんな……!!」


 そうは言ってもしょうがない。


 金銭面的な問題が浮上してくる以上、どうしようもない問題なのだ。


 絶望的な顔をする遥とひなた。その傍らではぎゅっと目を瞑って眉間にシワを作る雫さん。


「ああああああもう!! わかったよ!!」


 そう言ったかと思うと頭をガシガシかきむしる。長い髪がバサバサと乱雑に舞う。


 かきむしる手を止めて、俺に指を突きつける。


「ジロー! お前うちに来い!!」


「え、でも……」


「その代わり、うちにいる間お前あたしのパシリな!」


 それはいつもでは?


 しかし泊めてくれるならありがたい、休学せずにすむし、バイトも辞めずにすむ。


「んで遥! ちょくちょくうちに来て晩飯作ってくれな。遥の飯は美味いから」


 差し入れですっかり味をしめたようだ。


 しかし気持ちはわかる。遥の料理美味いんだよな、昨日の旅館のご飯にも引けを取らないほどだ。


「はい、任せてください! たまに泊まりますね!」


「それは別にしなくてもいい……」


 そして最後に。


 目を輝かせて雫さんの沙汰を待つひなたがいた。


 二人は見つめ合う。


「………………じゃあ、今日は解散ってことで」


「なんでですかあ!!」


 両手をバタバタさせて存在をアピール。


 雫さんにタックルしようとしていた所を止めることにはギリギリ成功。この人の両手にはどれだけの読者が待ち望んでいることか!


「いや、だってお前は別に火事にもなってないし家もあるじゃん!」


「だけど、皆でお泊り楽しそうです!」


「でも、ひなたはジローと一緒にいたいだけだろ?」


「そうですけど!?」


 胸を張って言うことか。慕われて悪い気はしないが。


 雫さんは俺を見て、遥を見て、ひなたを見て。


 大きく溜め息を吐いた。


「……遊びに来るのは良い。でも泊まりはなし」


「わかりました。毎日0時前に帰って0時過ぎに遊びに行きますねっ」


「ひなた、お前出禁な」


「冗談ですって!」


「……はあ、なんでこんなことに」


 またも大きく溜め息を吐いた雫さん。


 しかし最後に俺を見て、薄く笑った。


「でも、無事で良かったよ、ホント」


 そう言って俺の背中を叩く。


 その力は強く、それだけ安心したことを伝えているようでもあった。

読んでいただきありがとうございます。


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