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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と二人きりの旅行の始まり


 視線に広がるのはフローリング。


 両手は揃え、両膝は揃え。


 背中は丸めて頭を下げる。


 そう、ジャパニーズ土下座スタイルである。


「………………」


 目の前に立ち尽くすのは俺の彼女、遥。


 俺の家で、彼女が入ってくるなり土下座を決めた俺だった。


 戸惑う声はない、なんとなく予想していたのだろう。


「ジローさん」


「はい」


 土下座の姿勢のまま返事をする。


 俺に下される沙汰をこの姿勢のまま待つのだ。


「彼女のこと……ひなたさんのことは、いいんです」


「え?」


 しかし遥から出た言葉は俺への沙汰とはまったく異なるもの。


 思わず顔を上げる、立っていたはずの遥は、俺の前で膝をついていた。


「ひなたさんは、ジローさんの初めての友人なんですよね?」


 それは……。


 地元にも、子どもの頃には友人と呼べる子もいた。


 しかし、時を重ねるにつれて俺の周りからは誰もいなくなり。


 青春時代と呼べる年頃には、友人と呼べる異性や同性はいなかった。


 となれば、ひなたは初めての友人と言えるのかもしれないな。


「ジローさんの交友関係を潰したくなかったんです、だから……いいんです」


 遥は俺のことを考えてくれている。


 だからこそ、我慢してくれていた。


 彼女に我慢させてまで、友達なんて…………。


「ジローさん、それはダメです」


 俺は何も言っていない。


 だけど、遥は俺の心の中を読み取ったのか、俺の頭を抱くように抱きしめた。


「私はジローさんが、どれだけ苦労してきたのかを聞いていますし、知ってます。だから、私の所為でジローさんが手にした貴重な友達を、不意にしてほしくはないんです」


「でも、それだと遥が我慢をすることになるだろ?」


「良いんです」


 遥はそう言うだろう。


 これは水掛け論だ。遥は俺のために自分を押し殺してくれる。俺は遥のために自分を押し殺したい。


 しかし、俺が押し殺した所で遥は喜ばないだろう。これは無限に終わらない矛盾のサイクルだった。


「しかしだな……」


「ジローさんが、私を一番愛してくれてる。その事実だけがあれば、私は大丈夫なんです」


 それはまるで自分に言い聞かせてるようにも見える。


「ジローさんはね、押しに弱くて、流されやすくて、頼られることに弱くて」


 それだけ聞くと意志薄弱の軟弱野郎そのものなんだよな。


「だけど、友達がいなかったからこそ、友達を大事に出来る。とっても素敵な人なんですよ?

 それなのに……友達を失うようなことをするなら、ジローさんから素敵な部分が一つ減ってしまいます」


「遥…………」


 まいったな。


 異性の交友関係を全て断つつもりでいたのに。


 まるで俺に先手を打ったかのような。


「……………………よし」


「ジローさん?」


 体を起こす。それと共に遥は俺から離れ、正座をして向かい合うような形になった。


 そんな彼女の体を、俺は真正面から抱きしめる。


「前回、二人きりで旅行に行こうと思ったけど、行けなかったよな」


「……そうですね」


 女性の友人ネットワーク恐るべし、といったところか。


 だけど、次は、次こそは。


「二人で旅行に行こうか。温泉とテーマパーク、どっちがいい?」


「ジローさん……」


 正面から遥を見据えた。


 彼女の瞳は揺れ続け、やがて涙が目の下に溜まる。


 下まつ毛に留められた涙は玉となって、目尻へと流れていく。


「…………動物園が良いです!!」


 提示した二択とは別の提案をされた。


 …………ま、まあ、いいんだけどね?


 子どもの頃から親が飲食店を営んでいる影響で、彼女は動物を飼えなかった。


 だから遥は育成欲を満たすために部屋に所狭しとサボテンを育てているが。


 それでも一番好きなのは動物なのだろう。そう考えると彼女の提案は腑に落ちるものがある。


「……ん?」


 ふと疑問が湧く。


「遥、前に俺がダメダメなのが良いって言ってたよな」


「ええ、言いましたけど……」


「もしかして、俺のことも手がかかるから良い感じに育成欲を満たせるとか思ってたり……とかは……」


「………………」


 何故何も言わない。


 何故目線を合わせない。何故滝のように汗を流す。


「さてっ、何処の動物園にしましょうか?」


 何故話を逸らす!?


「は、遥さん!? ちょっとっ!?」


「ジローさん、大好きですよ」


「ぐっ……!」


 何も言えなくなる俺であった。



――――――――――



 そして当日である。


 行きたがっていた、ひなたや二夕見さんには丁重にお断りした。


 二人には申し訳ないが、今回だけは二人っきりの旅行をしたいのだ。


 というわけで、駅前の集合場所に来たわけだが。


「あらジロー、遅かったわね」


 なんか、霜崎さんが、いた。


 え? なんで?


「あ、ジロー来たんだ」


 志保ちゃんさんもいた。


 待って? え、なんで?


 その背後にいる遥は、何とも言えない表情をしている。


 まさか、また強制的に参加するのだろうか?


 キャンプの時みたいに?


 それは困る。とても困る。


「なんで、二人はここに……?」


 恐る恐ると聞いてみる。もしかしたら別の用なのかもしれないし。


 たまたま時間が一緒で、実は別の――


「私たちも動物園に行くのよ」


 オウ……ジーザス……。


 クラリと頭の血の巡りが悪くなるのを感じる。


 だけど……今回ばかりは。


 今回ばかりは、ガツンと拒否を――


「あ、もう電車時間よ」


 スマホで時間を確認しながら志保ちゃんさんが言う。


 そうね、と言いながら駅に入ろうとする霜崎さんは、手ぶら。


 あれ、泊まり予定なのに? また忘れた? またきゃんぷシャツ着るの?


「そうね、行きましょ」


 だが当の霜崎さんは忘れている自覚がないのか、そのまま入ろうとする。


 最後に首だけ振り返って。


「じゃーね、はーちゃん、ジロー。仲良く遊ぶのよ」


 おかんか。


 って、あれ? 一緒じゃない?


 ……どういうこと?


 開いた口が塞がる暇もなく遥を見やると、何やらニヤニヤしていた。


「びっくりしました?」


「別に……一緒に行くわけじゃ……ない?」


 頷く。


 なんだよ……びっくりしたじゃないか……。


 詰まっていた息を大きく吐き出す。まだ向かってもいないのに疲れがどっと出た感じだ。


「動物園に行く話をみーちゃんにしたんです。そしたら、ずるい! ってなって」


 ずるいってなんだよ。


「志保さんと別の動物園に行くみたいですよ、日帰りで」


 なんだ……良かった。


 肩からズルリと下がった肩紐を上げて、着替えの入ったナップザックを背負い直す。


「随分と、安心したみたいですね?」


「そりゃまあ、今回ばっかりは二人で行きたかったからな」


 照れる内容でもない。隠さずに自分の気持ちを素直に伝えると、遥は少し呆気にとられたあと、照れた感じではにかんでいた。


「私もです」


 短く言って、髪の毛を手直し。


 そうこうしている時間に俺たちの電車の時間も近い。


「行こうか」


 手を差し出すと、遥は笑顔で手を握り返してきた。


「はいっ」


 楽しい旅行の始まりの幸先は、ちょっと疲れた状態からのスタートだった。


読んでいただきありがとうございます。


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