失恋とひとつのベッド
そして深夜にもなり、寝ることに。
俺はソファー、ひなたはベッド。
真っ暗な中、雨音だけが耳に届く。時折車が横切る音も。
「せんぱい……起きてますか?」
「ああ」
「あの…………」
口ごもる。
電気を消して暗闇のため、ひなたの表情は伺えない。
「まさか怖くて眠れないとか? なんてな、ハハ――」
「………………」
どうやら図星のようだった。
「一緒に……寝てもらっても、いいですか?」
「いや……流石にそれは――」
バン! という音が外から聞こえた。
恐らくは誰かが車のドアを閉めただけなのだろうが。
「ヒッ……!!」
必要以上に怯えるひなた。夜にホラー映画はやりすぎたのかしら。
……一緒に寝ることは出来ないが、話して気を紛らわせるくらいなら出来るか。
「料理美味かった」
「野菜を切っただけなのと冷凍食品を揚げただけなんですけど……でも、ありがとうございます。だから一緒に――」
「明日になったら雨止んでるといいな」
「そうですね、じゃないと少し困りますよね。だから一緒に――」
くそ、諦めないなこいつ。
「そういえば、うちドライヤー無かったけど大丈夫か? 風邪とか――」
「もうっ!」
痺れを切らしたのか、掛け布団を叩いて上体を起こす。
「なんなら私がそっちに行ってもいいんですよ!!」
とんでもない脅しをかけてきた。
こんなソファーで二人で寝るのは無理だろう。
しかしひなたならやりかねない。俺の上に乗って眠るつもりだろう。
「わかった。でも……触らないでよねっ!」
「それ女の子が言うセリフなんですけど」
もぞもぞと布団に潜り込む。
シングルベッドと言うこともあって、二人が寝るには少し狭い。
うそ、かなり狭い。
横向きになったとしても、体の何処かは触れ合ってしまう。
しかし、ひなたとのスキンシップなんて言ってしまえば日常茶飯事。
なんなら今よりも触れる面積が大きいくらいだ。
だというのに、この照れくささはなんだというのか。
同じベッドの中という異常なシチュエーションがそうさせるのか? きっとそうだろう。
「結局、あの映画って殺人鬼の正体は謎のままなんだよな」
「な、なんで今そんな話を……!?」
なんでだろう、わからない。
気が動転して言わなくていいことを言わせるのだろう。
「警官が発砲した銃でも死ななかっただろ? だから多分人間じゃ無いと思うんだよな」
「ちょ、やめ……!」
そう、やめるべきなのだ。不用意に怖がらせてもろくな事にはならない。
だと言うのに俺の口は止まらない。滑るように喋り続ける。
「続編あるのかな。実は生きてて、あの兄妹を狙い続けるとか……」
「やめてくださいっ……!」
俺の背中にしがみつく。
「思い出しちゃったじゃないですか!! せっかく忘れようとしてたのに!」
「いや、だってなんか……」
異常なほどに照れ臭いので。こんなのが理由になるのだろうか?
ならないだろうなあ。
「私を怖がらせて楽しいんですか!?」
「うん」
「即答ですか! とんでもない悪党ですね!」
悪党?
俺の背中に頭をグリグリと押し付けて、手を回してしっかりとしがみつく。
色々柔らかかったり色々温かかったりしてるが、まだ俺は大丈夫。
ジローは元気です。
突発的に変なことを考える程度には混乱しているようだった。
「一緒に映画を見るのは楽しいし、泊まるのも楽しいですけど……ホラー映画はもう勘弁してほしいです」
「……ま、向き不向きは誰にでもあるしな」
俺が辛いものを食べられないのと同様、人には苦手となるものが一定数ある。
それが、ひなたがたまたまホラー映画だったと言うだけに過ぎない。
「わかった。じゃあもうあのホラー映画の話はやめよう」
「先輩……」
それだけ怖がるのならな。
何度も何度も同じ話を掘り返すのはやめよう。
そんなの…………。
「じゃあ違うホラー映画の話するわ」
「えっ!?」
そんなの、楽しくないじゃないか。
それだけ怖がるのなら、もっと怖がってもらおうじゃないか!
「最近見たヤツなんだけどな――」
「やめてください!!」
体に回した手に力を込める。
「ぐえええええっ!」
中身! 中身が出ちゃう!
ギブアップ、と力を込め続ける手にタップする。
力は緩んだ、だけど。
タップした手を、ひなたは握る。
「さっきみたいにふざけあうのも好きですけど――こういう時間も欲しいです」
なんで、そんな……。
それだと、まるで恋人同士の触れ合いみたいになってしまう。
でも、俺たちはそうじゃないだろ?
ただのスキンシップが過剰な先輩と後輩のはず。
「……ひなた…………」
「……………………」
何も言わない。
どう思っているのだろう。
何を考えているのだろう。
ハッキリしておかないと、俺たちはただの先輩後輩に戻れないかもしれない。
「おい、ひなた」
「………………くぅ」
くぅ?
首を捻り、背後を見てみる。
背中に顔を埋めているため何も見えなかったが。
……もしかして、寝た?
「ウッソだろ……」
変な言葉を残して寝るのかよ……。
悶々として寝れない夜を過ごすことになりそうだ。
――――――――――
はい、案の定寝られませんでした!!
目がしぱしぱする中、カーテンの隙間から日差しが漏れる。
どうやら雨は過ぎ去ったようだ。人が喋る声が聞こえてくるということは、冠水は落ち着いたのだろう。
ひなたがずっと抱きついたまま寝てたお陰で動くに動けず、体の節々に痛みが走る。
「じゃあ、帰りますね」
一人だけ熟睡したひなた。よく寝たと言わんばかりの血色の良い顔で立ち去ろうとする。
俺の服のままで。
まあ、乾いてないししょうがないけど。
「服忘れていってるぞ」
「おっと、そうでした」
濡れたまま畳んだ服。干す場所ないしね。
持ち上げて、ビニール袋の中に放り込もうとした時。
何かが落ちた。
折りたたんだ服の間から落ちたそれは。
白い布地、小さいものと大きなもの。
それは、一般的に下着と呼ばれるそれであり――
「お前、もしかしてずっと……」
慌てて拾い上げ、ビニール袋に放り込み。
「そ、それじゃ! ありがとうございました! お邪魔しました!!」
慌てて出て行った。
少し考えればわかる。
俺も体の中、それこそ下着まで濡れていたのだ、あいつの下着だって濡れているに決まってる。
替えの下着なんて常に持っている訳が無い。それならば……
「それならば……?」
それならば、なんだというのか。
「おいおい」
そんな状態でくっついてたってのか、あいつ。
「………………おいおい」
言葉が出ない、なんだって何も言わずにあんなことを。
いや、言われても困るんだけどな?
……まあいいか、雨が過ぎ去ったのと同様に、このことも過ぎ去っていった事実として封印しておこう。
………………。
あ、ちなみにホラー映画は楽しかったです。
「ホラー映画といえば」
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あれ、今日って……。
「遅刻だあああああ!!」
今日は一限からだった。
慌てて大学へ向かう俺だが、ほぼ徹夜だった俺は講義中に爆睡して教授から大目玉を食らうのであった。
めでたしめでたし。
いや、何もめでたくないな。
読んでいただきありがとうございます。
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