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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋とホラー映画


「お風呂……いただきました」


 風呂で暖まったせいか、恥ずかしさの所為か。


 頬が紅潮したひなたが、俺の服を着て佇んでいた。


「俺も風呂入らせてもらうわ」


「は、はいっ! どうぞ!」


 着替えを手に持ち、風呂場の前に。


 足元には濡れたひなたの服があった。


 ……隣に置いておけばいいか。


 濡れた服を手に掛けた所で、顔を上げる。


 ひなたと視線があった。


「……おい」


「ど、どうしました?」


 頬が染まっているのは暖まったお陰でも、恥ずかしさの所為でもあるだろう。


 しかしそれと同時に。


「スケベめ!!」


「え? あ、あっ…………そうですよね、はい!」


 慌てて後ろを振り向くひなた。


 急いで服を脱ぎ、逃げるように風呂場へと駆け込んだ。


 水滴が冷えた床。足元にひんやりとした感触を感じる。


 ぽたり、とシャワーから水滴が落ちた。


 先程まで誰かが使っていた痕跡しかなかった。


「うわああああああああああ!!」


 叫び声と共にシャワーを捻る。


「ひゃああああああああああ!?」


 冷水を浴びてしまった。


「せ、せんぱいっ!?」


 扉の向こう側から慌てた声がした。そりゃそうか、風呂場に入ったやつが唐突に叫べば誰だって驚く。


 落ち着け俺、俺には遥がいるんだ。変な妄想は止めろ!


 そうだ、映画だ! 今日の映画は何を見るんだ!?


 うーん、そうだな、硬派な映画がいいかもな。


 スーパーエージェントな主人公、様々な敵組織を潰すため、潜入を繰り返す。


 そんな時に出会う美女、妖しげな雰囲気で主人公を誘惑して……。


「ぎゃああああああああああ!!」


 ダメだ! 今日の俺は煩悩まみれだ!


 映画だ! 映画を見て映画の世界に浸ってしまえば……!!


「先輩!? 大丈夫ですか、先輩!?」


 扉の向こう側の声に答える余裕はなく、体を暖めた後素早く体を洗い風呂を出ることにした。


 ………………


 …………


 ……


「え、映画何見ようか?」


「そ、そうですねー……」


 会話の何処か空々しい。


 ソファーに並んで座る俺たちだが、二人共湯上がりで肌がつやつやである。


 いつもとは違う現状に、とても落ち着かない。


「そ、そうだ。映画を見るなら作っちゃいますね」


「お、おう。ありがとな」


 外からは雨粒の音が大きく聞こえる。


 雨は未だ強く、テレビで確認すると冠水している箇所もあるほどだった。


 ここらはどうなっているかわからないが、今日の夜に大雨が降ることは少し前から報道されていたらしい。


 全然知らなかった。普段天気予報とか見ないしな。


 ふとひなたを見る。


 グレーの長袖シャツ、白のスウェット。


 俺の服だ。俺の服をひなたが着ている。


「…………」


 俺はひょっとしてバカなんだろうか。さっき少し冷静になっていたというのに。


「あの……あまり見ないでくれますか……?」


 ぼうっとしていた俺だったが、ひなたの方を見てぼうっとしていたようだ。


 何故か恥ずかしそうにスウェットを隠す。


「ひょっとして…………透けてます?」


「え?」


 何が?


 何がかはわからないが、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。


 本能がそう囁いている。出来るだけ考えないようにして、映画をチェックしていく。


 夜だしホラーにしようとか考えてた気がするな、うん、そうだ。ホラーにしよう。


 ジャンルをホラーに絞り込み、色々品定めしてみる。うーん。


「なあひなた」


「はい?」


「キャンプ場に殺人鬼がやってくるのと、自宅に殺人鬼がやってくるの、どっちがいい?」


「それって勿論映画の話ですよね?」


 当たり前だ。


 中学生じゃあるまいしそんな妄想なんて………………………………するわけがないだろ。


「っていうかなんでホラー限定なんですか!?」


「今日はホラーを見ようって決めてたからだ」


 単純にして明快な理由。


 あれ、こいつってホラー苦手だったっけ?


「ひなたが嫌だって言うなら別のにしてもいいけど……」


「…………いや、たぶん……大丈夫、です」


 大丈夫じゃ無さそうだった。


 とはいえ、怯えてるひなたを見てみたいという悪戯的好奇心も存在する。


「…………ふうん」


「な、なんですかその目は」


「ならホラーにしようか」


 今日一番の笑顔を見せた気がする。


 微妙に引いていた。失礼な。


「もうすぐ出来ますから」


「早いな」


 遥に負けず劣らず料理の手際が良い。


 下手したら料理できないのって俺だけだったりするのだろうか。


 …………いや、霜崎さんとか志保ちゃんさんも出来ないはず。きっとそうだ。


 あ! あと雫さん! あの人は絶対できない!!


 なんか数日後に殴られるような悪寒が走ったけど、まあ気にせずにいこう。


 ひなたが皿を持ってテーブルまで来た。


 野菜スティックとフライドポテト。宣言した通りのメニューだ。


 マヨネーズとドレッシングのディップを二種類用意しており、味変も可能となっております。


「じゃあ電気消すぞー」


「えっ」


 俺がリモコンに手を伸ばすと、戸惑うような声が隣から。


 やっぱり怖いのだろうか、内心ワクワクが止まらない。


「あれぇ~? ひなたさぁん、怖いんですかあ?」


 ことさら煽る口調で言ってみると。ムッとした表情を見せる。


「そんなワケないじゃないですか! 所詮作り物なんですから!」


 そりゃ本物の殺人鬼は怖いだろう。


 よくわからない虚勢を張るひなたをそのままに、俺は電気を消して再生する。


 暗転した画面に制作会社のロゴ。


「ひっ――」


 なんでだ。ただのロゴだぞ。


 ポテトに手を伸ばす。うん、熱々で美味しい。


 芋のホクホク加減がたまんないね!




 舞台は郊外、幸せに暮らしているファミリーがいた。


 両親と長男、長女と次男の五人家族。


 今日は次男の誕生日パーティー。次男の友人や長男の彼女を招いて大規模なパーティーを開いていた。


 楽しげな家庭にフィルムが回る。願い事をしながらロウソクを吹き消す次男。拍手が沸き起こる。


 宴もたけなわ、友人たちは皆帰り長男とその彼女は自室で愛の語らいをする。


 中々に良い雰囲気になり、キスをしようと二人は目を閉じて顔を近づけた。


「………………」


 隣からゴクリと生唾を飲み込む音。


 横目で見ると、ひなたも俺を見ていた。


 ひなたは慌てて目をそらず。うん、きゅうりスティックうんまい。


 と、その時である。


 一階から聞こえてくる、ガラスが割れる音。


「ひゃっ……!」


 びっくりしたのだろう、体は跳ねて声が漏れた。


 ホラーを何本も見ていると、ある程度驚かせようとするタイミングは見えてくる。


 百戦錬磨の俺は驚くことなくきゅうりをポリポリ食べていた。うんまい。


 目を白黒させる長男と彼女。長男は部屋を出て廊下に出るが、そこは暗がり。


 スイッチを押して点灯させようとするが、点かない。何度も繰り返す。


 しかし点かない電灯、諦めた長男は暗がりの中リビングへと向かう。


 一階も暗闇であり、リビングのガラスが割れたのか、そこから風が吹き込む音やカーテンがはためく音が。


 リビングに足を踏み入れる長男、真っ暗で何も見えないが、誰かが立っているシルエットはかろうじて分かる。


 父さん? 長男は声を掛けた。しかしシルエットの男は何も答えず、立ち尽くすだけ。


 シルエットに近付いてみると、長男の足元からパシャリという水を踏むような音。


 視線を下に移すと、これも暗闇で何も見えないが何やら水のような物があった。


 その時、家中の電気が点いた。


 眩しさに目を細める長男、視界がハッキリとした所で目に入ったものは、驚くべきものだった。


 踏んだものは血、血の正体は近くで倒れ伏している父と母、そして次男。


 引き攣るような叫び声、長男は腰を抜かすように尻もちをついてシルエットの男を見上げる。


 それは黒いコートに身を包み、片手に猟奇的な斧を持った、顔がケロイド状の長身の男が立っていた。


「きゃあああああああああああああああ!!」


 ひなたの叫び声。


 俺の腕に抱きついてくる。うん、大根もうんまい。


 シャクシャクとした食感がたまらない………………ね…………?


 抱きつかれることはいつものことだ、その感触にも慣れたもの。


 しかし、今回の感触とはいつもと違い……、何やら生々しい。具体的に言うなら超柔らかい。


 不埒な想像をしようとする前に、テレビの方から悲鳴が上がる。


 戻ってこない長男の様子を見に来た彼女が、死体と男を見て悲鳴を上げたようだ。


 斧を持った男は、長男を素通りして彼女へと歩み寄る。


 腰が抜けて立てない長男、やめろと大声で繰り返す。


 彼女は踵を返して逃げ出す。それをゆっくりと歩いて追いかける男。


 二人共視界から消えた。声だけが聞こえる。彼女の悲鳴だ。


 何かを切るような不快な音が聞こえ、彼女の悲鳴は止んだ。


 男が戻って来る、その手には斧と、髪の毛を掴んで無造作に持つ、彼女の頭だった。


「いやあああああああああああああああああ!!!」


 更にしがみつくひなた。胸の感触が!!


 ホラーの始まりとしては盛り上がりが最高潮なはず、なのに俺の頭の中は。


 おっぱい。


 これだけだった。


 いかん! 映画をこよなく愛する者として、映画の鑑賞中に他のものに気を取られるなど映画愛好家の名折れ!


 しかしおっぱい。徹頭徹尾おっぱいだった。


 ワケ解んないね。


 結局残りの一時間と少し、俺の頭の中はおっぱいで満たされていた。



――――――――――



 エンドロールが流れる。


 警察も殺されていく郊外の事件は、長男と長女が協力して殺人鬼を殺して終わる。そんな結末だ。


「………………」


 目を閉じてしがみつくおっぱい…………じゃなくてひなた。


「終わったぞ。大丈夫か?」


「は、はい……余裕でしたよ」


 嘘つけ。


 ゆっくりと離れていくその体は、微かに震えていた。


 ゴア表現ありのR15作品だからな、こうなるのも致し方ないのかもしれない。


「さて……そろそろ帰る…………」


 耳をすませば、まだ雨音が聞こえる。


 テレビをつけると、一部地域には避難勧告が出るほどの大雨らしい。


 ドアを開け、外を確認してみると横殴りの雨が多少足にかかった。


 なんと、家の前まで冠水していた。こんなの初めてだ。


「帰れない……な」


「そうですね……」


「もう一本ホラー映画でも見る?」


「絶対イヤです!!」


 とても力強い否定だった。


 その後、心温まるキッズ向けアニメ映画を見たりして気持ちを落ち着かせようと思ったが。


 家の前で物音がする度にビクリと体を震わせるひなたであった。

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