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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と意外とムズい知育菓子


 講義も終わり、レポートを纏めてしまおうとフリースペースまでやってきた俺。


 まばらに人がいる中、一人顔見知りを発見した。


 声をかけようとした矢先、俺はとんでもないものを目にする。


「………………」


 無言で机に向かうその後姿、あの背中は二夕見さんに違いない。


 しかし机の上に広がっているのはノートでも何でも無かった。手に持っているのもシャーペンや鉛筆など筆記用具ではない。


 ピンク色のスプーン。


 しかも子どもが持つような小さいもの。


 テーブルの上には、白色のプラスチックの容器、ビニールに入った色とりどりの練り物。


 …………この子、大学で知育菓子作ってる……!?


 開いた口が塞がらないとはこのことか。成人女性が大学内で知育菓子だと……!?


「………………ん?」


 気配を感じたのか、ゆっくりと振り返ってくる。あ、俺と目があった。


 前へ向き直り、目線は下へ。熱心に勤しんでいた知育菓子の作りかけのものがそこに。


 また俺へと向き直る。その顔は徐々に真っ赤に染まっていった。


「違うの」


 何がだろうか。


「待って」


 何をだろうか。


「違うの」


 語彙力が喪失していた。


 顔は真っ赤に染まり、あたふたと慌てながら必死に弁明しようとするが、悲しいかなその口から出てくるのは『待って』と『違うの』だけだった。


 その騒動を聞きつけてか、二夕見さんの周囲の人の視線も集まってくる。



「知育菓子……?」

「今更……こんなところで……?」

「嘘でしょ……」



 などなど。


「ってずっといたのに気付いてなかったのかあんた達!?」


 思わず大声が出てしまう。俺が大声を出すとどうなる?


 悲鳴が上がる。荷物を纏めて一目散に逃げ出す大学生たち。


「ヒィ! 知育菓子ガチ勢!!」


 なんて不名誉な称号を賜った。


「って待てコラ誰がだ!!」


 しかし言い放った主は既にその場にいなかった。


 まったくひどい目にあった。


 当の本人は真っ赤になりながらまだあたふたしてるし。


 ほのかに甘い香りが漂ってくる、お菓子特有の甘い匂いだった。


「しかし懐かしいな……こういうの。子どもの頃はよく作ったんだけど」


 さすがに今見かけても手を伸ばしたりはしない。とはいえ、手を出す人がいることにまったくの疑問はないが。それは個人の自由だろう。だからいい加減そのあたふたを止めてほしいんだけどな。


 しかし知育菓子と俺を見比べ、慌てているその様は未だ治まる気配はない。


 んー…………。


 フリースペースは俺と二夕見さんしかいない。つまり……。


 椅子を並べていく。五個もあれば足りるかな……。


 横に綺麗に一列に並べ、俺はその上に横たわった。


「…………何してるの、かな?」


「あたふた終わるまで寝転んで眺めてようかなって」


「やめて、もう落ち着くから」


 はい。


 椅子を元の場所に戻していく。その間二夕見さんは胸に手を当てて深呼吸をしていた。


 そういえば今日はマッチョの気配しないな。


 くどいようだがマッチョとは――


「お待たせしました」


「はい」


 説明はまたの機会に!


 二夕見さんの背後にある知育菓子をチラリと見る。


 背中越しに手を伸ばし、自らの背中に隠そうとするが。


 それは良くなかった。何かが倒れる音。


「つめたっ……」


 二夕見さんの小さな抗議の声。


 水を入れていた容器を倒し、二夕見さんのスカートには水が染み込み広がっていく。


 幸い大容量が入るほどの容器ではないため、濡れた箇所は小さいのが救いか。


「あーあ」


 期せずしてからかうような言い方になってしまった。上目遣いに睨まれる。


「昼河くんが悪いと思う」


 マジか。


 俺ここに来てまだ何もしてないんだけどな。


 すっかり拗ねてしまったようで、いじけてしまっていた。


 この状態からどうやって好転を…………そうだ!!


「それ、まだ余ってる?」


「え?」


 知育菓子を指差す。


「う、うん……」


 二夕見さんの鞄の中から、もう一つ同じものが出てきた。


 よし、それなら。


「どうせなら一緒に作ってみないか?」


「え? ………………うん、やろうやろう!!」


 拗ねていた顔は何処へやら、明るく笑う。


 何処かから好感度アップの音が聞こえた気がする。んなワケない。


 さて、作るのは何年ぶりだろう。まあ昔よりは俺も成長してるし、今となっては難なく――――


 ………………


 …………


 ……


「どうしてこうなった」


 カチカチになった練り物。


 水が足りなかったのだろうか。足せばどうにかなるだろうか。


「………………」


 机の向かい側に座る二夕見さんも何も言わない。それもその筈。


 彼女の練り物は俺と真逆、水が多すぎてベチョベチョになっていた。


 どちらも食べられないことはない。しかし食感が最悪なことは間違いないだろう。


 本来つけるべきトッピングを雑につけた後、口の中に放り込む。


 粘土を食ってるような食感だった。


「………………」


 二夕見さんも無言でドロドロでカラフルのナニカにトッピングをつける。


 スプーンで掬って口に入れた。


 顔をしかめた。でしょうね。


「水でふやけたティッシュを食べてる気分……」


 粘土とどっこいどっこいだった。


 二人共無言で机の上を片付ける。


 最後はウェットティッシュで拭き上げて……終わり。


 消化不良感が半端ない。


「…………り、リベンジだ!! コンビニ行こう!!」


「そ、そうだね!」


 諦めの悪い俺たちだった。


 大学を出て並んで歩く。


 お互いに会話はない。頭の中で作るためのシミュレーションを繰り返し行っているためだ。


 腕のイメトレも欠かさない。通りすがりの人から見ればさぞ奇妙に映ったことだろう。


 コンビニに入る。


「あ、先輩!! …………何してんですか」


 俺を見て目を輝かせるひなただが、一瞬でその目は曇る。


 俺と二夕見さんの異様な動きを見ての結果だった。しゃーない。


「見てわからんか。イメージトレーニングだ」


「……なんのですか?」


「ひなた、お前それでも俺の後輩か!? 俺の動きを見て理解できないなんて後輩失格と言わざるを得ない」


 言いながらも俺は手の動きを止めることはない。


 水を入れて混ぜる、水を入れて混ぜる。手でこねる、手でこねる。


「…………手巻きタバコの作り方……?」


 え、似てるの? 作ったこと無いんだけど。


 しかし外れは外れ。


「残念!! 貴女は後輩失格です!!」


「…………うぅ……」


 涙目!?


「ウソウソ! 嘘だって!!」


 まさか泣くとは思わなかった。


 必死に宥めている所に、二夕見さんが目的の品を二つ持ってくる。


「ほら、ひなた! これを作ってたんだ!!」


「……お菓子、ですか?」


 涙目で俺の手元を見る。何度も頷く。


 ふざけすぎた結果こうなるだなんて、もっと線引きを考えろ俺!


「さっき作ってみたんだけど、失敗しちまってな。リベンジなんだ」


 ひなたの機嫌を治すために俺と二夕見さんの失敗を赤裸々に話す。よく考えてみれば二夕見さんはとばっちりだった。


 俺を見るひなた。知育菓子に目を落とす。また俺を見る。菓子を見る。最後に俺を見て。


「これ失敗する大人って存在するんですか?」


 とんでもない、ことを、言った。


 俺と二夕見さんの顔面が引き攣る。


「ひなた……お前休憩いつだ?」


「え? あと三十分くらいで交代すると思いますけど……」


 ふむ、三十分か。なら……。


 俺は二夕見さんをチラリと見る、言葉はなくとも二夕見さんは頷いて返答。


「ひなた、俺たちと勝負だ!!」


 知育菓子をひなたの目の前につきつける。


 叩き落された。おい、食べ物だぞ、大事に扱え。


「いいですけど……失敗する未来が見えませんよね」


「くっ…………この……っ!」


 俺と二夕見さんはギリギリと歯ぎしりを繰り返しひなたを睨みつける。


 その後、知育菓子を三つ購入し、一つをひなたに押し付けた後コンビニの前で作戦会議が始まった。


「俺は水が少なかった、あと多分混ぜるのも遅かった。二夕見さんはまったくの逆をいっていたから、二人を足せばちょうどいいんじゃないだろうか」


「なるほど……一理あるね」


 頭脳が二人分、対するひなたは一人分の頭脳。負ける道理がない。


 ふはははははは!!


 ………………


 …………


 ……


「だからって純粋に足したら多すぎるってどっちか気付かなかったのか?」


「…………」


 二夕見さんは何も言わない。


 出来上がったのはスライムのようなナニカ。


 どう見ても失敗作です。


「先輩、どうですか…………ってなんですかそれ!?」


「これが俺たちの集大成だ」


「…………バブルなスライムですか?」


 失礼な。そうにしか見えないけど。


 ふと、ひなたの手を見る。


 そこには綺麗に作られた知育菓子が…………。


「いや待て、休憩室に田野山さんいるんだろ? あの人子どもが二十人いるって聞いたことがあるぞ」


 いすぎ。


「いませんよ。なんならシフト表見てきますか?」


「おう、見てくらあ! 吠え面かくなよ!!」


 数分後。


「いませんでした」


「ね?」


 くっ…………これは俺たち二人の敗北、ひいては現代科学の敗北に繋がってしまう……。


 よし、こうなったら……。


 俺は立ち上がる。二夕見さんの手を引いて、ひなたを睨んで毅然とした態度でこう言った。


「覚えてろよバーカ! ばーかばーか!!」


「ば……ばーか!」


 哀れ俺たちはコンビニから涙をちょちょ切らせて逃げるのみだった。

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