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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と鬼が……じゃなくてジローが居ぬ間の告白


 これから先は俺の知らない話だ。


 コテージ内での出来事、俺はリビングで寝ようと努力している所で。


 これから先は俺が知る由もない、遥とひなたが寝ている寝室の話――――


「……寝た?」


「うーむむ…………寝れません、やっぱり慣れない布団だと……」


 一部屋にシングルベッドが三つ。その両端を遥とひなたは使っていた。


 二人共布団に潜り込みもぞもぞと動くが、どちらも寝付きは良くないようだ。


 かく言う俺もリビングのソファーで蠢いている。


「それにしても、今日食べたレストラン美味しかったですよねー」


「そうだね、山菜レシピが多くて自然の恵みって感じだった」


 ああ、確かに美味かった。


 だがしかし、俺はあの時風呂を出た時に着るきゃんぷシャツのことを考えて気が気じゃなかったけど。


 俺と霜崎さん以外は料理に舌鼓を打っていた。


「でも、遥さんは辛い物じゃなくても良かったんですか?」


「辛いのは好きだけど、絶対食べなきゃいけないって訳じゃないから」


 遥はそうやって気が使える子なのだ。


 だけど俺は知っている。温泉の売店でこっそりとチョリソーを買って、皆に見えない場所で食べていたことを。


 あの時の幸せそうな表情を俺は見ていたのだ。


「遥さんって……本当に素敵な人ですよねえ~……」


「え……どうしたの、急に?」


「いえ、こんなに優しくて甲斐甲斐しくて、相手のことを考えて行動できる人がいるんだなあ、って」


 まったく、俺には勿体ないくらいの器量良しだ。


 ちなみにさっきからちょいちょい俺が口を挟んでるが、俺はこの場にいない。


 俺はこの場にいないんだ。わかってほしい。


「それを言ったらひなたさんだって、いつも明るくて周りを笑顔にして、私には無い部分だから羨ましいかな」


「私は……やりたいようにやってるだけで……」


「それで周りを笑顔に出来るのなら、それは凄いことだよ」


 うーむ。ひなたをまっすぐ褒めるのは何やらくすぐったいが。


 確かに、どれだけ鬱陶しく絡んできたとしても不快に思ったことは一度もない。


 それはひなたが生まれ持った人柄なのだろう。それは確かに俺も羨ましい。


 俺もこの顔じゃなければなあ…………って、俺の話はどうでもいいか。


「……遥さん、話があるんですけど」


 ひなたがベッドから起き上がる。


 しかし遥はうつ伏せに寝転がったまま、顔を横に向けひなたを見ていた。


「ジローさんのことだよね」


「…………気付いてたんですか」


「うん、薄々…………というか、最初からかな」


「なのに、私を許可したんですか?」


「うーん……」


 考える仕草。


 そして俺は口を挟みにくい。しかし、くどいようだが俺はここにはいない。


「ジローさんって友達が少ないじゃない?」


 うるさいな。


「そうですね」


 うるさいなっ。


「そんなジローさんが、唯一心を開いてる感じがしたからかな。私の嫉妬心だけでジローさんの交友関係を狭めたらダメだと思ったの」


「…………そういう所ですよ、もう……っ」


 ひなたは大きく溜め息を吐く。


 そして布団を握りしめた。


「そういう、自分を抑えてまで相手のことを考えれる人なんて…………聖人ですか?」


「あはは、そういうのじゃないんだけどね。ジローさんが楽しそうなら、私も楽しい。ジローさんがのびのびと生きていてくれたら、私は幸せなの」


 俺は保護動物か何かか?


「それに、こんな考えになったのもジローさんのお陰だから」


「元からそうだったというわけでは……?」


 遥は首を振る。その顔は少し寂しそうに笑っていた。


「ううん。元々私は引っ込み思案で、相手の要望だけに応えてれば幸せになれるって思い込んでたから。だけど、そんな考えも間違ってるって打ちのめされて……失意の底にいる私を拾い上げてくれたのが、ジローさんなの」


「あの先輩が……? 自分が脱ぎ捨てた服で滑って転ぶような人が?」


 今それ関係あるか? ないよな?


「この前なんて積み上げた雑誌に足が当たって崩れてね、それに怒って蹴り飛ばそうとしたら指先怪我したんだよ」


 それ今言う必要ある? なんで俺の恥部暴露みたいになってんの?


 しかしその発言を聞いてひなたはクスクスと笑う。その笑い声を聞いて遥も微笑んでいた。


「ホント……先輩って、先輩って感じなんですよね」


 何言ってんだろう。


「本当だよね」


 え、同意するの?


「だけど……いつからですかね、気がついたら……先輩のこと、好きになってました」


「うん、知ってた」


「良いんですか?」


「…………ダメって言ったら、どうするの?」


 ひなたは少し悩む仕草。


 目を強く瞑り、絞り出すような声で言った。


「……バイトを辞めて、先輩とはもう会いません」


「………………」


 無言。


 その沈黙は肯定なのか否定なのか。


 答えはすぐに出た。


「それを、ジローさんはどう思うかな」


「…………それは……」


 たぶん、淋しくてやるせない気持ちになるだろう。


 だが、遥が安心するためなら、という気持ちで飲み込んでいくと思う。


「私のことを考えて、受け入れようとしてくれるんじゃないかな。ジローさんはそういう人だから」


「…………ですかね」


「ジローさんは今まで人に優しくされてこなかったから。だから人に優しくするっていうことの大切さを誰よりも知ってるんだと思う。だから、ひなたさんがいなくなっても、我慢しちゃうかも」


「でも、いつかそれが普通に……」


「なるかもしれない。けど、私はジローさんに我慢してほしくないから。だから、私の答えは……許可、するしかないんだよ」


 ただただ偏に俺のことだけを考えてくれた答え。


 それは有り難さを感じると同時に、申し訳無さをも感じてしまう。


「でも、忘れないでね。ジローさんの彼女は私なんですから」


 ベッドから起き上がり、胸を張って言う遥は少し笑っていた。


 やせ我慢している部分もあるだろう。だけどそれ以上に、ひなたという存在を気に入っている。


「遥さん……っ!」


 ひなたはベッドから立ち上がり……遥へと抱きついた。


「う"っ!」


 俺とは違う。か弱い遥はいとも簡単にベッドに押し倒される。


 遥の胸に顔を埋めるひなた。なんて羨ましい……じゃなくて。そんな彼女は少し泣いていた。


「ごめんなさい……ありがとうございます……!」


 謝りながら感謝するひなたの頭を、遥は微笑みながら撫でているのであった。




――――――――――




「………………はっ!?」


 ふと目が開く。あれ、俺寝てた?


 寝れなくてソファーの上をもぞもぞしていたはずなんだが。


 なんか夢を見ていた気がする。


 遥とひなたが寝てる部屋の中を見ているような。


「…………んな訳」


 溜まってんのか? 寝室を夢見るとか。


 ソファーから立ち上がる。柔らかいがベッドとはまた違う固さで、首が微かに痛い。


 備え付けのコップに水を汲み、一息に飲み干す。


「ふう」


 ひと心地ついた俺はソファーでまた寝よう……としたが、なんだか眠気が飛んでしまった。


 時刻を見れば深夜の二時。既に皆寝ていることだろう。


 ふと興味が湧いた俺は、テラスに出てみることにした。


「…………」


 静かな夜だ。


 聞こえるのは風の音、そして葉擦れ。


 キャンプを設営するキャンプ場からは焚き火の灯りがチラホラと見える。


 まだ起きている人はいるのだろう。テラスに置いてあるウッドチェアに腰掛け、空を見上げる。


 街灯がほとんどないこの場所では、星が一面に広がっていた。


 ……こりゃすごい。夜中に起きた甲斐があるってもんだ。


「……ジローさん?」


 ビックリした……。遥だった。


 肌寒いのかストールを巻いて、メガネを掛けていた。


「どうした? 眠れないの?」


「ええ、少し……ジローさんは?」


「俺はほら、昼間に寝ちゃったから」


「ああ、そうでしたね」


 ストールで口元を隠し、クスクスと笑う。


 そのたおやかな仕草に、星よりも目を奪われた。


「どうかしました?」


「え? ああ、いや…………ほら、見てみろよ、星空が綺麗だ」


 率直に言うのが憚られた俺は、照れ隠しに空を指す。


 見上げた遥の瞳が、星を目の当たりにするとどんどんと輝いていく。


「わあ……!」


 その時、風が吹く。


 遥はぶるりと身震いし、俺の傍にまでやってきた。


 俺の膝の上に乗り、俺の胸元に体を預ける。


「温かいですね……」


「そ、そうだな……」


 二人で星を見上げる。


 しかし俺は胸元の温かな感触で、気が気じゃなかった。


「ジローさん」


「……ん?」


 胸元の遥を見下ろす。


 不意に、キスされる感触。


 目元が遥の髪でくすぐられるのがわかった。


「大好きです」


「俺も、大好きだ」


 今度は俺から顔を近づけた。


 それから少しの間、二人で肌を寄せ合ったまま夜空を見上げて過ごしたのだった。



――――――――



 翌日。


「よーし、皆忘れ物はない?」


 チェックアウトを済ませ、運転席に乗り込む霜崎さん。


 俺も助手席に乗り込もうとした。その時だった。


「先輩! 今日は先輩こっちへどうぞ!!」


 ひなたが何か言っていた。言われた方を見ると、そこは後部座席。


 しかし、霜崎さんが疲れた際の交代要員として俺は常駐していなければならない。


「いや、俺は……」


「でもジロー。あんた昨夜あんまり寝てないでしょ?」


 何故わかった。


 あのまま夜空を見上げたり、話したりで眠りについたのは四時頃。


 八時には起こされたので、四時間ほどしか寝ていない。


「目がすっごい赤い」


 え、そうなの?


 周りを見渡せば、頷きの嵐。そして遥も目が赤かった。


 それだけで何か察したようで、遥の隣の席がこれみよがしに空いていた。


「あんまり寝てない状態で運転するのも危ないから、大人しく甘えておきなさい」


「……はい」


 反論する言葉もなく、言われた通りに後部座席へ。


 そしてキャンプ場を離れ、幾らもしないうちに。


「二人共、寝たな」

 

 雫さんの声が遠くに聞こえる。


 俺の隣には温かな感触と、重み。


 後部座席の一角では、俺と遥が体を寄せ合いながら寝入っていた。

読んでいただきありがとうございます。


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