失恋と到着!コテージ!
「ふぃ~~~……」
車を降りて、体を伸ばす。
ずっと座りっぱなしだった体が音を立てて解れていくのを感じる。
後半は楽しかったけれども、やはり疲れは出てくるか。
「お疲れさまでした」
ペットボトルに入った水を手渡してくれる遥。
お礼を言って受け取り、一口含む。
って、空いてた?
渡されたペットボトルを見るために視線を落とすと、俺の手からペットボトルを受け取ったかと思うと、遥も一口飲んだ。
…………いやいや、今更間接キスでなんて…………ねえ?
ちょっと恥ずかしい俺だった。
ごほんと咳払い一つ、改めて周囲を見渡してみる。
キャンプ場の入口へは大きな樹がずらりと並び、自然をこれでもかというほど見せつけてくる。
売店やレンタルショップは景観を損ねないログハウス。
広がった草原にはキャンプがちらほらと点在していた。
「行きましょうジローさん」
「あれ、チェックイン的なことは?」
「もう済ませましたよ」
そういう遥の手には鍵があった。
売店のラインナップを楽しむその他大勢を呼び、俺たち一行はコテージへと向かった。
――――――――――
それがこちらとなります。
遠目からでもわかる立派な建物。避暑地の別荘のような佇まい。
売店と同じく景観を損ねないログハウス、裏側には広いテラスがある。
借り受けた鍵で扉を開くと、中もとても豪華だった。
入ってすぐに広がるのは大きなリビング、吹き抜けになっている高い天井。
二階への階段があり、上がるとそこは全て寝室の部屋になっているようだ。
「すごい……!」
誰かが呟いた。
確かにテンション上がるな……これは……。
と、いうことで。各々探検モードに入ったようです。
全員が四散し、気になる場所を勝手気ままにチェックしにいった。
…………俺も俺も!!
リビングの隅にある扉。
これはなんだろう。ドアノブを回してみる。
が、開かない。なんだここ?
何度も何度も回してみると、中から声が。
「ちょ、ちょっと待ってください……!!」
切羽詰まったような声。
なんだか慌ててるような……。
幾ばくもしないうちに、何やら流す音が聞こえた。
…………まさか。
ガチャリと扉が開く。現れたのは。
「ひ、昼河くん……」
「二夕見さん……」
ここ、トイレだったのか……。
「……我慢してて…………」
顔を真っ赤にして俯く。
「ご、ごめん! ここトイレだって知らなくて!!」
急かしてしまう形となってしまったわけだ。
とても申し訳ないことをしてしまった。
……って、あれ?
トイレにしては中が広いような。
「って、ダメっ!!」
「ぐえっ!!」
中を確かめようとした俺の服の首根っこを掴む二夕見さん。
俺の喉は完全に極まっていた。
「入ったばかりだから……!」
「ご、ごもっとも……」
ジローはデリカシーが5低下した!
ジローは酸欠により意識も低下した!!
………………
…………
……
「ふう」
ひどい目にあった。完全に自業自得だけども。
ちなみにトイレの中はユニットバスだった。そりゃ広いわけだ。
さて、次は…………ここは、キッチンか。
設備が整ってはいるが、今回は料理をするつもりはない。
無縁の場所となるだろう。
しかし冷蔵庫、これは良いものだ。
酒を買ってきて冷やすも良し。って、そうだ。
サービスエリアで買った食べ物、冷やしておこう。
玄関に置いた荷物を取りに行く。
「何処だ何処だー…………っと」
ガサガサ。ガサガサ。
ああ、あったあった。
長方形の紙で出来たお土産のような包装。
包装紙は見るも無残に破られてはいるが、中身はまだあるだろう。
なんせ大量に買ったんだ……………………あれ?
「やけに軽いな」
フタを開けてみる。
空だった。
もう一個。…………残り二個だった。
あれも、これも、それも。
中身がほとんど入っていない。
俺まだ食ってないんですけど!?
「あ、せんふぁい、どうかしました?」
と、背後から声。俺のことを先輩と呼ぶのは一人しかいない。
「ああ、ひなた。買ってきたお菓子がな、全部………………何食ってんだお前」
振り返ると、まんじゅうのようなものを咥えたひなたがいた。
それ、この中に入ってたやつじゃない?
長方形の箱を一つ持ち上げる。
包装紙は既に無かったが、箱に記されているのは芋あんまんじゅう。
「美味しいですね、これ」
フタを開けてみる。勿論中身は空だった。
「俺、食べてない」
「え?」
「食べてない、俺。それ、よこせ」
楽しみを奪われた俺は言語能力を失い、カタコトになってひなたへとにじり寄る。
ただならない俺の様子に後退るひなた。
しかし俺は追う。
「いや、ほら…………私、もう口つけちゃいましたし……」
「構わない、よこせ」
せめて一つでも食べないと。何のために買ったというのだ。
こちとら貧乏苦学生だぞ? そんな俺から食べ物を全部奪うっていうのかい?
「そんな事許されるかあ!!」
「きゃー!!」
飛びかかる。
ひらりと躱したひなたはリビングの中心へと逃げた。
ソファーを挟んでぐるぐると回って追いかけ続ける俺。
ずっと逃げ続けるひなた。
「うるせえなあ……もぐもぐ」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは雫さん。
その両手にはまんじゅうがあった。口のものを合わせて三つ。
「俺の、まんじゅう」
「姫宮先生逃げてください!! まんじゅうハンターが、まんじゅうを狙ってるんです!!」
「何言ってんだお前ら」
ひなたを捕まえられない俺は、雫さんへと向かう。しかしそれは良くなかった。
ひなたのように避けられると思った俺は、勢い良く飛びかかった。
「きゃあ!」
反応できなかった雫さんは俺に押し倒される。
そう、押し倒してしまった。
「いってえ……」
このビジュアルはよろしくない。
正気に戻ってしまう。もっと早く正気に戻っていれば……!
「…………ほらよ」
「むぐ」
片手のまんじゅうを俺の口に押し当てる。
うーん、美味い。…………じゃなくて!!
「これで満足か?」
「は、はい」
「なら…………どいてくれ」
「はい」
のそのそと起き上がる。続いて雫さんも起き上がった。
平静を装っていたが、その顔は真っ赤だった。たぶん俺もそう。
「…………そうか、逃げないのが正解だったんですね……」
なにやら不穏なことを呟いているひなただった。
………………
…………
……
最後はテラス。
夕方も少し手前といった時刻で、日差しも落ち着いてきている。
緑が多いせいか風は冷たく、葉擦れの音が耳に心地よい。
ふう……。
なんかテンション上がって変な失敗ばっかりしてるな。
ちょっと落ち着かないと。
テラスの手すりに両腕を置いて、景色を楽しんでいると。
室内から何やら揉める声が聞こえてきた。
その声はどんどんと近付いてくる……かと思っていたら、扉が開いた。
「どっちでもいいでしょ!?」
「どっちでもいいなら譲りなさいよ!」
霜崎さんと志保ちゃんさんだった。
この二人何処でもケンカしてる気がするな。
仲良くしてる日なんてあるのだろうか。いやないな。
「今度は何で揉めてるんですか?」
「ジロー、聞いてよ! 私と志保が同じ部屋になったまではいいんだけどさ!」
二階にある寝室部屋は三部屋。二部屋にはベッドが二つあり、少し間取りの広い一部屋にベッドが三つあった。
くじ引きで決めた俺たち。その結果霜崎さんと志保ちゃんさんが一緒の部屋になった。
二人で旅行もするくらいだし構わないだろう、そう思っていたのだが。
ちなみに残りの割り振りは、雫さんと二夕見さんで一部屋。
ひなたと遥と俺が広い間取りになったのだが……。
俺はリビングで寝る予定だ、流石に風紀上よろしくない。
「ねえ聞いてる!?」
そうだ。今はこの二人の話だった。
「ああ、はいはい?」
「志保がどうしても右側を使いたいっていうのよ!」
心底どうでも良かった。っていうか違いはないだろ?
「霜崎さんも右側が良いのか?」
「私はどっちでもいいんだけど」
いいのかよ。これ揉める必要あるのか。
「でしょ!? だから右側を使わせてって言ってるんだけど」
「勝手に決めるなんておかしくない!?」
「でも別に左側でもいいんだよな?」
「それはそう」
なんなん。
とりあえず志保ちゃんさんの提案を否定してるだけに見える。
本当に仲良いのか?
「じゃあ霜崎さん左側でいいじゃん」
「まあ、ジローがそう言うなら」
俺大して何も言ってないんだけど。
しかし、解決したんならそれでいいか。
「じゃあ私は右側ね」
「…………なんかムカつく」
無限ループかな?
またも揉めだしそうな二人をテラスに置いて、リビングへとやってきた。
そこには誰もいない。全員自分が割り当てられた部屋にいるんだろうか?
リビングのソファーに横になる。
運転の疲れだろうか、まだ夕方前だと言うのに眠ってしまった俺であった。
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