失恋と思いつきキャンプ
「あ」
自宅にて。
遥とゴロゴロまったりしている時にふと思った事があった。それは。
「キャンプ行きたい」
「キャンプ…………ですか?」
俺の独り言にもちゃんと反応してくれる。優しい。
そう、キャンプ。だがテントとか張ったり、深夜焚き火を見ながらコーヒーを飲んだりするような、あんなガチっぽいのではなく。
「コテージを借りて、最寄りの温泉行ったり、近くのレストランで食事したり。そういうの」
「それはもうキャンプって言うより…………外泊?」
そうとも言う。
非日常な感覚を味わいたい。普段なら出来ないことをしてみたい。
机の上に置いておいたスマホを手に取り、検索してみる。
「電車で二時間…………でもキャンプ場までの足がないな……」
「バスが通ってるところを探してみますか?」
遥も自分のスマホで調べてみてくれる。
バスが通ってるキャンプ場となると、最寄りでは……無いな。あったとしても温泉が無かったり、レストランが無かったり。
バーベキュー器具もレンタルしてるところもあるけれど……近くでは、無いか。
「無いですねぇ」
そうだなあ。
思いつきで言っただけだから、実現するとは思ってなかったけれど。
実現不可能だと思い知るとそれはそれで悲しいものがある。
「そういえばジローさん、免許って持ってないんですか?」
「アマチュア無線の? 持ってないよ」
「なんでですか。運転免許ですよ」
知ってたけど。
「免許ね……あるにはあるんだけど、ほとんど身分証明としか使ってないんだよな」
いわゆるペーパードライバーというやつだ。
車が必要な住環境ではないため、特に所得した意味もない免許ということになる。
「レンタカーを借りていきませんか?」
「なるほど、その手が。……ちなみに遥は?」
「私は…………持ってないんです」
となると、俺の運転になるが。
大丈夫だろうか。最後に乗ったのって……いつだったっけ?
免許が取れたことによる浮かれたテンションで親父の車に乗らせてもらって……それが最後か?
…………ちょっと、いやかなり不安。
「私はジローさんと死ねるなら本望ですから」
「怖いよ。やだよ、死なせたくないよ。不安になること言うなよ!!」
「じゃあいつにしましょうか?」
「この流れで乗り気になる!?」
どうする? アーケードゲームのレースゲームでもやりに行くか?
いや、そんなもので勘は取り戻せないだろう。どうする?
俺の不安な気持ちはさておき、遥はどんどんと予定を進めていく。
いざとなれば…………一旦実家に帰って練習させてもらおう。
――――――――――
買い出しの日。今日はソロである。
といっても何を買うかは決まっていない。とりあえず寒そうだし冬服は見繕いに行く予定だ。
「あれ? 先輩?」
なんだというのだ、今日はソロの日だというのに。
「先輩? おーい、せんぱーい」
くどいようだが今日はソロなのだ。孤独な狼なのだ。
「せんぱいっ!!」
「ぐっはあ!!」
背後からタックルを食らった。
たたらを踏みながらもなんとか耐える。……よし、転ばずにすんだ。
わかっちゃいたが、ひなただった。
俺の腰に抱きつきながら笑顔を咲かせる。しかし今日の俺はその笑顔を見るつもりはない。
「危ねえだろうが!!」
「無視するからですよ!」
「今日は孤独を楽しむ日なんだよ!」
「ダメです!!!!」
…………言い切りやがった。
はあ、しょうがない。
溜め息を吐いて孤独の日とさよならバイバイする。
また会おう、ソロ日和。
「……で、なんだ?」
「見かけたから声かけただけですけど」
「………………」
青筋1。大丈夫、まだ余裕。俺は我慢強いのだ。
「……ひなたはここで何してるんだ?」
「別に何も?」
「………………」
青筋2。問題ない、まだ耐えられる。俺はやれば出来る子と小さい頃からジジババに言われて育ってきたのだ。
「これから、どうするんだ?」
「特に決めてません」
「………………」
青筋3。…モウ、我慢しなくても、イイヨネ?
ひなたの頬に両手を添える。
「え……先輩?」
顔を赤らめるひなた。
その頬を、親指と人差し指でつまみ――――引っ張った。
「いひゃいいひゃいいひゃい!!!」
「人の邪魔をしておいて……」
「ふぉめんなふぁい! ふぉめんなふぁい!」
「なんだって?」
謝罪の言葉なのはわかってはいたが、聞こえないふりをしながら刑の執行を続ける。
ギリギリギリ。
「いひゃいー!!」
満足したので手を離す。すぐさま自分の手で両頬を撫でるひなた。
キッと俺を睨みつけるその目は涙目だった。
「乙女の肌になんてことするんですか」
「俺の邪魔をした罪は重い」
さて。
鬱憤も晴らしたことだし、さっさと服を買って帰ろう。
「何処行くんですか?」
「冬服見に行くんだよ」
「私も行きます!」
「なんで」
「行きたいからです!」
正直者か。
そこまでまっすぐに言われると断る気も失せてくる。
好きにしろ、と一言だけ告げてチェーン店の服屋へと向かう。
適当に無地のトレーナーとスウェットを二、三着見繕ってカゴに放り込む。
「適当すぎません?」
「いいんだよ。着れたらなんでも」
セルフレジで会計を済ませ、退店。
「さて、帰るかー。お前はこれからどうすんだ?」
「私はちょっと用があるので」
「……さっき無いって言ってなかったか?」
「さっきはさっき。今は今です」
さいですか。
「じゃあ、俺は帰るからな」
「はい、お疲れ様でした」
てっきり『ついてきてくださいよー!』という言葉が出てくると思ったから拍子抜け。
まあ、買い物をしたら疲れるし、付き合わなくてもいいならそれはそれで楽だからいいか。
「じゃあな」
「はい!」
手を振るひなたへと軽く手を振り返し、その場を後にした。
あっさりと解散したことに微かに違和感を感じたが。帰って休めることを考えると違和感の正体は露へと消え去っていった。
そして自宅前。
「あれ」
「ジローじゃん」
雫さんが帰ってきたところだった。
手には大荷物。どれもが有名なブランドの手提げのショップバッグだった。
「買い物ですか?」
「ああ、冬服をな」
「…………部屋着じゃないですよね」
「部屋着もあるけど?」
「………………」
愕然とする。
雫さんが、部屋着に、ブランドものを……?
あの、万年ジャージを着ている、あの、雫さんが……?
「すげえ失礼なことを考えてるのはわかる」
手に提げたショップバッグを俺の背中にぶつけ、睨む。
まあ、ジャージだけだと冬を乗り切るには厳しいかもしれないしな。
そう考えると普通なのかもな。
「今度見せてくださいね」
「ああ、嫌でもな」
「…………?」
その言葉に微かに違和感を感じたが。
肝心の本人は既に家の中へと入って行っていた。
確かめる方法が無かった俺は首を傾げながら自宅へと帰還。
服が入ったビニール袋を適当に放り投げ、後は時を座して待つばかりであった。
――――――――――
「座した結果がこれだよ」
独りごちる。
すべて遥に任せていた。
俺が発案したにも関わらず、コテージの予約も、レンタカーの予約も、何もかも。
それが失敗だったんだろうか。自分で言い出したことなんだから自分でやれよっていう罰なんだろうか?
「あ、おはようございます先輩! 楽しみですね!」
ひなた。
「ジロー、本当に運転任せて平気なの? もしもしんどかったら私代わるからね?」
霜崎さん。
「昼河くん、お招きありがとう」
「ちゃんともてなしてよ」
二夕見さん、志保ちゃんさん。
「な? 嫌でも見るって言っただろ?」
雫さん。
………………どうしてこうなった?
レンタカーも想定してたものよりも大きいし。
「ごめんなさい……ジローさん」
「遥?」
「みーちゃんにポロっと言ったら……何故か、全員に伝わっちゃって……」
……ああ、なるほど。
なんやかんやとイベント事が好きな皆だ。
話が広がると同時に参加人数も増えてしまったということか。
「いや、まあ……楽しそうだしいいか」
本当は二人が良かったけど。
今更そうも言っていられない。
切り替えていこう。
「よし、じゃあお前ら…………行くぞー!!」
「おー!!」
キャンプ編、はっじまっるよー!!
読んでいただきありがとうございます。
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