失恋と合コン、全身激安チェーンコーデ
講義も昼で終わり、のんびりと歩いている時のことだった。
後ろから唐突に腕を掴まれる。
「よっし、最後の一人ゲット!!」
なんてハンターみたいな言葉を言いながら、万力のような力で俺の腕を掴む。
振り返ると。
「うわ顔怖っ!!」
「………………」
人の顔を見るなり驚く失礼な男三人がいた。
失礼その一、いきなり腕を掴んでくる。減点。
失礼その二、人を止めたくせにあの言い草。減点。
っていうか何の用だ?
講義が終わった疲れでボーっと歩いていたらこの流れ。
いかん、無性に腹立ってきたぞ。
表情に現れていたのか、三人の男はガタガタと震えだす。
「え、えっと……その、ですね」
「今日……ご、合コンなんですけど、一人足らなくて……」
「ひ、暇そうに歩いてたんで……ええと、参加……してほしいんですけど……」
合コン? 俺が?
「お願いします! 横で食べて飲んでるだけでもいいんで!」
でも俺には遥がいるし……。断るべきなんだろう。
しかし、知り合い以外から頼み事されたのなんて初めてだ。
ちょっと嬉しい。
嬉しいが…………彼女を裏切るような真似なんて出来ないよな。
でも……一応聞いてみるか。
「……ちょっと待ってて」
「は、はい!!」
一糸たりとも乱れない返事と気をつけ。訓練兵かな?
直立する三人に背を向けて、俺はスマホを操作する。
耳に届く機械的な呼び出し音、それが何度か続くと聞きたかった声が耳に届く。
『もしもし?』
「あ、もしもし。今大丈夫?」
『はい、大丈夫ですよ』
後ろからは少し騒がしい話し声。大学かな? それとも喫茶店?
「実は、知らない人から合コンに誘われたんだけど」
『は?』
何言ってんだこいつ、という声色。そりゃそうだ。
しかしながら待たれい。俺の心の悲鳴をしかとその可愛らしいお耳で聞くといい。
「俺、誰からも頼りにされたことなくて……」
『………………ああ~』
失礼な納得の仕方だった。いや、しょうがないけど。
合コンに行くにあたって俺から安全だということを証明するため、前もって話をして許可を取る。
これが俺が誠実だと証明する方法だった。
『まあ、ジローさんなら他の人に目が行くなんてことないでしょうし………………ないですよね?』
「ないない、もちろん。ないない」
慌てて否定したが、妙に怪しくなった気がしないでもない。
その所為か電話口の向こうで息を呑むような音が聞こえた。
『じゃあ……いいですよ、行ってきても。でも、終わったら連絡くださいね?』
「もちろん」
『あれ、でも――』
あ、切ってしまった。
でも、なんだったんだろうか。少し待ってみるが改めて掛け直しては来なかった。
特に重要な用事ではないと言うことだろうか? ……まあいいか。
「あ、あのー?」
振り返ると、俺の顔色を伺うような三人がいた。何故ごまをする手をしているのか。
俺は改めて三人に向き直り、咳払いを一つ。ビクッとされた。
「オッケーが出たよ。大丈夫だって」
俺の声を聞くや否や、顔を輝かせる三人。
こういう男の輪の中っていうのは無縁だったから、ちょっと新鮮。
しかし悲しいかな、三人で盛り上がっているだけで俺は輪の外だった。
「じゃあ今日の19時、駅前でお願いします」
「ああ、わかった」
それだけ言い残して、今は解散の運び。
さて、何着ていこうかなあ。
少しだけ浮足立ちながら自宅へと帰宅、服を漁ってみるが。
特におしゃれな服は持ち合わせていなかった。
そりゃそうね……激安チェーン店の服しか買わないからね……。
まあ、いっか。俺はただの数合わせだ。それよりも頼まれたこと自体を喜ぼう。
「イヤッホーウ!!」
雫さんからの壁ドンが激しく響いた。
――――――――――
そして約束の時間。
十分早めに到着である。予定場所に既に三人は到着しており、大学内とは違うおしゃれな服に袖を通す。
……しかしながら、服に着られているという例えがピッタリ来るかのように浮いていた。
「ごめん、おまたせ」
謝りながら参上。彼らはペコペコと頭を下げながら否定する。
「いえいえ、まだ時間前ですから!」
「それにしても……普段着なんですね」
「無駄に良い服着なくても素材が良いと普段着で充分なんですね!」
おべっかが凄い。まるでモブのようだ。
モブトリオは行きましょう、と先導していく。俺はその後ろをついていった。
目的の場所はオシャレで高そうなフレンチレストラン。
…………ええ、俺普段着で良いの、ここ。ドレスコードとかないの……?
俺上下合わせて5,000円にすら満たない服だよ……?
俺の杞憂はまったく伝わらず、モブトリオは店内へ。
恐る恐ると店内に入る。すると入るなり声を掛けてくるのはスーツ姿の男性。
シワ一つない綺麗なスーツだ。対して俺はシワだらけのシャツとジーンズ。
帰りたい。なんか惨めになってきた。
自然と顔が俯く。
「お待たせしました!」
モブの一人が声をかける、その先には女性が四人。誰も彼もが着飾っていた。
……居た堪れないなあ。
「じゃあ、全員揃った所で……まずは自己紹介から。俺たち男性陣から行きますね」
モブの名前を覚えるのは面倒なので割愛。俺の番が来た。
「ええーと、昼河 次郎です。趣味……? 映画、とスポーツ……ですかね」
女性陣から引き攣るような声。あ、いつもの悲鳴で少しだけ気が楽になった。
なってどうする。
「…………マジでいるじゃん」
と、何故か女性陣から聞き慣れた声が。
顔を上げる。すると。
「………………霜崎さん?」
嫌そうな顔をした霜崎さんがそこにいた。
「え、なんで?」
「こっちのセリフ。アンタ彼女いるでしょ」
「俺のこの顔を見ろ、人に頼まれるなんて宝くじ一等当てるよりレアなんだぞ」
「流石にそれは……………………いや、レアかもね」
納得するな。
女性陣は霜崎さんに対して『知り合い?』なんて聞いている。
モブトリオも目を丸くして俺を見ていた。
「あー、うん。あいつ友達の彼氏。見た目に反して無害なヤツだから気にしなくていいよ。置物かなんかだと思えばいい」
「失礼な」
そして女性陣の自己紹介。俺は数合わせなので、誰にも手を出すつもりはない。よって女性陣も割愛。
しかし霜崎さんの自己紹介だけはちゃんと見ておこう。
「んんっ……初めまして、霜崎 水香です。趣味は読書と………………ってこらジロー! 何笑ってんの!? 今何隠した!?」
「んふっ…………いや、別に…………ふふっ」
「出しなさい! …………ってなんで録画してんのよ、消すからね!!」
ああっ! 普段よりもワンオクターブ高く喋ってるかわいこぶった霜崎さんがっ!!
女性陣も男性陣も呆気に取られていた。
………………
…………
……
「はいジロー」
「ありがとう」
パスタを取り分けてくれる。
上にはなんかよくわからないものが色々乗っていた。
「お箸ない?」
「あんたここを何処だと思ってんのよ」
それもそうか。
場違い感に苛まれていた俺だったが、知り合いの顔があったことで一気に心が和らいだ。
そして何より霜崎さんの違いが面白い。
モブトリオに対しては笑顔で対応するが、俺に対しては……。
「あんた何飲むの?」
「じゃあ烏龍茶」
「酒頼みなさいよ!」
真顔で冷たく接する。しかしながらそれが、みーちゃんこと霜崎さんだった。
いつの間にか霜崎さんの席は俺の前に移動しており、甲斐甲斐しく料理を分けてくれる。ありがたいことだ。
「まったく、はーちゃんからジローがいるかも、って聞いた時はそんなバカなって思ってたのに……」
「ああ……遥の切り際に聞こえた『あれ、でも』ってこのことだったのか」
そこまで広い街ではない、こうやって被ることも時にはあるの…………かもしれない。
「そういえばジロー、この前テレビでやった映画見た?」
「もちろん。流石にラストは予想通りすぎたけどな」
「でも王道で良かったでしょ。変に奇をてらうよりはいいわよ」
「確かに。王道だからこそ気持ちよく終われたってのはあるかもな」
映画談義に花を咲かせる。
もうファミレスで飲みながら話してるのとあまり大差は無かった。
やがて女性陣も映画の話の中に入り込み、更に盛り上がる。
酒が進み、コップが一つまた一つと増えていく。
酔いも良い感じに回ってきていた。だから気付かなかった。
モブトリオのうち一人が霜崎さんを気に入っていて、俺の所為で話す機会がないという事実に。
「……しかし……昼河さんって顔怖いですよね!」
だからだろう。唐突にそんなことを言い出したのは。
「ん? そーねー、街に歩けば女性に悲鳴をあげられるし警察には捕まるしね。ねえジロー、今月何回警察に声かけられた?」
「15…………いや、20?」
「あっはは!! されすぎでしょ!」
「好きでされてる訳じゃないやい」
誘蛾灯のように寄ってくるのだ、どうしようもない。
む、それを言うと警察の人が蛾みたいな言い方だな。おまわりさんごめんなさい。
「でも、その顔でよく知り合いが出来ますよね? 俺ならこんな顔が怖い人の知り合い嫌だなあ」
「………………」
「え? いや……なんか、ごめん?」
なんか急にイジってきたな。酒が進んだせいかな?
まあ悲鳴をあげて逃げられるよりはマシか。
良くも悪くも顔に関してはイジられ慣れてる俺だった。
「ねえねえ、本当に人殺したことないんですか?」
「あるわけないだろ。あったらここにいない」
「でも、その顔で――」
「ちょっとあんた!!」
バン、と机を叩く大きな音。
俺を含む全員がビクリと体を跳ねさせ、音の出所へと視線をやると。
「あんた、ジローの何を知ってるっての!?」
霜崎さんだった。霜崎さんがキレていた。
「え…………」
「ジローが生まれつき怖い顔で、どれだけ苦労してきたか知ってんの!?」
「え、いや……」
しどろもどろ。
まさかキレられるとは思っていなかったのか、目線が泳ぎに泳いでいる。
周囲のテーブルもシンとして、霜崎さんへと視線が集中していた。
「何も知らないくせに、軽々しくバカにしてんじゃないわよ!」
「で、でも……霜崎さんだって――」
「友達の私と他人のあんたを同列に比べないでよ! ジローは私の親友の彼氏なのよ!? 今この場でイジっていいのは私だけなんだから!!」
「出来れば霜崎さんにもイジられたくはないけど」
「うるさいな!!」
はい。
「もういい、帰るよジロー! 皆、ゴメンね」
女性陣に謝り、カバンを掴んでテーブルを立ち上がる。
「え、マジで……あの……?」
「ジロー、早く!!」
「はい!!」
弾かれたように立ち上がり、財布から幾つか札を出してテーブルに置いておいた。
もちろん霜崎さんの分も。
静まり返ったテーブルに背を向けて、店の外へと一足先に出た霜崎さんを追いかけた。
そのまま無言で歩くこと数分、人の往来が少なくなった所で霜崎さんはデカい溜め息を吐いて蹲った。
「はあ~…………やっちゃった」
「やっちゃったねえ」
「ジローのことなんて放っといたらよかった……」
「まあ、俺は慣れてるから」
「それがムカつくんだっての…………」
最後の霜崎さんのセリフは聞こえなかった。
その後、落ち着いた霜崎さんと共に遥に電話をする。
遥もイジられたことに対しては立腹していたが、何事も無かったことが安心したのか、最後には笑っていた。
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