失恋と二人の大宴会
清々しい秋晴れの今日この頃、皆様は如何されておりますでしょうか?
実りの秋ということもあり、様々な食べ物が美味しく頂ける時期ではございます。
私でしょうか? 私は独り身に吹く隙間風が寒々しく感じる日頃でございます。
「………………」
なんてことをボーっと考えていても寂しさは変わりはしない。
ほんの数日前まで遥と共に暮らしていた我が六畳間のボロアパート。
解体工事も落ち着きを取り戻し、いつまでも別の所で寝泊まりして両親に心配をかけられない、とのことで帰宅をした遥だったが。
尤もだ。その理由は至極尤もだし、なんならここにいる方が異端であったりする。
とはいえ。
妙に家が広く感じるし、夜はとても寂しい。
男だって寂しさを感じたりするんだい。
手持ち無沙汰を感じながらベッドにダイブ。
軋んだ音と共に俺の体が微かに上下に揺れる。
ほのかに遥の香りがした。
「…………うーん」
仰向けに転がる。
見慣れた天井とともに去来するのは虚しさ。
慣れるまでずーっとこんな風に悶々としているつもりなのだろうか。
というかそもそも慣れるのか?
「ダメだ、外に行こう!」
もう夜だが、このまま家にいても物悲しくなるだけだ。
俺ってこんな女々しかったっけ?
いや、俺はもっと強靭なはず!
鋼の心を取り戻すんだ!
いざ、外へ。
「お、昼河じゃん」
ドアを開けると、お隣さんの雨宮さんが家に帰って来るところだった。
手にはコンビニの袋が二つ。いっぱい買ったな。
「今から引きこもるんですか?」
「んなわけ。……ってこの袋のせいか。これ中身酒とつまみだぞ」
そういって中を見せると色とりどりの缶と食べ物がたくさん入っていた。
「明日には無くなる」
「嘘でしょ? トイレにでも捨てるんですか?」
「アホか、飲むに決まってんだろ」
その量が明日で? とんでもないウワバミだな。
俺も酒は飲むがそこまで得意というわけではなく、むしろ弱い方だと思っている。
「んで、どっか行くのか?」
「ええ、ちょっと散歩でも」
「じゃあちょうどいいや、酒とつまみ買ってきてくれ」
「あんた手に持ってるの何かわかってます?」
それとも重さを感じないくらいの腕力の持ち主だとでもいうのか?
「これじゃ足りなさそうだからさ、追加で頼むわ。お前も飲むだろ?」
「え、俺も?」
「たまにはいいだろ」
まあ……一人で家に居ても落ち着かないし。
たまにはいいか。
「勝手に選んでいいですよね」
「ああ、ちゃんと大量に買ってこいよ」
「はいはい」
言った後階段を降りていく。
「あ、昼河」
二階の手すりから顔を覗かせ、俺を見下ろす。
「チーズ忘れんなよ」
「りょーかい」
手を挙げて返事した後、コンビニへと向かう。
ナチュラルにパシられた事に気付いたのは、コンビニに辿り着いた後だった。
――――――――――
ガチャガチャ、ガサガサ。
大袋を三つ抱えて夜の道を歩く。
中には大量の缶ビール、そして缶チューハイ。そして見ただけで胸焼けしそうなおつまみの数々。
財布の中身は軽くなったが腕の重みはいっそう強く。
アパートの明かりが見える。後もう少しだと自分を奮い立たせ、改めて袋を持ち直す。
「おかえりー」
二階の廊下には雨宮さんがいた。
下はジャージ、上は白い無地のシャツ一枚といった色気もない格好。
……いや、色気がないと言ったのは訂正する。
存在感が強い二つの胸を手すりに乗せ、缶チューハイを呷っていた。
俺の見立てでは雨宮さんは二番目に大きい、ちなみに一番はひなただ。
ってそんなことはどうでもいい。
腕や手のひらにはビニール袋の取っ手が食い込み、赤く跡を残す。
「よし、帰ってきたな。まあ入れよ」
ひいひいと階段を上ると、雨宮さんは自宅の扉を開けて招き入れる。
相変わらずなんか良い匂いが…………いや酒臭っ!!
部屋に充満する酒の匂いだけで酔いそうだ。
玄関の隣にある換気扇の紐をひっぱり、外への換気をする。
「それつけてるとうるせえんだよー」
「でもお酒の匂いすっごいですよ。って、あーあー……缶床に転がってら」
指定のゴミ袋に缶のみを放り込んでいく。
俺だって遥に鍛えられてるから最低限の片付けは出来るようになってるのだ。
人生是成長の日々ってな!!
「まあ好きにやってくれや」
缶を一本開けて、片膝を立ててテーブルに座る雨宮さん。
大人の女性とのサシの飲み会…………だと思っていたが。
蓋を開けてみれば粗雑なおっさんと向かい合って酒を飲むだけの会になりそうだった。
「だーれがおっさんだコラ!!」
缶を強くテーブルに叩きつける。ってええ!? もう空になってる!!
俺に飛びかかってきたかと思うと、ヘッドロック。
胸が当たってますぅ~。
「っていうかもう酔ってるんですか?」
「あたぼうよ。酔っちゃ悪いってのか?」
悪かないが。
俺が頼まれてから約二十分。ここまで泥酔状態になれるものか。
「って、いい加減離れてください!」
「なんだよー」
ヘッドロックを振りほどく。不満げな雨宮さんだった。
「慎みを持ちなさい! 慎み、言ってみてください」
「つつしみ」
「そう」
暴走状態の雨宮さんの相手をするのに必死で酒を飲む暇すらない。
というか落ち着く暇すらない。
「昼河ー、これ食ってみ」
と、指にあるのは棒状のサラミ。
言われるがまま受け取って口に放り込む。
香ばしい肉の香り。うん、美味い………………しかしその後に来たのは。
「かっら!!!!」
「あっははははははははは!!」
後に広がる純度の高い辛味。
慌てて酒を開けてグビグビと飲み干していく。
「ひー! ひー!!」
「昼河辛いのダメなんだっけえ?」
「ええ……! かなり弱いですよ」
だって言うのに、なんちゅーイタズラを。
「よし、どんどん食え! そしてどんどん飲め!!」
アルハラ監査委員会があれば間違いなくストップがかかるであろう雨宮さんだった。
………………
…………
……
それからどれくらい経っただろうか?
三十分? 一時間? 二時間?
時間の感覚がない。一つだけわかることは。
「だから言ってやったんですよ。番号で言わないやつに売るタバコはねえ! って!」
「あははははは、そしたらどうなったんだ?」
「店長にすっげー怒られました。柔軟に対応しろって」
「あはははは!! バカだ!!」
「あはははははは!!」
すっかり出来上がった俺だった。
自分が何を言ってるのかいまいちよくわからない。
酒は寂しさを忘れさせてくれる百薬の長なのだ。間違いない。
「なあジロー」
「なんですか雫さん」
「あたしって色気ないか?」
「ありますよ、ムンムンです」
「この格好でも?」
そう言ってシャツとジャージ姿で手を広げる。
服装自体には色気がない。だが。
「服よりも雫さんに色気がありますから!」
「そうか!! じゃあこうすると……?」
ジャージの裾を太ももの付け根あたりまで上げていく。
俺は酒の入った缶を天高く突き上げ、空いた片手で指笛を吹く。
「よっ! セクシー日本代表!!」
「いやー! 照れるなー!!」
「しかし今日は沢山飲みますね! なんか良いことでもあったんですか?」
「そう見えるか!?」
「はい!!」
だが次の瞬間、雫さんは肩を落とした。
それと同時に巻き上げたジャージの裾も落ちていった。
「実は……書いたヤツが全没でよ」
「あらま」
「だから今日はやけ酒の日なんだ!!」
「なるほど! じゃあ飲みましょう!!」
「おう!!」
泥酔が故にテンションの落差が激しい。
酔っている俺に慰めの言葉は持ち合わせておらず、勢いのまま酒を飲み交わす。
あれだけあった缶もみるみるうちに減っていき、残すこと後数本。
ちなみに俺はあまり飲んでいない。ほとんど雫さんが飲んでいるのだ。
だが俺も泥酔してる。宣言した通り酒には弱いのだ。
「恋愛描写が甘いんだってよ~……」
「恋愛だから甘くていいんじゃないですかー?」
「そういうことじゃねえよ……!!」
でも創作の恋愛って現実とは程遠いよな。
結婚式にちょっと待ったーって乗り込む人なんてほぼいないだろう。
しかし、今は現実的な恋愛を求められているんだろうか?
「いつか良い人が現れますって! その経験を基に素晴らしい小説を書きましょう!」
「こんな色気がない格好で大酒飲みでも?」
「むしろそれが良いって人を待つんですよ」
「ババアになっちまうだろそれー」
「かもしれませんね」
「この野郎!!」
またもヘッドロック。しかし力はほとんど入っていない。
ちなみに俺にも振りほどく力は残っていなかった。
二人共ぐでんぐでんである。
「…………ぐう」
「ぐう」
そのまま寝入る俺たちだった。
――――――――――
カーテンの隙間から日差しが漏れる。
それがちょうど俺の目の辺りを照らし、眩しさから意識が浮上する。
「うう……?」
何やら柔らかい感触。
まともに開かない目を何とか開き、周囲の状況を確認する。
……ああ、そうか。雫さ…………雨宮さんの部屋で飲んでたんだっけ。
「……ん?」
頭に何かが乗っかっている。
視線を横にずらすと、白い服。
下に移すと……ジャージ。
「…………すう……すう」
なんか、頭を抱きしめられながら眠っていた。
頭に伸し掛かる柔らかい感触。
「ちょ、ちょっと……雫さん!!」
「くう……くう」
深く寝入っているようだ。声をかけても何の反応もない。
体を揺すってみる。だが頭を掴む力は相当に強く、抜け出せる気配がなかった。
だが。
「ううう……やめろお……」
揺らされるのは不快だったようで、嫌そうに声を漏らす。
「雫さん、雫さんって!」
「んん…………ジロー……?」
起きたのだろうか。俺の位置からは見えない。
尚も揺すり続ける。その度に嫌そうな声が頭上からした。
「なん……なんだよ…………ふわあ……」
俺の頭から手を離し、大きなあくびをする。
慌てて離れる。雫さん……いや、雨宮さんは頭をボリボリと掻きながら眠そうに目を擦っていた。
だがそれも束の間。
先程まで自分がやっていたことを思い出したのか、顔を赤く染める。
「じ、ジロー……あたしに抱きついてたのか?」
「逆ぅ!! 雫さんが俺に抱きついてたんでしょうが!」
「…………雫?」
あ。
なんか酔った勢いでお互いが名前呼びになっていた。その延長線で今もなお名前で呼んでしまったのだ。
「いや、雨宮さんが……」
「…………いや、名前でいい」
少し恥ずかしそうに頬を染めてそう言う雫さんの姿は。
いつものがさつなイメージとは程遠く、不覚にも。
可愛いと思ってしまったのだ。
俺の視線に気付いたのか、もっと顔を赤く染めて俺に怒鳴りつける。
「な、なんだよっ!! あたしもジローって呼ぶからな!?」
「ええ、構いませんけど……」
「ジロー!! ジロージロー!!」
「犬か俺は!!」
朝っぱらやかましい俺たち二人だった。
読んでいただきありがとうございます。
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