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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と工事現場とリトルジロー


 駅前にて。


 遥とのデートの待ち合わせナウ。


 時刻は予定よりも少しだけ二十分前に到着。


 短髪のためほとんど弄る必要のないツンツンの髪の毛をいじったりいじらなかったり。


 こうしてただ立っていると、人の視線を感じることが多々ある。


 それは俺の見た目に起因していることだろう、だけども。


 ここ最近はそこまで気にならなくなってきている。それはやっぱり精神状態が昔とは違うからだろう、断言できる。


 つまり何が言いたいかと言うと。


 幸せな浮かれポンチなのである。


 幸福に包まれた俺にとって、戦々恐々とした外面だけを見た視線は、意に介する必要などないのだ。


 周囲を見ると、ただただ立っている人がちらほらといる。


 ある人は腕時計をしきりに確認。


 ある人はスマホをいじって無表情。


 色んな人がいるなあ、と人間ウォッチングをしながら時間を潰していると。


 何処かから工事の音が聞こえた。


 最近開発が増えてきたけど、栄えてくるのかな、この辺も。


 出来ることが増えるのは良いことだけど、今のこの環境も気に入ってるんだよなあ。


 駅前は人が多く、少し外れて住宅街に行けば途端に長閑な空間。


 そんな、層が出来ている感じが好きなんだけどな。


 そのままボーっとして時間は過ぎ。


 四十分が経った。


「………………あれえ?」


 時間を見る。


 予定より二十分過ぎていた。


 連絡はない。


 珍しい、遥が何も言わずに遅刻するなんて。


 遥のスマホに電話をかけてみるが…………出ない。


 寝坊? それならそれで構わない。


 仕事が急に入った? それならしょうがない。


 だけどもし…………事故だったら?


 脳裏に過っただけだというのに、俺の心臓は不安によって早鐘を打つ。


 息ができなくなり、口で浅く早く呼吸を繰り返す。


 遠くで救急車の音が聞こえた気がする。幻聴かどうかも判らない。


 そう考えたが最後、居ても立ってもいられなかった。


 遥の喫茶店の方へ足を向け…………ようとしたその時。


 前から遥が歩いてきていた。


 見た目からは怪我は無さそうである。ホッと一安心。


 しかし、なんか変だ。


 髪の毛はまとめておらず、ボサボサ。


 大学でも無いというのに珍しくメガネをかけたままで、服は少しだらしない。


 そして何より。


 目が開いていない。糸目だった。


「…………遥?」


 近くに寄って声をかけてみる。


 目を閉じたまま俺の顔の高さまで顔を上げる。え、見えてんの?


「あ、じろーさん、おはよございます……」


 ぺこり。


「おはよう……? 遥、寝坊?」


 っていうかむしろ今も寝てる?


「おきてましたよ……ねたり、おきたり、くりかえして…………くぅ」


 寝た!!


 今日は体でも動かそうかと考えてたけど、予定中止だ。


 こんな状態でスポーツをしようものなら怪我してしまう。


 とりあえず……家に連れて帰るか。


「ほら、遥」


 屈んで背中を向ける。


 いつもの遥なら照れて遠慮するのだが。


「……大きいベッド~」


 と、いとも簡単に体を預けてきた。


「固い~……」


 それはどうしようもない。


「じろーさん……おんぶ、手慣れてますね……」


 それもどうしようもない。


 ここ最近人を背負う事が多くてな。


「今日は……何して、遊びますかあ……?」


「今日は夢の中で遊ぼう」


「それは……素敵ですね~……」


 そして程なくして、背中から寝息が聞こえてきた。


 珍しいな。


 徹夜でもしていたのだろうか。


 真っ昼間から人を背負い運ぶ姿は、それなりに人目につく。


 遥の寝顔を世間に晒すわけにはいかない。少し急ごう。


「ん~……揺らさないでえ……」


 少し我慢してほしい。



――――――――――



 そして自宅。


 俺のベッドに遥を横にすると、布団を抱いて足に挟んで寝始めた。


 さっきよりも強い寝息。


 完全に熟睡モードに入ったようだ。


「………………」


 さて。


 何しようかな。


 映画でも……と思ったが、音を立てるのはよくない。


 ゲーム……一緒か。


 ふむ。


 寝入った遥を視界に収める。


 可愛い。


 ってメガネ危ないな……よし、テーブルに置いた。


 何をするでもなく、遥の寝顔を見ていると。


 その…………なんだ。


 アレが、アレしてきた。


 いかん。相手は寝てるんだぞ。


「……………………」


 強烈な誘惑が俺を襲う。


 ダメだ! 今俺はここにいてはいけない!!


 スマホをむんずと掴み、外に出る。


 雑踏だ。雑踏の中に身を投じよう。


 大衆の中に身を隠し、邪悪な次郎に打ち勝つのだ!


 いざ外へ。うーん日差しが眩しい。


「あれ?」


 外へ出ると、ちょうど帰ってきたらしい雨宮さん。


「どっか出かけるのか?」


「ええ……ちょっと悟りを開きに」


「は? ……まあいいか」


 俺の変人っぷりに首を傾げながら、雨宮さんは自分の家に入っていった。


 いつもなら変人扱いされたことに対して文句の一つも言ってやりたいところだが。


 のっぴきならない俺はそんな事を言う気力も元気もなかった。


 そして数時間後。


 遥からの着信をもって、ようやく家に帰る俺なのであった。


 ふう、一安心。


 ………………


 …………


 ……


「ごめんなさいジローさん!」


 家に入るなり、遥の謝罪。どうした、枕をヨダレで汚したのか?


「そうじゃなくて」


 俺が枕を確認しようとする手を止めて、申し訳無さそうな表情をする。


「今日はデートの日だったのに……ずっと寝て過ごしちゃって」


「いや、別に構わないけど」


 リトルジローがピンチだっただけだ。


「そういう訳にも……」


「でも、珍しいよな。遥が日中でも眠そうにしてたのって」


 ていうか寝てたけどな。


 俺が言ってみると、遥の顔は苛立たしげに歪んだ。


 え、言っちゃダメだった? そう思ったが、彼女の苛立ちは他に向けられているようだ。


「……工事が」


「工事?」


 こくんと頷く。


「工事が、うるさくて早く目が覚めてしまうんです! 夕方眠くて仮眠を取ると寝る時間もズレ込んで……」


 昼夜逆転まではいかないが、生活サイクルが普段と変わることでしんどくなるアレか。


 気持ちはよく分かる、俺もよくなるから。俺の場合は映画を見てたことによる自業自得だけど。


「夜だけ霜崎さん家に行くとか」


「それも考えたんですけど、みーちゃん……志保さんと旅行に行ってるんですって」


「旅行!?」


 あの二人仲悪いんじゃなかったっけ?


 それが旅行ですって? あらやだ急展開。


「どちらが猫に好かれてるか勝負するために、猫島に行くらしいです」


 ああ、コンビニで喧嘩してた件か……。


 っていうか遠出してまで決着つけたいことだろうか。


「私も誘われたんですけど、喫茶店の仕事があるので」


 急に家を空けるのは難しい、と。


 大学と家の手伝いを両立している遥だ。かなり前に予約をしないといけないんだろうな。


 んで、家で寝ていると工事に起こされ、寝不足のまま過ごすことになる……ってことか。


「じゃあ、泊まっていくか?」


「え?」


「え?」


 俺なんか変なこと言った?


 ……言ったわ。


 遥の顔はみるみるうちに赤く染まっていき、それを見ていると俺まで恥ずかしくなってくる。


 というか、自分が言ったことを自覚したこともあってどんどん恥ずかしくなってきた。


「………………」


 何も言わない。俺も、遥も。


 そりゃ、いきなり提案されても承諾出来ないよな。そりゃそうだ。


 俺もいきなり変なことを口走ったらダメだろう、反省しろ俺!!


「じゃあ……着替えとか、持ってきます」


「え?」


「え?」


 今なんて言った? 着替え?


 え、泊まるの? いや、自分で言っておいてなんだけど。


 え、待って? 大丈夫なの?


 盛大に混乱する俺だった。


「最近の寝不足は両親も知ってるので……友達の家に避難するって言えば……恐らく大丈夫……かと」


「そ、そうなんだ……」


 やばい、なんか緊張してきた。


「やっぱり、ダメ……でしたか?」


 申し訳無さそうな表情。


「いや!!」


 そんなことはない! そこまで言葉が出なかったが、遥は理解してくれたようだ。


「じゃ、じゃあ! ちょっと行ってきます!」


「あ、ああ……」


 上機嫌に家を出た。


 …………勢いで言ったとはいえ、大変なことになったな。


 頑張れ、耐えろよ俺のリトルジロー……!

読んでいただきありがとうございます。


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