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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋とコンビニよもやま話


「せんぱーい、バックヤードの清掃終わりましたか?」


「ああ、もう終わる」


 後は種類別に並べて……と、よし終わり。


 裏側の作業を終え、店内に戻るとそこはひなたしかいない。


 今日は暇だなあ……。


 上がるまで……後二時間か。


 トイレ掃除もしたし……床の拭き掃除もした。


 客がいないからそもそも補充するものがないし。


「先輩」


 はっ! こういう暇な時は大体過剰なスキンシップがやってくる!


 俺は身構えて振り返ると。


「何してるんですか?」


 きょとんとした表情のひなたがいた。


「…………なんか用か?」


「今暇なんで、小休憩どうぞ」


「……あ、ああ」


 コンビニの先輩であるひなたは俺に短い時間の休憩を割り振ってくれる。が……。


 最近、ひなたの様子がおかしい。


 話せば普通に答えてくれる、それにこの前のサプライズの時のように避けたりなどはしていない。


 普通なのだ。逆に言えば普通なのが問題とも言う。


 休憩室でボーっと十数分、その事ばかり考えていた。


「休憩もらいましたっと」


「はーい、じゃあ次は私行きますね!」


「ああ、行ってらっしゃい」


 行ってきます、と笑顔で手を振りながらバックヤードへと消えていく。


 普通、かあ。


 何の問題も無いはずなのに、何故かもやもやする。


 その時自動ドアが開き、音楽が鳴る。


「いらっしゃいませー……って」


 入ってきたのはジャージ上下を身に着けたお隣さん、雨宮さんだった。


「おう」


 と、片手を挙げて挨拶した後アルコールコーナーへと迷いなく歩いて行く。


 缶を無造作に幾つか放り込み、その後は弁当コーナー。


「……あんま良いのねえな」


「そろそろトラックが来る頃ですからね。弁当類は品薄になってるのはしょうがないですよ」


「客の独り言聞いてんじゃねえよ」


 店内には俺と雨宮さんしかいないのだ、小さな独り言だろうと聞こえてしまう。


 販促アナウンスやイベントの放送などはもはやBGMと化して俺には馬耳東風。


「今日はいつ上がりなんだ?」


 時計を見る。


「あと二時間ってところですね」


「結構あるんだな」


「もしかして、待っててくれるつもりだったんですか?」


「アホ、んなワケないだろ」


 そして俺の肩を小突いてきた。


 痛みはない。しかしこれが雨宮さんとの『普通』なのだ。


「はは、でもカメラあるところでやんない方がいいですよ」


「そだな」


 世間的に見れば異常かもしれない。だがこれが俺たちにとっての普通。


 雨宮さんはおつまみを適当に見繕い、レジに持ってきた。


「なあ、これにケチャップかけたら美味いと思うか?」


 と見せてきたのはサラミ。


 なんなんだその飽くなき探求心は。


「ピザソースを食パンに塗ってピザトーストにした方がいいんじゃないですかね」


 カゴから商品を取り出し、スキャンしていく。


 その間、彼女はホットスナックの棚をチラチラと見る、誘惑されているのだろう、気持ちは解る。


 とても解る。


「どれいります?」


「え? い、いや……もうこんな時間だし」


 必死に誘惑に抗っているようだ。


 だが、そのような弱い意志では深夜の背徳感に勝てるかな?


「良いんじゃないですか? またウォーキングすれば」


 ちなみにあの一回以来していない。


「う…………でもなぁ……」


 雨宮さんの牙城はとても脆かった。


 もう一押しで亀裂……いや、崩壊するだろう。


「言ってくれれば付き合いますよ」


「……………………チキン、ひとつ」


「ありがとうございますぅー」


 ふ、容易い。


 雨宮さんはいつもレジ袋がいる派、そして現金タイプなので何も聞かずに用意していく。


「2,847円です」


「ほい」


 千円札が三枚。


「三千円お預かりします…………はい、153円のお釣りです」


「さんきゅ……また、運動付き合えよ」


 照れながら言うあたりが実に雨宮さんっぽい。


「ええ、もちろん」


 自動ドアが開き、退店。


「ありがとうございましたぁー」


 少し手を抜いた間延びした言い方。まあ他に誰もいないし良いだろう。


 さて、またも無人。


 機械の駆動音と店内の放送音のみが聞こえる、実に無機質な空間。


 何故か無性に孤独を感じる瞬間である。世界に自分しかいないような孤独感。


 しかしそんな訳はなく、バックヤードに行けばひなたもいる。


 今だって車が店の前を横切っていった。


 自動ドアが開く。やけに騒がしい二人が来店してきた。ほら、孤独なんて味わう暇が無い。


「だから! 絶対私にだったって!!」


「しつこいわね、私だって言ってるでしょ!?」


「…………らっしゃっせー」


 何故かケンカしながら入ってくる二人に対し、俺は気配を消すように小さく声を出す。


「なに、自分が中心だとか思ってるつもり!?」


「それはアンタでしょ!!」


 っていうか霜崎さんと志保ちゃんさんだった。


 珍しい組み合わせだ。


「ってジローじゃん、ちょっと聞いてよ!」


 霜崎さんが俺を見つけるや否や、レジに片肘ついて志保ちゃんさんを指差す。


 志保ちゃんさんも空いたスペースに片肘をついて、霜崎さんを指差した。


 なんだなんだ、瓜二つの行動して。


「さっきそこで野良猫見つけてさ、こっち見て鳴いたのよ。それって私にだよね!?」


「いや私でしょ、絶対私の方見てたもん!」


 …………。


 どうでもよかった。


「ねえ、どう思う!?」


 なんて二人で同時に言われても。


 その場を見てないと判断できないことではあるし。それになにより。


「どっちでもいい」


「はあ!?」


 またもハモる。仲良しか。


「っていうか二人仲良かったんだ」


 二人は顔を見合わせ、お互いバカにするような顔で鼻で笑う。


 それが二人共気に食わなかったのか、睨み合いを始めた。


 うーん、レジ前でやることじゃないぞ、これ。


「志保とは元カレの件でね、何かと話すことが増えたってだけだから」


「そうそう、水香と仲良く二人で出掛けたりなんてしたことないし」


 ああそうか、この二人は二股されてたんだっけか。


 っていうか今なんて言った? 二人で出掛けたことないって?


「じゃあ今は?」


「これは…………偶然一緒になっただけ」


「……何処から?」


「…………水香の家から」


 仲良しじゃねえか。


 とは言え、まあこれが二人の付き合い方なのだとしたら俺が口出しすることではないだろう。


 っていうか何も買わずに口論ばかりしてるのはコンビニの使い方としては間違ってやしませんかね。


「それで、今日は何買いに来たんだ?」


 霜崎さんと志保ちゃんさんはお互いに視線を交差させる。


 そしてお互い微かに首を傾げた。


 なに見せられてんだこれ。


「アンタが何か買いたいって言ったんじゃなかった?」


「え、アンタでしょ。忘れたのを私に所為にするのやめてよね」


 そしてまた始まる口論である。


 夜なんだからもう少し静かにして欲しい。


 二人は店内を回りながらあーでもないこーでもないと話し合……いや、揉めている。


 やがて何も必要なものが思いつかなかったのか、店を出ていこうとしていた。


「じゃーねジロー」


「何しに来たんだアンタら」


 俺の棘のある言葉は自動ドアの音によってかき消された。


 それと同時にひなたが休憩から戻って来る。


「なーんか騒がしかったですね?」


「ああ、キャットが原因でキャットファイトしたメス猫二人がずっと言い合ってた。まったく、猫の額ほどしかない器の小ささだと思わないか」


「猫要素強いですね」


 その後、終業まで猫の可愛さについて語り合って時間を潰したのであった。



――――――――――



「おつかれさまでしたー!」


「おつかれさまでした」


 交代の人に声をかけ、俺とひなたは退店。


「じゃ、先輩も。おつかれさまでした!」


「ああ。しかし送るから今言うのは早いけどな」


 さあ行こうぜ、と声をかけてひなたの家の方角へと先導するが、ひなたは歩かない。


 どうかしたのかと振り返ると。


「いえ、今日からもう一人で帰れますから!」


 なんてことを言い出した。


 普段は夕方だとしても送るように言ってくるひなたが。


 現在時刻は日付が変わる少し前、女の一人歩きは危険すぎる。


「なあ……、お前、なんかあったのか?」


 そんなことを聞かずにはいられなかったのであった。

読んでいただきありがとうございます。


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