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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と誕生日。ただし……?


 バイト終わりのことである。


「なあひなた、今日は――」


 飯でも食って帰るか? そう尋ねようとしたが。


「お疲れさまでした!!」


 俺を見ることなく、制服を脱ぎ捨て鞄の中に入れて颯爽と走り去っていった。


 ……なんなんだ。


 まあ今日は夕方上がりだったし、危険もないだろうし……いいか。


「お疲れ様でしたー」


 交代の人に声をかけ、コンビニを出る。


 少しだけ蒸し暑い夕方だった。


 温度が上がったり下がったり、安定しない気温に肌に汗がじっとりと滲む。


 不快さに顔をしかめると、目の前からは見知った人物。


「あ、二夕見さ――」


「っ!? い、今急いでるから……またねっ!!」


 脱兎の如く。


 ……なんなんだ。


 急いでいると言う割にはのんびり歩いていたじゃないか。


 まあ、特に用事があるわけじゃないから良いんだけど……。


 逃げなくても良くない?


 頑張って平静を装うが、波立った感情は中々凪にならなかった。



――――――――――



 それからも。


 俺は何故か人に避けられる日々を重ねていた。


 ホワイ? 俺なんかした?


 人知れず傷付けてしまった? なら言って欲しい。


「…………はっ!?」


 まさか映画を布教するマンが大不評か!?


 あれは善意の押し付けの塊だぞ!?


 まあ善意の押し付けが時として不快を与える原因にしかならないという可能性は無きにしも非ずといった風を醸し出している危険性は孕んでいるが。


 あれだろうか、前の映画を三本立て連続視聴が効いたのだろうか。


 俺に話しかけると映画を見させられてしまうというトラウマを植え付けてしまったのか?


 そんな、あれは二夕見さんが人の好意を区別できればと思って、良かれと思っての行動だぞ!?


 これが前述した善意の押し付けに該当するということを、今の俺は気付いていない。


「あ、霜崎さんだ」


「っ、ジロー……!!」


 遠くに歩くは霜崎さん家のみーちゃん。


 このチャンス、逃す手はない……!


「待てー!」


「ちょ……ちょっと急いでるから……またね!!」


 またも逃げ出す。


 しかし前回とは違い、逃げられるかもしれないという心の準備を既にしている俺にとって、その程度造作もなきこと。


 追いかければいいだけの事よ!!


「待ぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇ~~~」


「し…………しつこい……!」


 自慢じゃないが俺は体を動かすのが好きだ。


 だから体は常にベストに仕上がっている。ゴメン嘘、ちょっとだけ盛った。


 故に、故にだ。


 霜崎さんに追いつくことなど小指だけで箸を掴むよりも簡単な事なのである。


「な……なんで、そんな足……早いのよ!」


「鍛えてますから」


 嘘、ちょっとだけ盛った。


 しかし間もなく追いつくという距離まで詰める。


 道行く人の視線を一身に集めたある種のスターの感覚に身を包まれながら、俺は野太い声をかけながら女性を追いかける。


 だからだろうか。


「待て!!」


 俺よりも体が作られた男性に捕まったのは、致し方ないことかもしれない。


 紺色のスラックス。


 薄い青色の長袖ワイシャツ。腰には無線機や警棒、沢山の装備。


 そして帽子。胸元や帽子には朝日影の紋章。


 つまり警察だった。


「お前、何をしている!?」


「何をって…………」


 霜崎さんを見ると、既に豆粒のように小さくなっていた。わーお健脚。


 警察の人に両肩を掴まれながら何と答えようか考える。


「女を追いかけてた……?」


「貴様……!」


 考えた末にそのまま答えることにした。


 それが間違いだったと気付いたのは口頭で厳重注意を受け、解放された数時間後のことだった。



――――――――――



「……………………」


 すっかり意気は消沈していた。


 遥とも連絡は取れず、雨宮さんは俺を見るなり自分の家に逃げるように引っ込んだ。


 友人だと思っていたすべての人から避けられ、逃げられ。


 まるで大学に入学したてのような。


 いや、上京する前の地元のときのような……。


「………………」


 くすん。


 いや、落ち込んでいてもしょうがない。


 遥だけは、遥だけは大丈夫だ。


 大丈夫……大丈夫…………だと、思う。


 今は忙しくて連絡が取れないだけで、会うことが出来れば歓迎してくれるはず…………たぶん。


 すっかり自信は無くなっていた俺だった。


 とにかく、大学に行かないと。


 俺を取り巻く環境がどれだけ不穏だったとしても、必要な単位は変わらない。


 どれだけ落ち込んでいたとしても、単位がないと進級できないのだ。


 とぼとぼとアパートから大学への道程を歩く。


 その足取りは数カ月ぶりの重さだった。


 ………………


 …………


 ……


 はい、何の見どころもない講義の時間は終了!


 レポートはササッと作って提出済み、今日の日課は終了!


 後は遥なんだけど……。


 目の前を二夕見さんが通っていった。


 その隣には志保ちゃんさん。


 二人共俺をチラリと見た後、慌てて目を逸らして立ち去っていく。


 胸にガラスの破片が刺さったかのような痛みが走った。


「………………」


 二夕見さんが俺を見て体を俺に向けてくれようとしたが、それを志保ちゃんさんが止める。


 俺にはもう声をかける気力はない。どうせ逃げられるだろうし。


「はあ」


 近くにあったベンチに座り込む。


 腰を落ち着けると共に、気分は沈んでいく。


 あれ、気分も重力に影響するんだっけ……? そりゃそうか、地球にある全ての物質は全て重力に影響してるんだもんね。可視化出来ない精神作用だってそりゃ重力に引かれるってもんよ。


「……はあ」


 もう一度溜め息。


 真っ青な溜め息で辺りを暗く沈めていく。


 ……おや? 空模様すら沈んできたか? と思ったのも束の間。


 ぽつり、と一滴。それから二滴三滴と。


 雨粒が落ちてきた。


 雨足は途端に強くなり、ベンチに座っていた俺はあっという間に濡れ鼠。


「………………」


 帰ろ。


 結局その日、遥に会えることはなく、電話やメッセも反応は無かった。



――――――――――



「う…………うう…………!!」


 夢を見ていた。


 全ての物が離れて行く夢を。


 手を伸ばせば遠のき、しかし決して見えないところにはいかない。


 だけど届かない、生殺しのような夢。


「うう……!!」


 遥が遠のき、皆遠のいていく。


 だけど皆この街に住んでいる、見かけることはそりゃあ、ある。


 でも届かない。


 全員が見て見ぬふりをする。


 俺の顔が怖くて全員が避けていた、あの頃と一緒だ。


「…………はあっ!!」


 布団から跳ねるように上体を起こす。


 汗でびっしょりだった。


 濡れた服を投げ捨て、新しい服を…………。


 何処だ、新しい服は。


 遥に片付けてもらって以来、自分の服すら管理できなくなっているようだ。


 ……たぶん、これ洗濯済みだよな。


 服を一枚選んでベッドの上に放り投げる。その後タオルを濡らし、首筋を拭く。


「はあ」


 あれ以降溜め息しか出ない。


 映画を布教するマンが調子に乗った末路なのかもしれない。


 まあもう、布教する相手もいないけどな……。


 その時だった。


 ガチャリと俺の家のドアが開く。


「おい昼河……ってきゃあ!?」


 あれ、俺鍵かけてなかった?


 意気消沈しすぎてセキュリティすら甘くなっているとは。


 無造作に現れ可愛らしい声を出したのは。


「…………雨宮さん!?」


 その格好はジャージではなく、まるで外に行くときのようにまともな服装だった。


「どうしたんですか!? 許してくれるんですか!?」


 俺は彼女に詰め寄る、話しかけられた嬉しさで今の自分の状態を忘れていた。


 距離を詰めるのと比例して、雨宮さんの顔はどんどんと赤くなる、しかし俺は気付かない。


「ふ……」


「ふ? 布団を買え!? 福袋買うのに付き合え!? 不織布でマスクを作る!?」


「服を着ろおおおおおおおお!!」


 雨宮さんのその声はアパートの住人全員を起こすほどの声量だったという。



――――――――――



「ここは……」


 雨宮さんに連れてこられたのは、作業場であるマンション。


 話がある、って言ってたけど。どうしてこんなところで?


 しかし舞い上がっている俺は質問など何もせず、ニッコニコで雨宮さんについていく。


 エレベーターを上がり、目的の部屋の扉を開く。


「入れよ」


「はい!」


 促されるまま入室、リビングへと足を進めると。


 パアン、という破裂音、それがいくつも。


 びっくりして身を竦めていると、部屋の電気が点く。


 そこには全員いた。俺を避けていたはずの全員が。


 遥が一歩前に出て、俺に言う。


「お誕生日、おめでとうございます」


 誕生日……?


 俺を見る全員の目は避けている目ではなく、俺を歓迎しているにこやかな視線。


 サプライズ……?


 現実にあったんだな、サプライズって……。


「皆……無視してたワケじゃなかったんだな」


「いやあ、感づかれないために避けてはいましたけどね」


 ひなたがバツが悪そうに笑いながら言う。


 皆俺を嫌ってなかった。


 その事実が、俺の涙腺を崩壊させた。


「じ、ジローさん!?」


 唐突に泣き始める俺を見て、全員が慌てる。


 俺を囲み、慰める声。


 その声を聞いて俺の涙は更に溢れる。


「ご、ごめんなさいジローさん……」


「違う、違うんだ。そうじゃなくて……」


 泣きじゃくる俺から次の言葉が出るまで、皆待ってくれている。


 だから俺も意を決して言うんだ。どれだけ言いにくくても。


――この幸せな雰囲気を壊す言葉だとしても。


「誕生日…………今日じゃないいいい!!」


 だけど、その返答は予想済みとばかりに、全員は笑っていた。


「知ってるわよ、10月30日でしょ」


 霜崎さんが笑顔でそう言うが……。


「違うーっ!」


「え?」


 全員の声がハモった。


 俺の誕生日はそもそも10月ではない。


「11月の30日だよおおおお!」


「え!?」


 またも全員の声がハモる。そして俺以外の視線はひなたへと集まった。


 ひなたは手帳を取り出し、確認。そして。


「……何分走り書きだったもので、字が汚くてゼロとイチを見間違えたみたいです。てへ」


 可愛く笑った。


 しかし全員の胸中は如何程ばかりか。


 全員は俺から少し離れ、円陣を組んでヒソヒソと話している。


 少し話した後、俺に向かってこう言った。


「ジローさん……来月、また一週間ほど避けても良いですか?」


「やだああああああ!!」

読んでいただきありがとうございます。


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