失恋と映画鑑賞会パート2、そしておっぱい
「これより」
真っ暗な一室。
俺は高級そうなソファーに腰掛け、目の前にあるテーブルに肘を置く。
指を組み合わせ、顔の前に置いてから、低い声で言った。
「映画鑑賞会を始める」
パチリ。
唐突に電気が点いた。
「何やってんだお前」
電気を点けた犯人は雨宮さんだった。
視界がひらけたことで改めて見知らぬ部屋を見渡す。
白い壁、三方を囲む大きな窓、一方には立派なベランダ。
部屋の中央には綺麗なデスクが一つ、壁際には上等なソファーと壁にかけられたフラットテレビ。
更に綺麗なシステムキッチン。今まで使われたことが無いであろう程にピカピカである。
事実使ったことはないだろう。それは積み重ねられたカップ麺が物語っていた。
「ちょっと厳かな雰囲気出してみたんですけど」
「愚かな雰囲気しか出てなかったぞ」
失礼な。
この広い室内に集まったのは俺、そして遥。
ひなたに二夕見さん、霜崎さんと志保ちゃんさん。そして。
「ありがとうございます。大きめな部屋貸してもらって」
「あー、まー、使ってなかったし」
この部屋の持ち主である雨宮さんだ。
こんな立派な家あるのに、どうしてあんなボロ家に住んでるのだろうか。こっちに住めばいいのに。
「広いと落ち着かねえんだよ。作業用に借りたまではいいけど、あの家の狭さになれちまってな」
売れっ子小説家ともなれば金の使い方が豪快なんだなあ。
「なんか隣のヤツがすげえうるさくなってな、集中できないから借りたんだけど……結果的に静かすぎるほうが集中できなくなっちまった」
俺じゃないよな。
反対側の人のことだよな。
「フタを開けてみりゃ女とイチャついてるだけのクソ野郎だったけどな」
俺だった。
「この度はご迷惑をおかけしまして……」
平伏。
俺のひれ伏す様子を見て満足いったのか、雨宮さんはにやりと笑い、俺を立たせる。
「まあお前と知り合ったお陰で退屈はしなくなったし、結果オーライってやつ? 面白いしな、お前」
「じゃあクソ野郎はせめて否定を……」
「面白いクソ野郎だな」
愉快な枕詞がつきました。
まあいいや、迷惑をかけてたのは事実だ。
「それで、どうして映画を?」
遥が言う。彼氏がひれ伏してるっていうのにクールね貴女。
俺はゆっくりと、二夕見さんを指差した。
当の本人はきょとんとしているが、今回は……いや、今回もか。彼女のために催した鑑賞会である。
「二夕見さんに人の心を取り戻してもらおうと思ってな!」
「花蓮を人でなしみたいに言うんじゃないわよ!」
志保ちゃんさんの指摘を無視し、俺は様々なラインナップをテーブルの上に並べる。
ここにあるのは大体が心温まるハートフルストーリーである。
恋愛映画もあれば、冒険を糧に少年が成長する活劇など。
この上にあるもの全てを紹介していくのは枚挙に暇がないため割愛する。
「少年少女や男性女性の大人たちまで、色んな人に助けられるのを用意した。これで好意を区別しようという考えだ!」
「でもでも先輩」
「なんだひなた。俺は今気持ちよくなっていたところなんだぞ」
人前で映画を語ることのなんて気持ちの良いことか。
それを邪魔するとはそれでも後輩か。
「どうやってそれ再生するんですか?」
「え」
壁にかけられたテレビを見る。
側面を見てみる。もちろん挿入する場所はない。
周囲を探すが、目当てのものは無かった。
「雨宮さん。ここ再生機器ないんですか」
「あると思うか?」
「………………」
計算外だ!! まさか再生機器がないなんて!!
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
部屋を飛び出し、自宅へと向かう。
徒歩で二十分ほどで到着、テレビからサブスク配信機器をぶち抜いて、ポケットサイズの通信道具を手にした後は部屋を飛び出していく。
おっと、鍵を閉めなければ。
二種類の神器を手にした俺は悠然と雨宮さんの作業場へと舞い戻る。
オートロックを解錠してもらい、意気揚々と入ると。
女性陣がキャッキャしていた。
映画なんて必要なのだろうか、と思えてしまうほどに楽しげである。
見始める前から挫けそうだった。
――――――――――
「と、いうわけでですね」
「そのまま挫けてればよかったのに」
霜崎さんからの痛烈な一言。
心無い一言に俺のメンタルは削られながらも、当初の目的を果たそうとする。
そう、今の俺は映画を布教するマン。
西に嫌がる子どもがいれば、首根っこを抑えつけて映画を見せ。
東に倍速で見るヤツがいれば、カフェインをがぶ飲みさせてむしろスローで視聴させる。
自他共に認めるはた迷惑な存在、それが映画を布教するマンだ。
「ええい見るぞ! 見ないと俺は満足しないぞ!!」
はーい、とやる気のない声が広がる。
くそう、とにかく見るんだ。見てしまえば集中するはずだ。
まず第一弾。
「少年が成長していく冒険活劇!」
子どもということもあり、大人の人や老人の人が助けの手を差し伸べる。
中には騙そうとする大人もいたが、疑う心を持たない少年はすぐに騙されてしまう。
……という、二夕見さんにはうってつけの映画だ!
はい、再生!!
………………はい、終了!
二時間弱の時間を経て、少年の冒険はエンドロールと共に終了を告げる。
見渡してみれば、満足そうな笑みを浮かべるみんな。
うむ、やはり映画を布教するマンはみんなを幸せにするのだ。
「この男の子、大人の力を借りずに全部自分でやれば良かったんじゃないかな」
だが二夕見さんが爆弾を落とした。
感動を冷水で洗い流すかのような行為だった。
「違うだろ! 優しい人や悪い人、色んな人がいるから見極める目をつけようってメタファーの映画だろ!?」
雨宮さんが興奮気味に説明してくれる。うんうんと頷く人が二夕見さんを囲む。
「でも正直言って、この男の子天才だから全部自分で何とか出来たよね?」
身も蓋もない。
紆余曲折を経るからこその映画なのだ。最短距離を進むのは美学に反する。
「それに最後の少し前に男の人に騙されて全部取られた訳じゃない? それがなかったらあの女の子って泣かなくてよかったんじゃないかな」
自分の失敗が他者を傷つけることになってしまった。それを悲しむ見せ場なのだ。
映画にやたらリアリストな指摘をする二夕見さんだった。
「くそ……第二弾! 青春恋愛もの!!」
これは説明不要! 若かりし青春を思い出す恋愛映画の金字塔!
いざ、再生!!
………………終了! 良い映画でした!
心温まる青い春。
こんな青春を味わいたかったと思わせる一作である。
よし、今度こそ……!
「ちょくちょく、主人公の男の子って他の女の子に揺れそうになってたよね」
「………………」
それはそう。
男の子だもの、しょうがない。
これは誰も反論が出来なかったようだ。
「だけど最終的にはうまくいってよかったよね」
お?
これは、まさか頑張りが実ったか!?
ついに人の好意を理解できるように…………。
うんうんと頷きながらポップコーンを一口入れる二夕見さん。
………………。
「志保ちゃんさん。これただ単に映画楽しんだだけじゃない?」
「何を今更」
映画は人生の教科書という一説がある。
それには諸手を挙げて大賛成だ、ファンタジーからリアルな映画まで、幅広く無数な映画が存在する。
それらは全て俺たちの感受性を高め、新たなストーリーを創造させる可能性を秘めているのだ。
つまり何が言いたいかというと。
「映画最高!!」
右手を天高く突き上げてアピール。
しかし誰も乗ってこなかった。
無言で拳を下ろし、やり場のない興奮を迷子にさせる。
「さあ、次だ!!」
「まだ見るんですかー?」
ひなたは疲れ気味だった。
いや、ひなただけじゃない。全員疲れ気味だった。
ぶっ続けで二本。たった二本だ。
されど二本か? 否、たった二本だ。
「第三弾! ちょっとえっちな恋愛映画!!」
とはいえR15指定なだけである。描写としても成人向けにしてはたかが知れている。
浮気と不倫を繰り返す男女が、最終的にくっつく。簡潔に説明すればそれだけだが。
愛憎渦巻く人間感情が見どころなのだ。
いざ、疲れている皆を差し置いて……再生!!
はい終了!!
濡れ場なんて気にする余裕がないくらいの人間ドラマであった。
「おっぱい綺麗だったね」
おい今言ったの誰だ。
「ね。あんな綺麗なおっぱいあるんだね」
おっぱいおっぱい言うな。
全員がおっぱいに盛り上がる。
俺は混ざるわけにもいかず、疎外感に打ちひしがれる。
「さすが女優って感じなのかな?」
まーだ続くの。居た堪れないわよ。
第四弾と行きたいところだったが。
全員注目したのが女優の乳房、そしてその感想は今までの映画よりも一番長かった。
そしておっぱいで満足したのか、解散の運びとなった。
…………あれ、今日何しに来たんだっけ。
「……………………」
まあ映画見れたしいっか!!
「はよ帰れや」
雨宮さんに蹴り出されて今日一日は終わった。終わってしまった。
読んでいただきありがとうございます。
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