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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と暗躍しているかもしれないファミレス戦士


「さあ」


 ドン、とグラスが置かれる。


 力強く置いたグラスの中の液体がゆらゆらと揺れ、テーブルの上に幾つか跳ねて零れ落ちた。


「説明してもらいましょうか」


 俺は無言でこぼれた飲み物を紙ナプキンで拭き取った。


 ここはファミレス。


 俺と遥、二夕見さんと志保ちゃんさんと並んで座って向かい合う。


 ドリンクバーで飲み物を入れてきた遥は、未だ怒りが冷めやらぬといった様子。


 それもそうか、大学のど真ん中で抱きついてたのを見りゃな……。


「ジローさん、何他人事みたいな顔してるんですか!」


「ハイ、ゴメンナサイ!!」


 俺も渦中の人物であることは間違いない。


 しかしながら俺からすれば不可抗力、避けようのない事態であることは疑いようがなかった。だが俺は何も言わない。余計に怒らせることになると知っているからだ。


 それが俺の処世術。


「なんか余計なこと考えてるでしょう!?」


「ハイ、ゴメンナサイ!!」


 読心術を用いることができる彼女、遥。


 ふう、と息を吐いて店の中を見渡す。


 昼ご飯の時間帯は過ぎ、平日ということもあり客はまばら。


 やたらと頻繁にお冷を注ぎに来るウェイターがやたら視界に入るのがウザいのを除けば、静かな店内だった。


「友達になること自体は構わないと思ってましたけど、過度なスキンシップをするなら…………うう、でもジローさんに友達は少ないし……」


 そこの遥さん、悲しいことで頭を悩ませないでくださいな。


 俺も釣られて悲しくなっちゃう。まあ俺の話なんだけどな。


「なんて言えばいいのかな……訳アリって言ったでしょ?」


 頷く俺と遥。当の二夕見さんは何がいけないのかわからないという表情をしていた。


「花蓮、この子はね……人の好意を判別出来ないの」


「…………?」


 首を傾げる俺と遥。


 なんか関係あるんだろうか。


「例えばなんだけど……ジロー」


「ん? ぶはっ!?」


 志保ちゃんさんは∨ネックの胸元を更に下げ、谷間を露わに。


「ちょ、なにして……!?」


「朝野さん、貴女は今のジローがえっちな目線してたのが判ったわよね」


「そりゃそうでしょう!」


「だけど花蓮は判らないの」


 待って、谷間が脳裏に焼き付いて話が頭に入ってこない。


 谷間が判らないって話だったっけ? 違うか。


「友人からの優しさ、親からの優しさ、他人からの優しさ。これら全てがベクトルが違うのはわかるでしょ」


 友人からなら喜んで欲しいという純粋な好意だろう。


 親からなら子どもに幸せに思って欲しいという愛情から来る。


 しかし、他人からというのは……?


「下心、詐取といった自らの利益のため、ですかね」


 悩んでいた答えを遥が言ってくれた。


 なるほど、他人からの優しさは利己的な事を意味するのか。


「これは大まかに三つに分けただけどね、花蓮は全部が一緒に見えちゃってる」


 わかるものだろう? と言いたいが。


 それはあくまで俺の尺度、それで他の人は測れない。


「それで……高校時代にはちょっとしたトラブルに巻き込まれて、それが原因で花蓮は人を遠ざけだしたの」


 ふむ……23話を参照ってやつだな。


「だから、自分から心を開いた人には……ちょっと、スキンシップが過剰になる時があるのよね」


「ちょっと……? あれが?」


 遥の疑問の声も尤もだ。


 あの顔の距離の近さ、普通の人であれば勘違いすること請け合いだろう。


 しかし、何故だろうか。


 あの時の二夕見さんからは、ドキドキしなかった。


「遥、ちょっといいかな」


「はい? ってちょっと!?」


 隣に座る遥を抱きしめる。


 その後、鼻先がくっつきそうな距離まで顔を近づけ、瞳を覗き込んだ。


「……………………」


 ごくり、と遥から唾を飲み下す音が聞こえた。


 そして……目を閉じる。


 その一連の所作を見てると、胸が高鳴るし、正直興奮する。


 これらは全て二夕見さんと行った時は感じなかった感情。


「ありがとう、やっぱりか」


「え? え……?」


 物足りなさそうな表情だった。俺もちょっともったいないことしたと思ったけど。


 ここ公共の場だぜ!?


「びっくりした……キスするのかと」


「出来るならしたかった」


「するのかと思ってました……」


 全ての流れを黙って見続けていた二夕見さん。


 彼女の顔は赤かった。


「こんな所で……大胆なんだね」


 そうだよな、これが普通の反応だ。


 でも自分の時はそうはならなかった。


「でも、大学の敷地内で二夕見さんも同じことを俺にしたんだけど」


「………………あれ? そういえば?」


「あの時も、同じ気持ちだった?」


 小さく首を振る。


 ウェイターの男が隣のテーブルの紙ナプキンを補充に来た。


「遥、たぶん志保ちゃんさんが言うことは真実なんだよ」


「と、言いますと?」


「今さっき、俺たち抱き合って顔付き合わせたけどさ、恥ずかしかったよな」


 はい、と頷いて顔を赤らめる遥。可愛い。ってそれどころじゃない。


「ぶっちゃけ、興奮したよな」


「え、いや、なっ………………はい」


 ここがファミレスじゃなかったらなー!!


 ここが俺の家だったらなー!!


 あーもー!!


「…………私ら、何見せられてるんだろうね」


「……うん、ちょっと複雑」


 おっと、観客がいるんだった。


 咳払いをしたあと、ありもしない襟を正す。


「二夕見さんのはそれこそ、スキンシップの延長なんだ、言ってしまえば手をつなぐのと同じ感覚なんだよ」


 理解できない、と言った表情。


「二夕見さん」


 それなら、と言葉の向きを変えることにした。


 ん? と小首を傾げてくる。


「俺と君は、友達だよな?」


「うん」


 ほら。


 それ以上でもそれ以下でもない。


 だからこそ抱きつかれてドキドキもしないし、興奮もしなかったのだ。


 友情以上の感情を感じなかったのだ。


「今は、だけどね」


「……花蓮?」


 あれー?


 なんか質問を間違った気がするぞう?


「今は、というのは?」


 すかさず遥が問い質す。そりゃそうだよな。


 二夕見さんは俺を見る、そして笑顔に。


 とんでもなくデカいヤブに棒を突っ込んだか?


「いずれは親友になりたい、かな」


「親友、ですか」


「うん。私は気心知れた友達が欲しいの。それは異性でもいいし、同性でもいい。一緒にいれば落ち着く人が欲しいの」


 そう述べる二夕見さんの顔に嘘はない。


 彼女にそこまで詳しいとは言えないが、嘘はないと、そう思えた。


「…………わかる!!」


「ジローさん!?」


「昼河くん……!」


 俺は滝のような涙を流し、二夕見さんの両肩を掴むべくテーブルを立ち上がる。


 その際に、周囲のテーブルを拭き続けるウェイターとぶつかりそうになった。さっきからずっと周囲にいる気がするなこの従業員。


 まあそれはともかく。


「俺も顔が怖い怖いと言われて幾星霜! 真に落ち着ける場所は自分の家だけだった!」


 だけど今は違う。


 女ばかりで優柔不断のハーレム野郎と世界の何処かで罵られていたとしても。


「今の俺には気軽に喋れる友達がいる! 友達がいるってなんて素晴らしいんだ!!」


 ビバ! 友人!


 ブラボー! フレンド!


「…………なんか盛り上がってるけど?」


 涙を流して友人の大切さを共感し合う俺と二夕見さんを余所に、呆れたように志保ちゃんさんが遥に向かって言う。


 俺たち二人を見て、何かを言おうと口を戦慄かせたが。


「…………ああもうっ! わかりましたよっ!!」


 認めるより他無くなったのだろう。


 それは決して許したというわけではなく、致し方なし、という声の絞り方だった。


「だけど! 粘膜接触だけは絶対禁止ですからね!!」


「するわけないよ、ねー?」


 二夕見さんが明るく言い返してくる。


 だから俺も。


「ねー?」


 女子みたいなノリで言い返した。


「……なんかムカつくんだけど」


「……同感です」


 その後、ドリンクバーを満喫した後解散の運びとなった。


 俺と遥は、商店街方面へと向かうので逆方向へ。


 ファミレスの前で二組になって解散することに。


 解散して少しした後、遥が口を開く。


「……ジローさんは、私のものですからね?」


 それは少し不安そうな声で。


「ああ、当たり前だ」


 俺はその不安をかき消すべく、絡めた指に力を込めた。



――――――――――



 一方、その頃。


「……ナイスアシスト、志保ちゃん」


「嘘をつく時に半分は本当のことを混ぜればいいっていうの、あれ本当なのね……。でも花蓮、あれはやりすぎだと思う」


「だけど、昼河くんの周りの子はみんな魅力的だから……いつも通りだと、負けちゃうから」


「自分で振ったのにね」


「もう! それはもう言わないでよ!!」

読んでいただきありがとうございます。


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