失恋と速報です、シリアスモードに入ります。
2/24 誤字修正。報告ありがとうございます!
いやいや。
いやいやいや……。
「早く行くぞ!!」
ちょっと待ってくれ。
友人が一目惚れしたという女の子を探しに来た。そこまではいい。
その相手が、俺の彼女?
そんな映画みたいなことある?
俺の動揺を余所に、夕夜はどんどんと前に進んで行く。
「ちょ、待っ……」
夕夜の腕を掴まんと伸ばした手は、あと一歩と言うところで届かずに宙を空振った。
無情にも夕夜は遥の前に立ちはだかる。
その隣に俺も立つ。
「あっ、ジローさん………………って、え……?」
俺を見て顔を輝かせたと思うと、隣の夕夜を見た途端表情が固まった。
遥の手に持ったビニール袋が指から離れ、ガサリという音と共に地に落ちた。
中身は自治体指定のゴミ袋。まあ……そんなことはどうでもよくて。
遥のこの反応は一体?
「次郎……知り合いなのか?」
「……お前こそ?」
少なくとも初対面の人にする反応ではないだろう。
しかし当の夕夜は身に覚えが無いらしく、小首を傾げて否定をアピール。
「…………もう忘れたっていうんですか」
遥から放たれる低い声は、普段聞いている明るい声とはまったくの真逆。
その低い声を全身に受け、夕夜は頬を指先で掻きながら照れ笑い。
「ごめん、何処かで会ったっけ。その美しさなら忘れるわけがないと思うんだけど……」
「………………」
そんな表情は初めて見た。
俺に向けられたわけじゃない。だけど、そんな表情を見ていたくない。
思わず俺は夕夜と遥の間に割り込むように体を滑り込ませる。
「……ジローさん?」「次郎?」
「…………と、とりあえず、静かな場所で話そう。ここは……目立つから」
夕方の商店街。
音質の悪い軽快な音楽と好奇な視線を数多に受ける。
俺はしゃがみ込んで、遥の落としたビニール袋を拾い上げた。
――――――――――
商店街から少し外れた場所にある住宅街の中。
そこにぽつんと設置された児童公園。
数々の事故や老朽化により遊具はほとんど設置されておらず、残されたのは小さな滑り台。
そして山型遊具と呼ばれる前面が滑り台、背面と側面がデコボコの石で登るように作られた比較的大きな遊具のみ。
こりゃもう滑り台公園だね!
………………。
ああ、もうそういう空気じゃない? じゃあシリアスモードで。
空は既に闇が落ち、光源は公園に設置された細い街灯のみ。
それすらもたまにジジ……と点滅を繰り返す。
俺は遥の隣に立ち、夕夜と向かい合う。
「えー……俺は昼河 次郎」
「…………」
誰も何も言わない。さっき自分でシリアスモードって言ったのにな。
「んで、この子は朝野 遥。……俺の彼女」
「え、彼女? マジで?」
ああ、と頷く。
「んで遥、こいつが――」
「夜見 夕夜……さん」
そうだ、商店街でもそれを聞こうと思ってたんだ。
どうして、夕夜を知ってるのか。
尋ねようと口を開くが、先に遥が息を漏らす。
自嘲的な笑みと共に。
「覚えてるわけないですよね。所詮私は限られた曜日の限られた時間に会う、沢山いるうちの一人でしたしね」
「……………………」
それって。
もしかして。いやもしかしなくても。
「……えーと」
未だ掴めていない夕夜だけが置いてけぼり。
俺は、理解した。
してしまった。
夕夜は、遥の――元カレ、か。
「まだわかりませんか。私は――」
遥が言うより早く、俺の手が出た。
俺が今まで握ったこともない固く握った拳は、油断していた夕夜の左頬にめり込む。
「がっ!?」
「ジローさん!?」
首を右方向に曲げながら、上体バランスが崩れる夕夜。そうしたのは俺だが。
首を戻すと同時に俺を睨みつける。
「次郎、何しやが……!」
夕夜の胸ぐらを掴み上げる。
「夕夜。お前二ヶ月前の火曜と木曜の午前担当、覚えてるか」
「あ……? そんなもん覚えてるわけ……っていうか、なんで今そんな事……」
掴んだ手に更に力がこもるのがわかった。
「遥がその担当の子なんだよ!! お前に振られたあの日、遥は自殺しようとしてたんだぞ!!」
「………………」
吊り上げた夕夜の目が落ちていく。
俺の手を振り払おうと俺の手首を掴んでいた腕が、離れていった。
「自殺って……なんでそんなこと……だって、俺と付き合うヤツは称号が欲しいだけだろ。俺は相手に自慢するためのアクセサリーだろ?」
「お前の人生だ、お前の好きにしたらいい。だけどな、人は装飾品じゃないだろ!」
そりゃ……中にも相手にマウント取るために交際を始めるやつだっているだろう。
そういった人間ばかり寄ってきたからこそ、夕夜の価値観が歪んでしまったのかもしれない。
俺とは無関係の人間だったのなら、大変だなあと同情しただろう。
しかし俺の彼女が相手なら話は別だ。
自己中心的? 構わない、俺は俺の目に入る物だけを大事にしていくんだ。
「人を見ろ。個人を見ろ。先入観で見れないっていうなら、女と付き合うのをやめちまえ」
掴んだ胸ぐらを離す。
夕夜はフラフラと後ろに二歩、三歩と後退り、細い街灯へと背中を預けた。
街灯は夕夜の体重でグラグラとしなる。
「…………夕夜さん」
夕夜は何も答えない。
「私のこと、思い出しましたか?」
まだ何も答えない。
耳に届いていないわけじゃない。答えられないのだ。
つまりそれが、答え。
「私は貴方に告白してOKを貰ったあの日、嬉しくてとても舞い上がりました」
……うーん、聞きたくないな。
「舞い上がって舞い上がって…………今の私ならわかります。あれはまるで熱に浮かされているようでした」
遥は自分の胸に手を添える。
「あれは病気だったんです。どうすれば好かれるのか、どうすれば嫌われないのか。そんなことばかり考えていました」
それはとても虚無だったという。
のれんに腕押し、ぬかに釘。
夕夜がそもそも遥個人を理解しようとしていない以上、どれだけ尽くしても尽くしても……。
どれだけ打っても、響くことは無かった。
「毎日毎日焦って焦って。せめて一緒にいるときだけは役に立とうと。料理や洗濯、掃除を頑張りました」
「…………料理、洗濯……掃除?」
覚えがあるのだろうか。
夕夜は目線を下に落としたままぼそりと呟いた。
「それでも私は数ある内の一人でしかありませんでした。詰め寄った私になんて言ったか……覚えてますか? 覚えてませんよね『うるせえなあ、じゃあもういいよお前』……ですよ」
怒りが湧く。
だけど今は俺のターンじゃない。俺が出る幕じゃない。
「その夜にジローさんと出会いました。最初こそ邪魔されたことに怒りを感じましたが……」
いや……異世界転生は無理だろう。本の世界の話じゃないんだから。
「今はとても満たされてるんです。じっくりとしっかりと理解していってくれるジローさんに」
またも遥は自分の胸に手を添える。しかしそれは先程とは行動の意味合いが違うように見えた。
さっきとは違い、表情に光が灯る。
幸せそうな笑みが口端から漏れていた。
「私はもうジローさんの一部なんです、焦らなくてもジローさんは待ってくれますから。………………まあ、ジローさんの周囲には女性が沢山いるので? それで少し焦るというのはありますけど?」
いかん、何故か俺に流れ弾が。
「ジローさん何処行くんですか」
逃げようとしたのがバレた。
「飲み物でも……買ってこようかなって?」
遥は満面の笑みを見せ、小さく手招きした。ちょっと怖い。
大人しく従うのが吉と、今日の朝のテレビの占いで言ってた。
隣に立った俺の腕に、遥は自分の腕を絡める。
「だから、夜見 夕夜さん。貴方が何の用で来たのかはわかりませんが……もう、私の人生に関わってこないでください」
ピシャリと。
それは紛れもない絶縁宣言だった。
夕夜は項垂れ続けている。
それは運命の人だと思っていたのが彼氏持ちだったから?
それとも振った相手が自殺をしようとしていたから?
彼の心の中まで覗くことは出来ない、だが恐らく……これで良いんだろう。
「夕夜。お前が個人を見ようとしない限り、お前はずっとアクセサリーのままだよ」
何も言わない夕夜の横を抜け、俺と遥は公園から立ち去った。
歩く度にビニール袋がガサガサと音を立てる。
「今日……家に泊まるか?」
悲しみや怒りを無くすことは出来ないけど、癒すことなら出来る。
「んー……それもいいですけど、まずはこれを置きに戻らないと」
そういって見せるのはビニール袋。
「だいぶ時間が経ってるから怒ってるかな……うわ、電話がいっぱいかかってきてましたよ!?」
着信履歴には『お父さん』という文字がズラリ。
心配しているのか、帰りが遅いことに怒っているのかはともかく。
「早く戻らないとな」
「はい、行きましょう!」
少しだけ早足で、帰り道を進む。
そして歩きながら俺は声を掛けた。
「遥」
「はい?」
「俺は、朝野 遥っていう女性が、大好きだ」
遥が足を止める。
俺も慌てて足を止めると、背後で遥が声を上げた。
「……今そんな事言われたら、我慢できるわけないじゃないですか」
「え?」
飛びつくように俺の首に腕を回し。
俺の唇に唇を押し付けた。
とても長い時間の後、ようやく離れ。
遥は笑顔でこう言った。
「ジローさん…………大好きです!!」
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