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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋とチャラ男の一目惚れ


 コンビニのバイト中のことである。


「次郎……」


 ボーっとした表情で自動ドアをくぐってきたのは。


「夕夜じゃん」


 ホストみたいな名前のチャラ男こと、夜見夕夜である。


 心はここにあらず、四肢に力が入らないかのような、まるで幽鬼のようにフラフラと寄ってきた。


「なんだ、風邪か?」


「どうだろ……違う気がするんだけど」


 レジカウンターに突っ伏す。邪魔だった。


 同じシフトの人にレジを変わってもらい、夕夜をレジカウンターから引っ剥がす。



「今暇だし、様子見てあげて。どう見ても健康じゃなさそうだし」


「すいません、ありがとうございます」



 快く変わってくれたおばさんに礼を言い、コンビニの外へ。


 店舗の窓ガラスにもたれるように連れてくると、ずるずると尻から崩れ落ちた。


「お前どうしたんだ?」


「聞いてくれるか?」


 うん……まあ、聞かないと仕事の邪魔されそうだし。


「もちろんだ」


 今日一番いい笑顔で言った。


 夕夜は顔を上げて、空を見る。


 自信満々な精悍な顔付きは鳴りを潜め、まるで夢遊病のようである。


 ……あれ、そういえばこいつなんで俺のバイト先知ってるんだろう。


「実はな…………」


 言ったっけ? いや言ってない気がするんだけどなあ。


 電話をすることはちょいちょいあるけど、実際に会うことは少ないしなあ。


「実は、俺…………」


 そういえばこの前酔っ払い二人組を拾いに行った時は助かったな。


 あれ、今度改めて礼を言おうと思ってたけど……言ったっけ?


「俺……一目惚れした」


 言ったような……言ってないような……。


 待て、発信履歴を見ればわかるはず。


「………………」


 うーん、やっぱりしてないか。


 ということは言ってないんだな。この恩知らず!!


「聞いてるか?」


「ん? ああ、ありがとな」


「………………」


「………………」


 なんだろう、この無言。


 あれ、そういえば何か言ってたような。


「ごめん、もう一回言ってくれ」


「俺、一目惚れしたんだ」


 ………………は?


 このチャラ男が?


「ごめん、もう一回言ってくれ」


「一目惚れ、した、俺」


 ふむ。


 一目惚れしたのか。


「じゃあ仕事に戻るわ」


「おい! 相談に乗ってくれよ!!」


「お前なら声かけて告白すれば一瞬だろーが!!」


 何人彼女がいると思ってんだ。


「それが出来れば苦労しねえよ! なんか怖くて声かけられねえんだよ!」


「それでもホストか!?」


「カプセルトイの営業ですけど!!」


 そういえばそうだったな。名前だけでホストだと思い込んでた。


 しかし、このチャラ男がねえ。一目惚れねえ。


「どんな子なんだ?」


 その一言を待ってました、と言わんばかりに目に生気が宿りはじめた。


 口はニヤケ顔を隠せず、まるでハンガーを差し込んだように口角が上がる。


「そこの商店街で見かけたんだけどよ、笑顔がすっっっっっげえ可愛いんだ」


「はあ」


「髪の毛も綺麗な黒髪でよ、飾り気もなくただ纏めてるだけっつーのがこれまた逆に美人に見えてな」


「へえ」


「買い物袋を持って行ったから何処かで働いてる子だと思うんだけど、流石に後をつけるのは変態っぽくて気が咎めてな」


「ほお」


「…………聞いてるか?」


「聞いてるよ。聞いといてなんだけど興味がないだけだ」


 何が楽しくて一目惚れした話を聞かにゃならんのだ。


 それに、俺に言ってどうする気なんだろうこいつは。


「だからよ、俺と一緒にその子を探して欲しいんだよ」


 何がだからなのか。


 その接続詞の使い方間違ってないか。


「俺、バイト中、お前、ニート」


「営業だっつってんだろうが」


「仕事中だから無理だってんだ! わかれよ!」


「待つよ! 終わるまで待ってるよ!」


 ええー……? そこまでー……?


 ガチ過ぎて引くわー。


「ガチ過ぎて引くわー、みたいな顔してんな」


「あ、やっぱわかる?」


「助けてくれよ! この前酔っ払いから助けただろ!?」


 ぐ、それを言われると。


 貸しがあるなら貸しを返しなさいとマタイにも記されている。


 面倒だけど仕方ないか。面倒だけど。


「面倒だけどわかった。付き合うよ。面倒だけど」


「何度も言うんじゃねえよ、傷つくだろうが」


 お前はそんなんで傷つくようなタマじゃないだろ。


「じゃあバイト後にな」


「後どれだけ時間あるんだ?」


「17時までだから……後五時間だな」


「おう!」


 長いとは思わないのか。こいつの妙な行動力にはドン引…………いや、驚かされる。


 コンビニの中に入ると、同僚のおばさんがレジにまだ入っていてくれていた。



「おかえりなさい、あのイケメンの子大丈夫だったの?」


「ええ、はい。ただのホストの一目惚れでした」


「河童の川流れみたいな言い方で言うのね」



 こうしてバイトの時間は過ぎていく。


 空は茜色を過ぎ、瞑色に変わりつつある。


 ずっと同じ場所で座り込んでいたのか、店内に戻ったときと同じポーズのままの夕夜がいた。


「お疲れ」


「……まだいたんだな」


「そらいるだろ、約束したんだから」


 長すぎて諦めて帰るかと思ってたが。


 しかし五時間前の出来事だ、今出掛けて会うことなんて出来るのか……?


「行くぞ次郎!」


「はいはい……」


 げんなりと息を吐きながら、勇ましく進む夕夜の後ろをついていくのであった。



――――――――――



 そして商店街。


 夕方ということもあって、今日一番の賑わいを見せている。


 商店街に備え付けられた拡声器から聞こえてくるのは音質の悪い有線BGM。


 様々な食品を扱う店舗からは話し合う声や客引きの声。


 揚げ物の匂いや鉄板焼きのソースの匂いなど、芳しい香りが鼻腔をくすぐる。


「腹減ったな……」


「マジメにやってくれよ!」


 と言われても。


 黒髪を纏めてて笑顔が可愛い美人って。


 俺に判断できるわけがないだろう。


 夕夜が見つけるまで俺に出来ることは何一つ無いのだ。


「あれ、兄ちゃん何してんだ?」


「あ、喫茶店の常連のハ………………ジョーさん、だったっけ」


「おい今なに言いかけたコラ」


「はなまるダンディーです」


「ならいいけどよ」


 いいんだ。


 商店街の入口に立ち尽くす俺たち二人を見つけたのは、喫茶店の常連四人組の一人。


 最も頭皮がよく見えるため、よくない名称で記憶していたのだ。


 名前はこの前フジさんが呼んだことで覚えた。


「ジョーさんは仕事帰り?」


 ワイシャツにスラックス、いかにもクールビズなサラリーマンって感じの服装である。


 おまけにビジネスバッグも持っていた。


「ん? ああ、そうだよ。んで二人は何してんだ?」


「この茶髪くんの運命の相手を待ってるんです」


「……は?」


 かくかくしかじか。


 掻い摘んで説明する。


「つまり、そこの雑貨屋で何かを買った何処かの美女を探してる、と?」


「そういうことです」


 雑貨屋。故に何を買ったかを詮索しづらく、何処で働いている子なのか推測しづらい。


「はー……若いっていいねえ。まあ頑張ってくれや」


「はい。奥さんによろしく」


「離婚してねえからな!!」


 誰もそんな事言ってないのに。


 日は沈み、後頭部は商店街の街灯に照らされる。


「………………」


 こっわ、振り返ってきた。


 笑顔で手を振って見送る。


 そのまま雑踏の中に消えていった。


「次郎、意外と顔が広いんだな」


「と、いうわけでもないさ。いきつけの喫茶店の常連仲間ってだけだから」


「ふうん………………ああっ!!」


 唐突に大声を上げて、指を差す夕夜。びっくりしたわ。


 指差す方向は件の雑貨屋。


 その店舗に入っていった後ろ姿は。


「……………………え?」


 見覚えがあった。


 いや、見覚えがあるどころの話じゃない。よく見ている背中だった。


 喫茶店で、大学で…………俺の家で。


「あの子だよあの子!! 俺の運命の相手!」


「………………」


 …………遥?

読んでいただきありがとうございます。


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